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407.憂懼
しおりを挟む――『決して自分を見失うことはない』
そう誓ったつい先程。
ベリルから問われた誰しもが抱く“邪心”を今後も抑えられるかとの言葉を心の中で呪文のように唱えながらジャニスティは深呼吸を二回、乱れかけた精神を整える。
その数十秒間、待っていると感じさせないベリルの動きはゆっくり、じっくりと、瞬きをした後で口を開いた。
『もう何年前になるのか……私とスピナ様との出会いは学校でしたわ。早くに両親を亡くし、一人っ子で育った私にとって二歳年上だった彼女は姉のような存在。そして本当に素敵な優しい方で。大変良くしてもらいましたの』
しかしある日、スピナの家であるルシェソール家で起きた不幸は屋敷を全焼する程の火事だった。それからというものスピナの様子は次第に変化していきそれをベリル自身も日に日に感じ憂懼する気持ちが増していった。
二人が出会ってからまだ数ヶ月の頃。
それでもスピナの心にある優しさや愛情深さを知るベリルは自分の出来ることであれば力になりたい、何とかしたいと、スピナから声がかかれば協力を惜しまなかった。
『日に日に変わっていくスピナ様の姿に、何か好ましくない事が起きてしまうかもしれないと心配でならなかったのです。しかしまだ学生の身であり、心身・技術共に未熟だった私が出来ることは限られていました。そんなある日のこと、スピナ様やご友人たちとよく集まっていた学内の広々とした花園……そこで』
多くの花々が咲き誇る中ふとベリルが見つけた、美しく可愛い花。それは様々な色の“マリーゴールド”であった。その時、意味深に告げたスピナの話は――『花言葉には、両極端な意味もある』というものだ。
しかしその日、マリーゴールドについての怖い意味はスピナの口から話されることなく終わった。
『当時、学校の花園にはたくさんの種類や色とりどりのお花がありましたわ。私はその素敵な時間をいつものように共有し、お話していると思っていて……ですので今回の“マリーゴールドの花言葉”についても、その会話する中での一場面に過ぎなかったのです』
「マリーゴールド。色も変わればまた意味も」
『えぇ。それでもあの頃、あの瞬間……スピナ様が言いたかった花言葉は、本当は違っていたのかもしれませんわ』
(ん? 『違っていた』とは、どういう……)
もっと強く、スピナの言う“怖い意味”を聞いておけば良かったとベリルは後悔の念を抱きその気持ちを、ほろりと声に出していた。
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