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329.私見
しおりを挟む魔力無き――“力”。
ジャニスティの苦痛を察し心を気遣ったオニキスの言葉と、優しい笑み。
それはまるで親が子を思い導く光と痛みを癒す、包容力のようであった。
「それにさっきも言ったがね。この店は『皆が笑える、腹を割って話せる楽しい場所』なのだから。なぁ、エデ」
「えぇそうですよ、もちろんですとも! 此処は皆の家、素敵な場所でありますぞ」
私見を話したオニキスが同意を求めるのはもちろんエデだ。その彼も微笑みながら、答える。
温かい二人の言葉はジャニスティの心奥深くにある冷たいものを溶かし彼が背負う氷の重圧をゆっくりと、しかし確実に和らげていく。
そして――。
「分かりました……だんッ! あ、いぇ!! オニキス」
「あっはは、無理に呼べとは言わないが。まぁいつも通り、普通にしてくれればというお願いのようなものだ」
笑う声と穏やかな空気感のおかげで頭の中でぐるぐるとしていたいらぬ心配や緊張なども解れていることに気付き、軽くなる。
それから程なくしてエデもまた彼に、声をかけた。
「ん~さて、と。坊ちゃま? 我々の情報交換や討論も、だいぶ行き詰ってきたところです。そこで、そろそろ本日の馬車で聞きそびれた話を、聞かせてもらっても……良いですかな?」
「あぁ……うん」
(そうか、きっとエデは)
ジャニスティは自分が言いにくそうにしていた姿に今この時、話を切り出しやすいよう流れを作ってくれたのだろうと解り、胸が熱くなる。
(私が話すことを躊躇う理由や、話の内容を聞かずとも……悩み苦しんでいることが、二人には解っているんだな)
心の中でそう思いながら顔を上げるとそこには真っ直ぐに、壁の向こうを見つめるオニキス。その視線はまるで明るい未来を確信するように希望の眼差しで楽しそうな笑い声のする酒場の方を、向いていた。
(何時如何なる時も、貴方の鷹揚なその姿は、見惚れ憧れる)
その瞬間、ふと目が合う。
するとオニキスはテーブルに腕を置くとジャニスティの迷いがある困惑の表情に微笑み、一言。
その背中を後押しするように、口を開く。
「それは、私も聞いていい話かい? 良ければ聞きたいが」
「んぁえ? えぇ、まぁ、はぃ」
ドクン――。
「あぁ、いやいや! ははは、無理にとは言わないが」
「いいえ! そんなことは……なぃ」
(違うんだ、オニキス……『無理に』とかではない。この報告は貴方にこそ、告げなければならない事実。そして貴方へ、聞かなければならないんだ)
――真実を。
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