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349.熟思
しおりを挟むジャニスティは心苦しさの中それでも、ありのままを伝えていく。
「恐らくその時、フォル様が貴方の傍にいらっしゃらなかったのではないかと思われますが」
「あぁ、ベリルの死の知らせを聞き飛んでいった。その一時、フォルは傍にいなかったのだ。やはり私の無力さが、ベルメルシア家の皆を苦しめるきっかけとなっていた……」
いまさら後悔しても仕方のないことだと頭では理解している。それでもオニキスは過去の自分がもっと強靭な精神力を持ち、しっかりしていればと悔しい気持ちと心臓をえぐられる様な気分は、拭えない。
「オニキス……いえ、旦那様! そんなことはないと私は思います」
「ジャニー。優しさは有難いが、気休めは――」
「気休めではありません! 魔力がなくても貴方が心に抱くベリル様への深い愛情は証明されている。スピナ様が刺した毒にも決して、負けてはいなかったのですから」
「それは坊ちゃま、どういうことですかな?」
エデは“ベルメルシア家専属の御者”に戻り話を細かく、分析し始める。
「実はスピナ様は、こうも言っていたのです」
――『オニキスは私が特別に調合し作ったあの媚毒を口にしても、効き目に偏りがあってね。私が側にいることを受け入れはしたし、何をしても文句ひとつ言わない。でもね、私を愛してくれることは……絶対になかった』
ジャニスティはスピナがカオメドへ説明した言葉を一言一句、間違う事のないように二人へと伝えた。その内容がもしや彼女が持つ謎の魔力を分析する手がかりや解決策に繋がる可能性を秘めていると、彼なりに思案していたからである。
「愛すること……確かにそうだな。スピナはいつも側にいて、それ自体を拒否できなかった。しかし私は、彼女に愛を感じたことは一度もない」
「えぇ、それです! だからこそ貴方は、どんなに魔毒の効果があり言い寄られようともスピナ様と関係は持たず、婚姻関係を結ぶこともなかった。貴方とベリル様との深い愛が、強い魔力をも無効化する……スピナ様が計画した悪策を、回避し続けたのだと私は考えます」
「そうか。ありがとうジャニス。その言葉で私は救われた気持ちだ」
「ほぅ……」
(坊ちゃまが愛を語るとは。ずいぶんと変わられた)
――何が君を、そこまで押し上げたかね?
二人のやり取りを黙って見つめるエデは感慨深い思いに、目を閉じる。そんなエデにはなぜ、ジャニスティが急に心の変化と成長を見せ始めたのか?
その理由を、知っているのだ。
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