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第40話:零秒の魔導手術
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狂気の絶叫と共に、レディ・セラフィーナが持つ水晶玉は、もはや、星の誕生か、あるいは、終焉を思わせる凝縮された破滅の光と化した。
じりじりと、空間そのものがその圧倒的なエネルギーに悲鳴を上げている。
逃げる場所など、どこにもない。あの光が解き放たれれば、この美しい庭園も、歴史ある王宮の一部も、そこにいる全ての生命も、塵となって消え去るだろう。
誰もが、絶望に凍りついた。
その、永遠にも思える一瞬の中で、師匠だけが動いた。
「――間に合わん」
彼は、防御障壁を展開しようとする近衛騎士たちを、その一言で制した。
「通常の防御では、無意味だ。……内側から、止める」
師匠は、私に向き直った。その怜悧な青い瞳には、焦りも恐怖もない。ただ、極限の集中によって燃え上がる、蒼い炎だけが宿っていた。
「ユヅカ」
彼の声は、不思議なほど穏やかだった。
「今から俺は、あのエネルギーの奔流の中に、一本の『道』を拓く。俺の全魔力を使って、ほんの、コンマ一秒にも満たない、一瞬だけな」
「え……?」
「お前は、その道を、通れ」
師匠が言っていることは、常軌を逸していた。
「お前の魔力は、生命を育む清浄な力だ。そして、異邦の血を引くお前のそれは、この世界のいかなる魔術の理にも染まらぬ、特異な性質を持つ」
彼は、私の両肩を強く掴んだ。
「その魔力を、一本の細い針へと変え、俺が拓いた道の先にいる核(コア)へと、撃ち込め。……力でねじ伏せるのではない。嵐の中心に、一滴の静寂を落とすのだ」
それは、爆弾を、爆発の零秒前に、内側から手術で止めるという、神でさえ不可能に思える無謀な術式。
私に、そんなことが……。
だが、師匠の瞳は私ならできると、絶対の信頼を告げていた。
私は、こくりと、頷いた。
「――行けぇぇぇぇッ!!」
師匠の咆哮と共に、彼の全身から銀河を思わせる膨大な魔力が解き放たれた。それは、障壁ではない。彼の全存在を賭けて、破滅の光の奔流をこじ開けるためだけの一本の光の槍。
私の目の前に、確かに、道が拓かれた。荒れ狂う、死の嵐の中を貫く、ほんの一瞬だけ存在する、静寂のトンネル。
「はぁぁぁぁっ!」
私は、自分の持つ、全ての魔力を、全ての祈りを、全ての、生きたいと、助けたいと願う想いを、ただ一本の、黄金色の、慈愛の光の糸へと変えた。
そして、それを、師匠が拓いた道へと、放つ。
光の糸は、死の嵐に飲み込まれ、消え入りそうになりながらも、まっすぐに、その中心核へと突き進んでいく。
そして。
届いた。
…………。
世界から、音が、消えた。
予想された、天を揺るがす大爆発は、起こらなかった。
代わりに、世界中の全ての光と音が、あの水晶玉の中心、ただ一点へと、ブラックホールのように吸い込まれていく。
そして、訪れた絶対的な静寂。
しん、と静まり返った庭園の真ん中。かつて、破滅の光を放っていた水晶玉は、ただのくすんだ色のガラス玉へと変わり果て、カランと乾いた音を立てて地面に落ちた。
「……は……ぁ……」
成功した。
その安堵と同時に、私は糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。師匠もまた、全魔力を使い果たし、片膝をついて荒い呼吸を繰り返していた。
庭園に、摂政宮エドワード殿下が近衛騎士たちと共に、駆け込んでくる。
目の前の、信じがたい光景に誰もが言葉を失っていた。
私たちは、勝ったのだ。
だが。
誰もが、勝利を確信した、その時。
師匠が、鋭い声で叫んだ。
「……どこだ」
はっとして、私たちは、バルコニーを見上げた。
だが、そこに、レディ・セラフィーナの姿はなかった。
あの、魔力が収縮する、混沌の瞬間に、彼女はまるで幻のように、その姿を消し去っていたのだ。
私たちは、確かにこの戦いに勝利した。
