異世界修道院物語 –シスター狐っ娘、たおやかにKる-

狐囃子

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15 フェンネル、たそがれる

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 夜が明けた。獣も夢を見る。滅びの道を行くいつもの不幸せな夢だった。

 修道士は寝ずの者も含めて聖なる日の出の祈りを大切にする。エリカとは顔を合わせることはできなかったが修道院長には別れを告げた。修道士の朝課を邪魔しないように出発する。
 一時期、気候調整の失敗でこの島は軽い氷河期に覆われていたが、星ごと調整するには力不足だったとのことで、島の中だけ過ごしやすい気温になっている。
 そういえば季節の分かれ目に乏しい不自然な環境を今後どのように自然へ戻すか意見を求められたことがあった。この身体の持ち主の居た日本は湿度と暑さと寒さが尋常ではなかったようで、台風が直撃すると社会がマヒする脆弱性の塊のような国だったようだが、今なら風鈴やコタツを提供するという妙手を提案できそうだ。

 ここの修道院長は敬虔な人間だったので何事もなく滞在できたが、ここから先の修道院長は一癖も二癖もある。なるべく避けたいところだがこの星この島この世界には宿屋という商業は見かけない。私だけ野宿するのが最適解だろう。

 この星はこの島以外がほぼ海で覆われていて生命体もここに集約されている。
 島は3つの国に分かれているが西の国は神の信仰を捨てた独裁者による帝国、東の国は文明崩壊著しく群雄割拠とすら言えない無政府地域となっている。どちらとも国交は物理的にできない。そういう状況に私たちがした。
 私たちの居る島の真ん中の国は御前の覚えの良い国王が治める王国だ。だが外交の余地が無い王族が携わる内政は少ない。今は三公と呼ばれる貴族たちが国の統治の中心で、修道院長としても付き合いがあった。付き合いはあったが修道士なので政治的接近はしていない。
 教会の教えがチェザーレ様に特化しているため、王族や統治者の視点では修道院は敬虔な者の荘園として認めるが障らず、奢らず、助け合わずという関係が望ましいようだ。国民の大半がチェザーレ様の恵みに感謝している。チェザーレ様に祈りを届ける修道院を政治的利用することは社会通念からしても宗教的信念からしてもありえなかった。

 世界の創生をなさった唯一神チェザーレ様。
 告天子パウエル様他数多に殉死して世界に寄与した聖人たち。

 この世で尊く、
 正しい、
 神の声に、
 耳を傾け、
 命に感謝し、
 祈り、
 賛歌を捧げる。

 そんな当たり前な修道士としての根幹と信教が昨日崩された。
 獣で居たときの感触で言えば毛が逆立ち寒さに凍える状態だ。人間の体だと体毛が足りないので鳥肌に覆われている。今、私を包む感情は失望の数への驚きと宇宙的恐怖だった。

 ヴァンは早馬の中でスピスピと寝ていた。無理に起こす意味もないので私は沈思黙考し続ける。
 思い返すのは御前の声。獣の頃の出来事。ヴァンの話。
 そこに修道士の思い出は含まれていない。修道士として生きてきたのは条件反射のように刷り込まれていた出来事のように思える。

 気が付けば夕日がまぶしい。考え疲れて、思い疲れて。何も考えず落ちる夕日を眺めていた。

「私はこの先どうすればいいのかな」
「相談があるなら乗るよ」

 ヴァンは起きていた。たぶん、お互い気づいていた。

「いえ。まだ良いです。でも後程聴罪してください」
「聴罪はしない。相談だけ聞く」
「そう」

 ヴァンの気遣いに感謝する。こんな気持ちにしたのが彼だったとしても。
 結局、この日はヴァンとまともに会話をせずに目的地の修道院へ到着した。この修道院は狼が修道院長として管轄している。ここでは巻物や書物や研究結果を集めていて知識の宝庫となっている。そのため、秘境なのに人の出入りが多く、生臭さのある修道院だ。
 事前にヴァンから聞いたところではシダンシ修道院以外に問題は無いそうだが。
 事情を先に知っていたようで、短く打合せをするとエサの入った皿のある寝床を用意して彼は聖務である研究に戻って行った。干渉を避けてくれるのはこちらとしても助かる。

 今宵、夢は要らない。
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