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411.逡巡
しおりを挟む『ん?』
ふとスピナの視界へと入ってきたのは鮮やかで眩しく映る、何か。それはベリルの美しい顔がしっかりと見える位置、枕元の奥に隠れるようにあった。その置かれている物の全体を確認しようと微動し目線を落とした彼女はハッと、気付く。
(どうしてこの部屋にマリーゴールドの花が!? しかもオレンジ色だなんて……)
――この子、何を考えているのかしら。
心の中でそう呟くが彼女の喉から声は出ず、その目は見開き動きは止まる。様々な感情が交錯する中でスピナの驚きは顔の筋肉へと伝わり乾いた唇だけが小刻みに震え、反応していた。
――『花言葉には、両極端な意味もあるのは?』
『あっ……』
スピナの頭の中に突如響いてきた、台詞。
それは紛れもなく学生時代のスピナ自身が発した言葉であった。当時、彼女の周りに集まる者たちのほとんどが調子のいい同級生で上辺だけの付き合い。
そんな中で入学してきたベリルは他の令嬢たちとは違う雰囲気であり唯一、スピナを心から慕い嘘偽りのない聡明さを放っていた。
(あの頃かしらねぇ……私の中にある邪心が目覚め、うごめき始めたのは)
嫉妬――そんな心の“闇”は誰にでも存在する。
光の隙間へじわじわと入り込んでくる闇はその身体を少しずつ蝕み陥れる。
ゆっくりと、気付かぬうちに。
透明の水に一滴一滴ずつ落とし、いつしか黒く染められてゆくように。
だがそれも心身を闇に飲まれることなくコントロール出来れば、問題のないことなのだ。
『……』
(スピナお姉さま、どうか光ある場所へ戻って!)
先の未来が視えたとしてもその結末を回避する方法は、必ずあるはず。目を瞑り心から違う未来を信じ願うベリル。もうこれ以上スピナの中で膨らむ“闇”が深まらないように、と。
その思いを知ってか知らずかオレンジ色のマリーゴールドに目を細め理解するスピナ。ベリルの準備した花の色が持つ意味を、知らぬわけがない。そのせいか一瞬自身の行動に迷い戸惑う。
沈黙の中で互いの心が秘め、求める思考。
『ベリルお前……まさか』
(この子は、これから私がやろうとすることに、気付いているというの?!)
閉じていた瞼をゆっくりと開き潤んだ瞳のベリルは微かな声で気持ちを、伝える。
『私は、貴女と一緒に美しい花を愛で、笑み語り合いたいのです』
『……な、何よそれ』
(本当に、どこまでもお人好しな子)
スピナはその言葉に揺らいでしまう自分の意志を再確認し固めようと唇をグッと強く、噛みしめた。
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