クズ王子と堕落王女の変わった婚約

来栖さや

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「ミアナ、お前の婚約が決まった。隣国エルグランド王国の、第三王子だ。……済まない」


つい最近、王となったばかりのお兄様から、私の婚約についての話をされる。いつかはと、覚悟していたはずのこと。その相手が誰であろうとも。


「お兄様が謝られる必要など、ありませんわ。一つ、言わせていただくとすれば、お兄様はもう、この国の王なのですから、堂々としていてください。でなければ、不安になるのは臣下たちなのです」


ここに居るのは、私とお兄様、そして昔からの顔馴染みであるレオン様だけ。だからこそ、こうしてハッキリ言える。


「だが、私のせいでお前には……」

「お兄様。私のことで、お兄様が気にかける必要などありません。民や、他の貴族からすれば、私は堕落王女でしかないのですから。そして、そうあることを望み、行動したのは私自身なのですから」


堕落王女、それが私の呼び名だ。お兄様と比べられ続け、ついに怠け、落ちぶれた王女。それが、周りからの私の評価だ。だからこそ、他国に追いやるのも惜しくはない。そういったところだろう。


「ミアナ、辛くなったらいつでも言えよ。俺が助けてやる」

「レオン様、お気持ちは嬉しいですが、あなたはお兄様の剣なのです。そのようなことを言ってはいけません。私の分まで、お兄様のことをお願いします」

「……おう。任せとけ」


レオン様が、どこか寂しげな表情になる。私も、寂しく感じる気持ちはある。


「お兄様、私はいつ出立すればよろしいのでしょう?」

「……迎えに来るそうだ。第三王子が3日後に到着予定だ。それから一週間程度滞在してから、ということだ」


お兄様の言葉に、私は素直に驚いた。まさか、迎えにくるとは思っていなかったのだ。私のお相手である、第三王子のルイス・エルグランド様。別名、クズ王子。その方の人柄を見極める良い機会ではある。だが、変な行動を起こされれば……。


「大人しくしてくださればいいのですが……」

「ミアナ、それ絶対本人の前で言うなよ……」

「言いません。私は、いつも通りに過ごすだけですもの。明日からはまた、レイチェルさんのお店でお仕事ですから!」


私が堕落王女と呼ばれる理由の一つ。それが、コレだ。よく変装し、王都に降りていたが、最近では王女としての仕事がないことをいいことに、王都のお店で働いていた。そのため、部屋に籠りきりで何もしていない、というイメージがついてしまったのだ。
……まぁ、とはいえ何人かは知っているけれど。


「お前は……。行くのはいいが、気をつけて行ってこい。大丈夫だとは思うが、バレないように」

「大丈夫です。これまで、隠し通せたんですもの。今更バレるようなことは致しません」


お兄様は呆れたように笑っているが、これだけは言える。貴族や王族の中で、一番王都の民たちと関わっているのは私だと。


「なら、いいが……。とにかく、気を付けろ」

「分かりました、お兄様」
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