アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~

物太郎

文字の大きさ
8 / 310
一章 10歳になって

8、人攫いと美女 2(ヤブガラシ)

しおりを挟む


 派手な色味の金髪を高めの位置で緩めに纏めた美女は、憤慨した様子で牢の中を眺めていた。

(なに? 悪人同士で喧嘩?)

 アルベラ同様、捕まった子供たちも新たに現れた女性に困惑しているようだ。

「あの人はどこ!? 今すぐ話をさせて頂戴!」

 美人はフン! っと鼻を鳴らし、青髭やホネカワ達へ視線を向ける。

「ね、姉さん……、頭はいつ帰るかわからねぇぜ。商談があるとか、頭自身もどれくらいかかるか分かんねぇって言ってたから」

「そう、じゃあしばらくここで待たせてもらうわ。構わないわね!」

 美女は壁際に置かれた椅子を引き、スカートの裾を「バサリ」と靡かせて大げさな動きで脚を組んだ。男達の視線がその美脚に吸い寄せられる。

「ほら! ボケっとしてないで上でカード遊びの続きでもやってらっしゃい。私はここで静かにしててあげるから」

 その言葉に、悪党たちはお互いの顔を見合う。

 代表したようにホネカワが「分かったよ、ねーさん」と頭を掻いた。

 彼の言葉で他の三人がぞろぞろと上へあがっていく。

「頼むからその牢屋には手を触れないでくれよ。ガキら逃がしたりしたら俺らの命もねぇんだ。きっと姉さんだってただじゃおかれねぇ。最近の頭は見境ねぇし、んなことになった日にゃ、俺たちで止められる自信はねぇよ」

「ハイハイ。この子たちを勝手に出したりはしないから安心なさい」

 組んだ脚の上に肘をつき顎を乗せ、美女はホネカワの方へ見だけ向けて手を払った。

 男たちが去ると美女はそちらへベーと舌を出す。

(何しても絵になるな。羨ましい)

 『頭』とやらの恋人か何からしい彼女の姿に、アルベラはそんな感想を抱く。

 美女は暫く自分を見つめる子供たちの姿を眺め、少し置いてため息をついた。子供たちの視線に期待が混じっている事を感じたのだろう。彼女は仕方なく口を開く。

「聞いてたとおりよ。あなた達を逃がすわけにいかないんですって」

 「ごめんなさいね」と語尾にハートのついた言葉を聞いて、数人の子供たちがしゅんと視線を落とした。 

(けど、あの男はぼっこぼこにしてやるから楽しみにしてなさいな。全員お縄に繋いで安全になってから出してあげるから)

 美女は片手を広げて真っ赤に塗った爪を眺める。

(今逃がしたって階段使わなきゃ外に出れないしね……。上にいるあの子達は話せばわかるし、『ドグズ』だけ黙らせれば十分ね……。ハァ……――顔と体がちょっとタイプだったから近づいたけど……妙にきな臭いと思ったらこんな……――私が惹かれる男って何でいつもこうなのかしら……)

 彼女はオレンジの淡い明かりの下、今までの男性経験を思い出し悩まし気なため息をついた。

 





