愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち

文字の大きさ
10 / 45
第一章 結婚は人生の墓場と言うが

朝焼けの瞳

しおりを挟む
 もつれるように寝台の上に倒れ込むと、唇を合わせてきたのは皇弟の方だった。
 口を吸い、忍び込んでくる舌に戸惑いながらも絡め合い、また唇を吸う。
 皇弟の舌は少し冷たくて、グレウスのそれに比べて薄く繊細だ。踊るように口内を擽っては、捕まえようとするグレウスの舌を躱して、再び舞い戻ってくる。
 指の間を濡れたような黒髪が滑り抜け、硬い掌に磁器のように滑らかな肌を感じた。


「あぁ……」
 どちらからともなく、吐息が漏れる。
 無意識のうちに抱き寄せた皇弟の体は、騎士たちと比べると肉付きは薄いようだが、引き締まってしなやかだった。
 壊れそうなほど華奢でもなかったことに、体の大きいグレウスは少し安心する。
「グレウス……」
 名を呼びながら、皇弟が体を寄せてきた。
 互いにガウンを着たままだが、体の中心はすでに昂っているのがわかった。
 自分だけでなく、皇弟もまた欲情していることを知って、グレウスの胸が熱くなる。
「殿下……」
「グレウス……」
 口づけしながら、皇弟はグレウスの腹の上に乗り上げてきた。
 グレウスの手を取り、自身の背中に手を回させる。
 本当に触れていいのかと思いつつ、グレウスは手を滑らせて皇弟の肉体を確かめた。
 掌で触れた背中には、程良い張りがあった。ある程度鍛えてあることが窺える。
 腰は細く引き締まり、臀部は体格のわりに小振りで、柔らかな肉がうっすらとついていた。
 そこから続く両脚はすらりとして長い。
 口づけを交わしながら、グレウスは自分の上に跨った皇弟の脚に掌を滑らせる。ごつごつとはしていないが、十分な筋肉がついている。乗馬の名手かもしれない。
 グレウスはガウンの裾から手を入れて、そのまま今度は体の中心へと手を戻していく。
 内腿に指が触れると、とろりとした液体が上から伝い落ちているのが分かった。グレウスは息を荒げながら、その流れの源を探って掌を上へと滑らせる。
 足の間の小さな窄まりから、温かなぬめりが滲み出ていた。――香油だ。
「……う、ッ……!」
 体の中心が痛いほど張りつめて、グレウスは呻いた。
 高貴な生まれの皇弟が、ここに伴侶を受け入れるつもりで、体内に香油を入れて準備していた。
 それを知って、理性の糸がチリチリと焼け焦げていくのを感じる。


「殿下……ッ、本当に……?」
 温かい蜜壺を指で探りながら、グレウスは訊いた。
 今更止めろと言われても止められる気もしなかったが、こんなことが許されるとはまだ信じられない。
「……ぁ……ぁ、ッ……」
 肩口に突っ伏して顔を隠した皇弟が、浅い息を吐いて力を抜こうとしているのを感じる。
 我慢できなくなって、グレウスは窄まりの中に指を潜らせていった。節くれ立って太い指が、思いのほか抵抗なく呑み込まれていく。
 香油を滴らせながら、柔らかな肉が指を締め付けてきた。
「は……、ぁ……ッ……殿下と、呼ぶな……」
 浅い吐息がグレウスの耳を擽った。
 どんな時も毅然としていた声が頼りなく掠れるのを聞いて、グレウスの分身がますます強くいきり立つ。
 皇弟は息を荒げながら告げた。
「私の名はオルガだ……私はもう、お前の妻なのだから……オルガと呼べ……!」
 気丈なその言葉に、辛うじて繋がっていた理性の糸が音を立てて千切れ飛んだ。