だが、最も重要な獲物を取り逃がしてしまった。
そして、その蛇は、今もこの王宮のどこかの闇で、息を潜め、次の牙を研いでいるのだ。
じりじりと、空間そのものがその圧倒的なエネルギーに悲鳴を上げている。
逃げる場所など、どこにもない。あの光が解き放たれれば、この美しい庭園も、歴史ある王宮の一部も、そこにいる全ての生命も、塵となって消え去るだろう。
誰もが、絶望に凍りついた。
その、永遠にも思える一瞬の中で、師匠だけが動いた。
「――間に合わん」
彼は、防御障壁を展開しようとする近衛騎士たちを、その一言で制した。
「通常の防御では、無意味だ。……内側から、止める」
師匠は、私に向き直った。その怜悧な青い瞳には、焦りも恐怖もない。ただ、極限の集中によって燃え上がる、蒼い炎だけが宿っていた。
「ユヅカ」
彼の声は、不思議なほど穏やかだった。
「今から俺は、あのエネルギーの奔流の中に、一本の『道』を拓く。俺の全魔力を使って、ほんの、コンマ一秒にも満たない、一瞬だけな」
「え……?」
「お前は、その道を、通れ」
師匠が言っていることは、常軌を逸していた。
「お前の魔力は、生命を育む清浄な力だ。そして、異邦の血を引くお前のそれは、この世界のいかなる魔術の理にも染まらぬ、特異な性質を持つ」
彼は、私の両肩を強く掴んだ。
「その魔力を、一本の細い針へと変え、俺が拓いた道の先にいる核(コア)へと、撃ち込め。……力でねじ伏せるのではない。嵐の中心に、一滴の静寂を落とすのだ」
それは、爆弾を、爆発の零秒前に、内側から手術で止めるという、神でさえ不可能に思える無謀な術式。
私に、そんなことが……。
だが、師匠の瞳は私ならできると、絶対の信頼を告げていた。
私は、こくりと、頷いた。
「――行けぇぇぇぇッ!!」
師匠の咆哮と共に、彼の全身から銀河を思わせる膨大な魔力が解き放たれた。それは、障壁ではない。彼の全存在を賭けて、破滅の光の奔流をこじ開けるためだけの一本の光の槍。
私の目の前に、確かに、道が拓かれた。荒れ狂う、死の嵐の中を貫く、ほんの一瞬だけ存在する、静寂のトンネル。
「はぁぁぁぁっ!」
私は、自分の持つ、全ての魔力を、全ての祈りを、全ての、生きたいと、助けたいと願う想いを、ただ一本の、黄金色の、慈愛の光の糸へと変えた。
そして、それを、師匠が拓いた道へと、放つ。
光の糸は、死の嵐に飲み込まれ、消え入りそうになりながらも、まっすぐに、その中心核へと突き進んでいく。
そして。
届いた。
…………。
世界から、音が、消えた。
予想された、天を揺るがす大爆発は、起こらなかった。
代わりに、世界中の全ての光と音が、あの水晶玉の中心、ただ一点へと、ブラックホールのように吸い込まれていく。
そして、訪れた絶対的な静寂。
しん、と静まり返った庭園の真ん中。かつて、破滅の光を放っていた水晶玉は、ただのくすんだ色のガラス玉へと変わり果て、カランと乾いた音を立てて地面に落ちた。
「……は……ぁ……」
成功した。
その安堵と同時に、私は糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。師匠もまた、全魔力を使い果たし、片膝をついて荒い呼吸を繰り返していた。
庭園に、摂政宮エドワード殿下が近衛騎士たちと共に、駆け込んでくる。
目の前の、信じがたい光景に誰もが言葉を失っていた。
私たちは、勝ったのだ。
だが。
誰もが、勝利を確信した、その時。
師匠が、鋭い声で叫んだ。
「……どこだ」
はっとして、私たちは、バルコニーを見上げた。
だが、そこに、レディ・セラフィーナの姿はなかった。
あの、魔力が収縮する、混沌の瞬間に、彼女はまるで幻のように、その姿を消し去っていたのだ。
私たちは、確かにこの戦いに勝利した。
だが、最も重要な獲物を取り逃がしてしまった。
そして、その蛇は、今もこの王宮のどこかの闇で、息を潜め、次の牙を研いでいるのだ。
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