レヴシャラ~夢想のくちびるは魔法のキスに抱かれて~

菜乃ひめ可

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382.意力

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 自分の背よりも高い位置にあったその本を手に取ったジャニスティは置かれていた場所を再度、見つめる。

(錯覚だろうか。何か光っているような気がしたんだが)

 思えば会合の後からずっと仮眠もとらず、短時間で花に関する情報だけを集め続けている。それが原因なのか? 所狭しと並ぶ書物の中でも本棚のその部分――『花の舞う言葉たち』の背表紙だけがキラリと光輝いて見えた。

「疲れか……」
(いや、待て。違う)

「昨日もだった。此処だけが眩しく、光輝くように見えて」

 何故か目に留まり瞳の奥まで、映り込む。
 気付けば手を伸ばしていた。



――此処に並ぶ書物全て。
 生命を持つわけでも、心があるわけでもない。もちろん言葉を発することも、音を立てることも決してないのだ。

 それらは単に紙を美しく束に重ね綴じた、長方形の冊子たち。それでも大きな力を感じる。読む者の視覚から脳に響き、心に聴こえてくるのは文字の“声”。

 意力を、掴まれる。

 そしてジャニスティがまるで呼び込まれるように立ち止まり迷いなく取った花の本(花の舞う言葉たち)には“特別な何か”を感じさせる不思議な感覚があった。

 それが彼を導き、突き動かす。



 昨夜の会合にてオニキスとエデから聞いた話や書庫にある“隠し扉の秘密”を知ったジャニスティは、“前ベルメルシア家当主ベリル”という人物の偉大さを思う。その敬う気持ちを胸に今、改めてこの本を手に取った瞬間――彼は驚く。

 掴んだ手から流れ込んでくる、熱い力。身体中の血液は一気にドクドクと鳴る心臓から全身へと、巡ってゆく。

(何だ、この生命力は!?)

 花について描かれた、ただそれだけの書物。もちろん恐怖を感じたわけではない。しかし身動きが取りづらくなっていた。

 もう少しで何かが繋がるような、気がかりだった空白の部分に解決の糸口となるような考えが“カチリッ”と、はまった音が聞こえた。

――まさか、な。
(どれだけ信頼されようと、皆から頼ってもらえたとしても。我があるじに忠誠を誓い、この身を捧げようとも……そう、私は。ベルメルシア家の者ではないのだから)

 信じられないという気持ちと自分に与えられた使命かもしれないという、相反する気持ちがジャニスティの頭の中でぶつかる。

(だが、もしかしたら?)

 コツ……コツ……コツン……――。


「貴方は……このベルメルシア家を護るために、大事なことを私に伝えようとして下さっているのか?」

 彼はそう呟き、静かに隠し扉に触れた。
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