幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ

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第57話 死んだはずの魔導士

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 魔王の口から「マーリン」というワードが出たことで、会議場は静まり返った。
 青ざめた顔のスターチアも同様の事を考えていたらしく「やはりですか……」と力なくうなだれる。
 私の考えていた「数打てば当たる作戦」とも違う、ニャルラ提案の「隠蔽作戦」を可能とする大魔導士の存在に会場はざわつくのだった。

「ちょっと待ってよ!そのマーリンって奴は500年前の人でしょ!?」

 魔王の発言に対して驚きの声を私はあげた。
 帝国の創始者である「魔人マーリン」は500年前の大戦時代を生きた人間である。
 そんな昔に生きた人がこの世に存在するわけがないのだ。
 魔王軍の古株や邪神教の連中とはわけが違う。

「でも、パパや宰相様も生きてるニャ?」

 大戦時代に生きていた魔物も沢山いると不思議そうな顔で言うニャルラ。
 それに対してヴァネッサが「マーリンは人間よ?それにあいつは戦争で死んだわ」とニャルラを嗜めるように言うのであった。
 問題点を指摘されたニャルラは「そうなのかニャ……」と小さくうなる。

「マーリンは魔人って言われてるニャ?生きててもおかしくないんじゃないかニャ?」

 なんかもう考えるのも面倒になったのか、雑な理論を展開するニャルラ。
 しかし、それに対して意外なところから助け船が出る。

「ええ、あの者ならば生きていてもおかしくはないです」

 難しい表情でそう答えるのはアドルであった。
 彼もまた、スターチア同様「大魔導士マーリン」という存在の厄介さを考えている様子である。
 それを聞いたシグマがまたしても机に拳を落として声をあげる。
 ドンッと強く衝撃を受けた机であるが、思いのほか頑丈であり壊れる様子は露程もなかった。

「マーリンの死は儂らが確認したではないか!生きているはずがない!」

 大戦時代に自らの目でマーリンの死を確認したというシグマ。
 感情を昂らせて怒りを露にする彼の様子に、非戦闘員である文官や執事達はビクッと体を震わせる。
 調査で行動を共にした魔王妃である私ですら、怒った戦神の迫力には慣れないものだ。
 先ほどまでは暴走するシグマを横でコントロールしていたヴァネッサも、今回のアドルの発言に対しては穏やかではない。

「こいつの言う通り、こいつと私、スタチーの3人で死んでいるのを確認したわよ?」

 大戦時の記憶を蘇らせ、当時の状況を語るヴァネッサ。
 どうやらシグマとヴァネッサ、スタチーの3人でマーリンを撃破したということらしい。
 そして当時の3人は、激しい戦闘の影響でかなり損傷したマーリンの死体を確認したとのことだった。
 それについて魔王が詳しい説明を求めると、当時のマーリンの死にざまについてスターチアが語る。

「下半身はすべて消滅してました。上半身も半分以上が失われており、心臓も確かに止まっていました……」

 そこに関しては間違いないというスターチアだが、なにやら元々白く美しい彼女の顔が青ざめている。
 しかし、彼女の実力を認める会場の魔物たちもスターチアが言うのであれば正しいといった様子であった。
 もちろん、魔王やアドルもスターチアやヴァネッサ、シグマの実力を信じている。
 なので、彼らも確かにその当時「マーリンは死んでいた」ことは間違っていないと認めていた。
 彼らの昔話を聞いていた私は、スターチアとアドルの様子が会話の流れと比べておかしいことに気づく。
 今の話を聞けば、誰がどう考えてもマーリンは「死んでいる」はずである。
 それなのに、この二人は何を危惧しているのだろうか。

「……スターチア殿、マーリンにとどめを刺してはいないのですよね?」

 当時のことを蒸し返して尋ねるアドルにスターチアは「ええ……」と絶望に染まった表情で答えた。
 そんなスターチアの様子を見ていた魔王は「それほどまでにマーリンとは恐ろしい奴なのだな……」と少し怯えた様子で言う。
 大戦当時には生きていなかったという魔王の意外な一面に、私は彼の「魔王」ではない素の部分を垣間見るのだった。


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 「大魔導士マーリン」が今回の邪神教騒動に絡んでいる疑惑が出たことで、会議場に重苦しい雰囲気が漂う。
 会議の机を囲む面々の中で、大戦当時のマーリンのヤバさを知る魔物たちはアドルと隊長格達、それとヴァネッサであった。
 魔王軍の中でも指折りの実力者である彼らがこうまでも恐れる魔導士とは、いったいどれほど厄介なものなのか私には検討もつかない。
 しかし、調査の際に死闘を繰り広げた「四天王のフォルトゥナ」よりも遥かに優れた魔導士であることは容易に想像がつく。
 そして、私は一つ矛盾している点に気が付くのだった。

「あれ?マーリンって人間よね?なんで邪神教側についてるわけ?」

 シンプルだと思っていた大戦時代の勢力図がだんだんと分からなくなってきた私であった。
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