 アルベラは引き続き逃走について思考していた。

 美女と男たちの乱入の際、壁際でずっと立っていたので思い出したように腰を下ろす。

 ユリが無邪気に「びっくりしたね」とアルベラへ笑いかけた。

「あの人凄いキレイだね。悪い人じゃなさそうだし、みんなでお願いしたら出してくれないかな」

「ユリ、あの人も期待しないでって言ってたし。頼りにしない方がいいよ」

 そう言ったのはミーヴァだ。

 彼は厳しい視線を牢屋の外に向けていた。どうやらあの美人を相当警戒しているようだった。







 鉱石の淡い明かり、身じろぐ音、子供のひそひそ声。

 何も新しい動きが起きないまま数十分が経った。

「お前、それなんだ?」

 いい案が思いつかず、ずっと手に持った小袋を眺めていたアルベラへミーヴァが尋ねた。

「露店で貰ったの。花の種」

「種……ちょっとみせてくれ」

 どうぞ、とアルベラが手渡すと、ミーヴァは明かりに近づき中身を掌に出した。

「へー。エリグランジェの種か。珍しいな」

 「みたいね」とアルベラは頷き、「ミーヴァは物知りね」とユリは感嘆の言葉を漏らした。

 ユリの言葉に、ミーヴァは照れ混じりに「じい様が趣味で薬もいじるんだ。調合とかでたまに使うから……」と返す。

 「はいはい……」とアルベラは目を据わらせる。

 ミーヴァは気を取り直して、種を指先で転がし観察を続けた。

「……これ使えるかも」

 ぽつりと零れたその言葉に、アルベラとユリは無言でミーヴァへと視線を送った。

 考えに没頭しているようで、ミーヴァは二人に顔を向ける事は無かった。種を見て、壁高くにある講師付きの窓を見て、ぶつぶつと考えを口にした。

「……登れたとして、けど格子は……そうか。格子自体は周りの土くれごと剥がせばいいんだ……。あれくらいならぼくの力だけでもなんとかできそう……けど……――」

 ミーヴァはアルベラへ顔を向ける。

「なあ、お前魔法使えるか? 魔術でもいい。水が出せれば何でもいいんだけど」

「水? 残念だけど、私まだ魔法は使ったことないの。ていうか魔法と魔術って同じでしょ?」

「はぁ……温室育ちの上勉強不足か……」

「はぁ!?」

「ごめんねミーヴァ。私も魔法使えないの」

「ユリはいいよ。気にしないで」

(このクソガキめ……)

 余りの対応の違いにアルベラは恨みがましい視線を向ける。ミーヴァはそれを無視し、他の子達へも誰か水が出せる者は居ないかと聞いて回った。しかしこの中で魔法を使える子供は一人もいないようだった。

 「後で覚えてろ」と思いつつ、アルベラは今は逃げる事を優先する。

「で、フォルゴート。どんな手を思いついたの?」

「えっと……」

 ミーヴァは答える気はあるようだが、「あいつが聞いてる」と言うように美女のへ視線を向けた。

 だが彼女は会話に特に反応する様子はない。腕を組んだまま目を閉じてトントンと指を動かしていた。

「大丈夫じゃない? あの人、私達には何にもしてくるつもりなさそうだし」

 アルベラの言葉に、ミーヴァも納得したようで口を開いた。

「これ、ヤブガラシの種だ」

「ヤブガラシ? 藪を枯らすっていう蔦のあれ?」とアルベラ。

「うん」

 その植物なら日本にも存在していたが、果たして同じ植物だろうか。

 いや、そこも気になるがなぜヤブガラシの種? とアルベラは首を捻る。

「フォルゴート、これはエリグランジェとかいう花の種よね?」

「ああ、この粒が大きいほうは。けどほら、砂に混ざったこれ。この粒はヤブガラシの種だ」

 「へぇ~」とアルベラとユリの関心した声が重なる。

「これ、使っていいか?」

「ええ。出られるんなら全部お好きに」

「……」

「……?」

 ありがとう、と言おうとしたがその言葉が素直に出ず、ミーヴァはアルベラを一瞥しただけだった。アルベラは謎の間に首を傾げる。

 ミーヴァはその間から逃げるように小窓のついた壁の元へ行った。しゃがみ込み、種の入った袋をひっくり返し、中に残りがないよう弾いて出し切る。

「これをここにこうやって埋める」

 そして何やら文様のようなものを土に描く。手をかざし、小さく呪文でも唱えるかのようにぶつぶつと何かを言っていた。ミーヴァの言葉に反応するように、土の中にある種から光が漏れていた。魔力に反応し、ミーヴァの髪も淡く青く輝く。

「これは……?」

 何をしたのだろう。とアルベラは興味深く光を見つめた。

「じい様が開発した魔術の一つだ。見てればわかる。――お姉さん。水くれない?」

 ずかずかと格子越しに声をかける少年に、赤いドレスの美女は「いいわよ」と快くテーブルに置いてあった水差しを渡す。

「ふふ、何か素敵なことでも思いついた?」

 ミーヴァは素早く目を逸らしアルベラやユリ達の方へ戻る。

「あらあら、可愛い」

 美女は特に気にした様子もなく椅子へと戻る。

 アルベラとユリは興味津々でミーヴァの行動を見守る。

 何やら行動を起こし始めたミーヴァへ、他の子供たちも期待の籠った視線を送り始めていた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

処理中です...