異世界修道院物語 –シスター狐っ娘、たおやかにKる-

狐囃子

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17 フェンネル、畏れる

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「使役されていたとはいえ、500年現界し続けるのは生物学上起こりにくいことだ。だから誰かが君を観測したために神格化した可能性はある」
「御前や狼になら観察されていたかもしれませんが」
「いや、人間だねー、パウエルたちは違うだろ?ヒューマノイドによって語り継がれたり、君のような存在を、戯曲家たちが物語を作ったり、救世主になったり……本当に心当たり無い?」
「まったく」

 物語が作られたのであればその物語を破壊したい。

「うーん。でも君は獣の皮をかぶった神だよ。まぁ気にしなくていいんじゃないかなー。すぐさま不思議パワーで変身できるとかじゃないから」
「私が怖いのは」

 私が怖いのは。

「私が怖いのはっ」
「うぉう!?」

 たわいもない話なのに何故こんなに心がざわつくのだろう。

「…………」
「…………」
「すいません、取り乱しました。何でもないです」
「あ、うん。言い直そうか。神の居を借る獣として、生命体として強くなったんだよ」
「そう……」

 顔をなぞる水滴が一条。

 私が私でなくなっていく。
 私じゃない私が私を覆う。
 獣の顔に人間の仮面を被せる。
 獣の体に服を着せる。
 修道服を着せる。
 チュニックを着せる。
 神の衣を被る。
 取り繕うように獣の落書きをする。
 私か私じゃない私で顔を覆う。

「ごめん、君の琴線に触れてしまったみたいだ」

「私は怖いのです。獣でなくなることが
「人間になりたがる狼の気持ちがわかりません
「私の周りには神が居ましたがそこに憧れはありません
「ただ、神を信じていた。でもそれは二の次の話
「私が一匹になってしまったから、狐が孤独になってしまった
「それが悲しくて、切なくて、苦しい……

「ごめん、ごめんね」

 空気を悪くする人間がそこに居た。
 ヴァンは涙が止まらない私の頭を抱えてくれる。
 人間の姿で涙を流したのは生まれて初めてのことだった。

「私が狐として生を受けたこと、狐としての本能の全う、我が子を授かりたいという本心、それらに間違いがないと思っている。そしてそこが間違っていないことを信じたい。そうじゃないと私は何のために生まれたかわからないじゃないですか」

 悲しげな顔をしながらヴァンが膝の上に頭を置き、そっと赤子をあやす様に撫でてくれた。
 夜明けの薄闇が慎みを覚えて朝焼けに変わる頃、時のまにまに身を寄せて早馬の揺れを感じつつ……久しぶりに狐の姿へ戻り、私は夢の門を開いていた。

*****

「やっぱり君はボクと似ている」

 ヴァンは寝入った獣を見下ろすと撫でる速さを落としうつむいた。
 キャタピラ雪上車は雪無き土も雑草深き悪路もものともせずに速度を落とさず道を行く。山間の坂路を抜けた村里の教会の裏路地へ着くと運転手もまた静かに目をつむるのであった。
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