「あ……ッ!?」
 起き上がって体を反転させ、皇弟を寝台の上に這わせる。
 白い絹の掛物に漆黒の髪が流れ、蝋燭の光を受けて煌めくさまは、まるでここに夜空が広がったかのようだ。
 後ろを振り返った月のような美貌は、いつもの冷たい様子が消えて、僅かな恥じらいと困惑を浮かべていた。
 薄く開かれたままの唇が、グレウスの劣情を煽るかのようにひどく無防備に見える。
「ん、っ」
 グレウスが唇を寄せると、皇弟は逆らわずに口づけに応えてくれた。
 呼吸を合わせ、顔を傾けて口を吸い合う。物慣れない口づけを、皇弟が嗤うことはなかった。長い睫毛が震えるように瞬き、グレウスの頬を掠めるのがこそばゆい。
 十分に口づけを堪能し、グレウスは顔を離すと手を伸ばして皇弟の膝を左右に開かせた。
 皇弟は逆らわなかったが、その代わりに大振りの枕を抱え込み、顔をそこに埋めて隠した。
 男でありながら、男に身を任せるというのは、きっと並みならぬ羞恥心に襲われるものだろう。グレウスは心情に配慮して、敢えてガウンは脱がさなかった。
 ガウンの裾から手を入れて、すべすべとした感触を楽しむように手を滑らせる。内腿を遡っていくと、先程見出したばかりの濡れた入り口を探り当てた。
「ンッ……!」
 肉の狭道に指先を入れて確かめると、顔を隠した皇弟がくぐもった声を上げた。
 指の隙間から香油がとろりと溢れ出てくる。潤いは十分のようだ。果実のような甘い芳香がグレウスの牡を駆り立てる。
 小さく口を閉じた窄まりだが、すでに柔らかく解されているようだ。グレウスが指を呑みこませると、温かな肉壁がしっとりと吸い付いてくる。
 根元まで指を入れて中をぐるりと探った後、グレウスは指を増やした。
「……あ、っ……」
 ガウンの背に緊張が走る。
 一瞬逃げるように腰が引かれたが、浅い息を吐きながら元の位置へと戻ってきた。
 ――皇弟は、受け入れようとしてくれている。
 それが伝わってきて、切ないような愛しさがグレウスの胸を占める。


 身分の違いも、同性同士であることも飲み込んで、皇弟はグレウスの伴侶であろうとしてくれている。
 たとえそれが異母兄からの命令であったとしても、グレウスが皇弟の献身を愛しく思うのは自由だ。
 グレウスは、黒いガウンをそっと捲りあげた。
 後ろに突き出された白い尻に、自分の太い指が二本入っている。柔らかそうな珊瑚色の肉が垣間見え、中から断続的に溢れる香油が燭台の炎を受けて光っていた。
 足の間に幾らか昂った男の象徴が見えたが、萎えるどころか、その光景はグレウスの我慢に限界をもたらした。
「……もう、入れます……ッ」
 挿入を告げて、グレウスは指で確かめた場所に先端を宛がった。皇弟が両腕に枕をぎゅっと抱きしめる。
 それを見ながら、ゆっくりと慎重に、重みを掛けて身を沈めていく。
「あ……ぁ……!」
「……ッ……!」


