17 / 25
17 フェンネル、畏れる
しおりを挟む
「使役されていたとはいえ、500年現界し続けるのは生物学上起こりにくいことだ。だから誰かが君を観測したために神格化した可能性はある」
「御前や狼になら観察されていたかもしれませんが」
「いや、人間だねー、パウエルたちは違うだろ?ヒューマノイドによって語り継がれたり、君のような存在を騙られたり、戯曲家たちが物語を作ったり、救世主になったり……本当に心当たり無い?」
「まったく」
物語が作られたのであればその物語を破壊したい。
「うーん。でも君は獣の皮をかぶった神だよ。まぁ気にしなくていいんじゃないかなー。すぐさま不思議パワーで変身できるとかじゃないから」
「私が怖いのは」
私が怖いのは。
「私が怖いのはっ」
「うぉう!?」
たわいもない話なのに何故こんなに心がざわつくのだろう。
「…………」
「…………」
「すいません、取り乱しました。何でもないです」
「あ、うん。言い直そうか。神の居を借る獣として、生命体として強くなったんだよ」
「そう……」
顔をなぞる水滴が一条。
私が私でなくなっていく。
私じゃない私が私を覆う。
獣の顔に人間の仮面を被せる。
獣の体に服を着せる。
修道服を着せる。
チュニックを着せる。
神の衣を被る。
取り繕うように獣の落書きをする。
私か私じゃない私で顔を覆う。
「ごめん、君の琴線に触れてしまったみたいだ」
「私は怖いのです。獣でなくなることが
「人間になりたがる狼の気持ちがわかりません
「私の周りには神が居ましたがそこに憧れはありません
「ただ、神を信じていた。でもそれは二の次の話
「私が一匹になってしまったから、狐が孤独になってしまった
「それが悲しくて、切なくて、苦しい……
「ごめん、ごめんね」
空気を悪くする人間がそこに居た。
ヴァンは涙が止まらない私の頭を抱えてくれる。
人間の姿で涙を流したのは生まれて初めてのことだった。
「私が狐として生を受けたこと、狐としての本能の全う、我が子を授かりたいという本心、それらに間違いがないと思っている。そしてそこが間違っていないことを信じたい。そうじゃないと私は何のために生まれたかわからないじゃないですか」
悲しげな顔をしながらヴァンが膝の上に頭を置き、そっと赤子をあやす様に撫でてくれた。
夜明けの薄闇が慎みを覚えて朝焼けに変わる頃、時のまにまに身を寄せて早馬の揺れを感じつつ……久しぶりに狐の姿へ戻り、私は夢の門を開いていた。
*****
「やっぱり君はボクと似ている」
ヴァンは寝入った獣を見下ろすと撫でる速さを落としうつむいた。
キャタピラ雪上車は雪無き土も雑草深き悪路もものともせずに速度を落とさず道を行く。山間の坂路を抜けた村里の教会の裏路地へ着くと運転手もまた静かに目をつむるのであった。
「御前や狼になら観察されていたかもしれませんが」
「いや、人間だねー、パウエルたちは違うだろ?ヒューマノイドによって語り継がれたり、君のような存在を騙られたり、戯曲家たちが物語を作ったり、救世主になったり……本当に心当たり無い?」
「まったく」
物語が作られたのであればその物語を破壊したい。
「うーん。でも君は獣の皮をかぶった神だよ。まぁ気にしなくていいんじゃないかなー。すぐさま不思議パワーで変身できるとかじゃないから」
「私が怖いのは」
私が怖いのは。
「私が怖いのはっ」
「うぉう!?」
たわいもない話なのに何故こんなに心がざわつくのだろう。
「…………」
「…………」
「すいません、取り乱しました。何でもないです」
「あ、うん。言い直そうか。神の居を借る獣として、生命体として強くなったんだよ」
「そう……」
顔をなぞる水滴が一条。
私が私でなくなっていく。
私じゃない私が私を覆う。
獣の顔に人間の仮面を被せる。
獣の体に服を着せる。
修道服を着せる。
チュニックを着せる。
神の衣を被る。
取り繕うように獣の落書きをする。
私か私じゃない私で顔を覆う。
「ごめん、君の琴線に触れてしまったみたいだ」
「私は怖いのです。獣でなくなることが
「人間になりたがる狼の気持ちがわかりません
「私の周りには神が居ましたがそこに憧れはありません
「ただ、神を信じていた。でもそれは二の次の話
「私が一匹になってしまったから、狐が孤独になってしまった
「それが悲しくて、切なくて、苦しい……
「ごめん、ごめんね」
空気を悪くする人間がそこに居た。
ヴァンは涙が止まらない私の頭を抱えてくれる。
人間の姿で涙を流したのは生まれて初めてのことだった。
「私が狐として生を受けたこと、狐としての本能の全う、我が子を授かりたいという本心、それらに間違いがないと思っている。そしてそこが間違っていないことを信じたい。そうじゃないと私は何のために生まれたかわからないじゃないですか」
悲しげな顔をしながらヴァンが膝の上に頭を置き、そっと赤子をあやす様に撫でてくれた。
夜明けの薄闇が慎みを覚えて朝焼けに変わる頃、時のまにまに身を寄せて早馬の揺れを感じつつ……久しぶりに狐の姿へ戻り、私は夢の門を開いていた。
*****
「やっぱり君はボクと似ている」
ヴァンは寝入った獣を見下ろすと撫でる速さを落としうつむいた。
キャタピラ雪上車は雪無き土も雑草深き悪路もものともせずに速度を落とさず道を行く。山間の坂路を抜けた村里の教会の裏路地へ着くと運転手もまた静かに目をつむるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる