異世界修道院物語 –シスター狐っ娘、たおやかにKる-

狐囃子

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03 狐っ娘、神におびえる/神もおびえる

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 奥の院・降臨の間の垂れ衣は開かれていて我が御前・告天子パウエル様がやさしい顔で待ち望んでいた。狼と童女は階段の真下に並んでいる。

「やあ、待ちくたびれて寝てしまうところだったよ、狐」

 御前はいつも目の下にクマができている。深刻に忙しいのは私たちよりも御前の方なのだ。

「我らが尊き神様の急ぎの用とお伺いしましたが」
「神じゃなくて使徒っぽいナニカだって。そう怖い目で見ないでおくれ、我が僕」
「500年もこき使われていると少しは思う所がありますよ」
「それそれ。やっと君たちが報われる目途がつきそうなんだ」
「「誠ですか!?」」

 狼はいつもの皮肉屋で尊大な大院長の様子ではない。彼もまた願望が叶うことに喜んでいるのだろう。私も身が熱くなるというものだ。

「今すぐというわけではないがね、前菜アペタイザーがてらの聖務をこなしてほしい。ことは深刻だ。ヴァン君からお話があるので謹んで拝聴したまえ。それが悲願達成のカギとなる」

 ヴァン君とは先ほどの童女……いや童子か?助修士の秘儀服を着ているが性別・見た目・においを伺うことができない。

「こんにちは、狼、狐。ボクはヴァン。パウエルやチェザーレと古い因縁があってね、太老猫のおつかいを助けてもらいに来たんだよ」

「「失礼だな、貴様!!」」

 我が御前・パウエル様は中位神、神の御使い、使徒、告天子と崇め奉られるお方であり、チェザーレ様とはこの星を守護する最高神でどちらも易々と口にして良い名前ではない。狼の知人でも無いのか?ユニゾンしてしまった。恥ずかしい。

「そうかなー?気にしなくていいと思うよ」
「あのね、ヴァン君。俺が大したことないのは良いけどチェザーレ様は……うん、まぁ君はそれでいいか。あ、ヴァン君はそういうレベルの尊きお方だと思って気にしないでくれ」
「気にしないでくれー」
「わ、我らは頭を床にこすりつけた方がよろしいのでないか?」

 狼ほど卑屈になるつもりはないが御前と並ぶか、それ以上のお方と聞いて気おくれがするのは確かだ。ただ、獣の本能で捉えるとそこまで格上の相手には思えない。

「聖典に照らし合わせるのであれば、偉大にして聖なるものに従うことは生きとし生けるものの義務とのことです」
「聖典は人間の為に教会が紡いだ教えが書かれているからね。我が式神としての立ち位置と戒律に従ってくれれば今はそれでいいよ。つまり、修道院の助修士に身をやつしたヴァン君は神格を持つだけの兄弟の一人として欲しい」
「あわわわわ」
「狼はしっかりなさい。助修士……修道士見習いの弟キャラということでしょうか?」
「あー……どうかな。ボク、年齢が曖昧だからね。5,000万歳と言えばそうだし50年の生涯とも言えるし身体年齢は12歳とも1歳とも言えるからそれでお願いしたいかな」

 絶句である。毛並みの良い白い短髪、色素の薄い表面でほのかに色づく血の通った頬、抱けば手折ることもできそうな華奢な肢体、人間の中では異界の美と呼ばれる類であろう。
 だが長生きしている私が感じ取れない神格を持つという。神格を持つだけというがおおよそ敬愛や従属に至る神性は感じ取れない。

「かしこまりました。以降はそのように扱います。で、おつかいというのはどのような試練なのでしょうか」

 狼のくせに表情を猫の目のように変えているが気にしていたらキリがなさそうだ。

「狼と狐の両方に関係する話なんだけれどね。ここ数年、祈りの質に淀みが生じていることに気づいているよねー?」

 教会の祈りはいわば寄せ鍋のようなもので大小強弱様々の具材で構成されている。そのため膨大ではあるが精製が困難な為、神性生物がその祈りを使って星を保守する霊的エネルギーとして使うためには歳月とマンパワーが必要になる。
 教会と違って修道院で典礼とアーティファクトを正しく用いた祈りは少ないながらも高純度の霊的エネルギーとなる。寄せ鍋と比較するなら高級しゃぶしゃぶだろうか。肉の質が問われている。

「そ、そうですな。我ら狼十数匹の信仰は揺らぎませんが、教区ごとに不信心者が増えている傾向が見受けられます」
「私が管理していた修道院は問題なかったわ。祈りの質って修道院と教会は別よね、教会が乱れているんじゃないの?」
「ふん、貴様が毎時毎秒常日頃淫らなようにか?」

  えぇい蛇のような絡み方だな。前から思っていたけど、この狼は12の大修道院の会長を兼ねる大院長のくせに爬虫類のような粘り気がある。狼も人間も辞めたらどうなの?

「否定はしないけど私の場合は種の保存に引っ張られた本能からのものよ」
「淫らなのは否定しないんだー?」

 何故、全員でドン引きするのですか。

「この星において狐はもはや私一匹なのですよ?色欲や獣欲と蔑まれる小さな問題ではないのです。知性を得てさらに危機感を募らせるのは当然でしょう。それに対象は私に類するものだけ。それをいうなら狼こそ人間として生きたいと願いながら繁殖もせず人間を食べ続けているけど、あなたがたのリビドーの解消方法にこそ病的な劣情を感じるわ」
「我らは修道院管理職としての責務で人間を適切に処理しているだけだ。貴様はパウエル様が定めし戒律を否定するつもりか」
「いえいえ、戒律に従い神への”執りなし”を適切に行っておられますよね?という確認ですよ。いちいち噛みつかないでください。どうせ私を
「はいはい、ケンカはやめてねー。あ、狐は面白い霊体をしていると思ったらそういうことか。不死身みたいな?」

 どうやら私に施された加護の内容を読み取れるらしい。私は魔法や神格には疎いのでわからないが確かにこの童女はただものではないらしい。御前から授かった加護は不老不死だった。すべては子孫繁栄のためである。そのために私は御前に願ったのだ。
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