 他人と情を交わすのはこれが初めてだった。
 娼館に行っても体格を見て断られるし、男を抱いた経験もない。
 もしかして一生童貞のまま死ぬのではないかと嘆いたこともある。それがまさか、こんな高貴な相手と肌を合わせることになるとは。
 ガウンの背中が強張るのを見下ろしながら、グレウスは本能に従って体を進めていく。
 忙しない息遣いの合間に、くぐもった短い祈りの言葉が聞こえた。長い黒髪が寝台の上でとぐろを巻き、燭台の炎を受けてかきらきらと輝いて見えた。
 苦しそうだ。――そう思いながらも衝動に逆らえず、グレウスは身を沈めていく。
「……う、んぅッ……ぁ……あ……ッ」
 微かな呻き声と、その合間に聞こえる祈りの言葉。星を宿した夜空のように黒い髪が輝き、無数の雲母を身に纏うかのようだ。
 先程グレウスの指を柔らかに受け止めた肉壁は、今は思わぬ暴虐に悲鳴を上げて侵入者を締め付けている。枕を握り締めた指の関節が浮き上がり、浅く繰り返される息には苦痛の響きが混じっている。
 それでも、拒絶の言葉は聞かれない。
 昨日まで城の奥深くで人々に傅かれていた皇弟は、伴侶と定められたグレウスを受け入れようと、必死に耐えている。
「あ……あぁぁ……ッ」
 いきり立つ牡が、ようやく根元まで沈み込んだ。
 腰を掴んで、グレウスは肌と肌とを密着させる。少し冷たい皇弟の肌が、グレウスの肌と触れ合って体温を分け合い、温かみを帯びた。
 その瞬間、グレウスの胸に抑えきれない愛おしさが溢れ出た。


「待、て……少しだけ……ッ……」
 顔を押し付けた枕の隙間から、小さな懇願の言葉が漏れた。
 興奮に息を乱しながらも、グレウスは何とかして欲望を抑え込み、動きを止める。
 本当はすぐにでも突き上げたかったが、きつく締め付けてくる肉壁が、まだグレウスの大きさに馴染んでいないことを告げてきた。
 息を大きく継いで、何とか気を逸らそうと宙を見上げる。


 あの日謁見の間で、皇帝にも勝る威厳を感じさせた皇弟が、今はグレウスに組み敷かれて寝台の上に這っている。
 温かな肉は不慣れな様子で、時折痙攣しながら、グレウスの牡を締め付ける。
 苦しみに悶えたせいか、ガウンの襟が乱れて白い首筋が見えた。煌めく長い黒髪の間から、神秘的な形に尖った耳と肉付きの薄い頬が、鮮やかな朱に染まっているのも見える。
 枕を握り締める手。浅い息を繰り返す横顔。
 白い肌はしっとりと汗を浮かべ、まるで真珠のような柔らかな輝きを帯びていた。
 ――美しくて、扇情的な姿だ。
 堪らなくなって、グレウスは名実ともに妻となった相手の名を呼んだ。
「オルガ……」
 遠慮がちに呼んだ声に反応して、長い睫毛が瞬いた。
 瞼が開き、一度苦しげに閉じられた後、再び瞬きながら開く。
 朝焼けの空に似た、燃えるような緋色の瞳がぼんやりとグレウスを見上げた。
「オ……」
 グレウスは言葉を詰まらせる。
 遠い子どもの頃、グレウスはこれと同じ瞳を間近で見たことがあった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

オメガに説く幸福論

葉咲透織
BL
長寿ゆえに子孫問題を後回しにしていたエルフの国へ、オメガの国の第二王子・リッカは弟王子他数名を連れて行く。褐色のエルフである王弟・エドアールに惹かれつつも、彼との結婚を訳あってリッカは望めず……。 ダークエルフの王族×訳アリ平凡オメガ王子の嫁入りBL。 ※ブログにもアップしています

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

ぼくが風になるまえに――

まめ
BL
「フロル、君との婚約を解消したいっ! 俺が真に愛する人は、たったひとりなんだっ!」 学園祭の夜、愛する婚約者ダレンに、突然別れを告げられた少年フロル。 ――ああ、来るべき時が来た。講堂での婚約解消宣言!異世界テンプレ来ちゃったよ。 精霊の血をひく一族に生まれ、やがては故郷の風と消える宿命を抱えたフロルの前世は、ラノベ好きのおとなしい青年だった。 「ダレンが急に変わったのは、魅了魔法ってやつのせいじゃないかな?」 異世界チートはできないけど、好きだった人の目を覚ますくらいはできたらいいな。 切なさと希望が交錯する、ただフロルがかわいそかわいいだけのお話。ハピエンです。 ダレン×フロル どうぞよろしくお願いいたします。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

処理中です...