アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~

物太郎

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二章 水底に沈む玉

129、学園訪問 1(二人きりの庭園)

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(い、勇ましいものだな)

 中等学園の校門。

 馬に跨った二人の女性に、門番はぽかんと口を開く。

 片方は、この学園に通っている生徒たちと、同じ歳の頃合いの少女。片方は、二十代半ばから後半の、メイド服の女性。しかもかなりの別嬪べっぴん。

 二人は手慣れた様子で馬から降りると、馬を引いて門の横に設置された通用口を尋ねてきた。

「こんにちは。ラツィラス・ワーウォルド殿下から、立ち入りの申請が出てると思います。アルベラ・ディオールです」

 通用口に併設された警備室。門番が顔を覗かすその窓口へと、少女は、事前に学園から送られている「申請許可」を示すバッジを見せる。

「ああ。公爵様のご令嬢ですね。はい、確かに。………いやあ。驚きました。お嬢様と同年位のご令嬢は、今まで沢山見てきましたが………………………この年でハイパーホースにお乗りになってる方は、そうそう見られませんね。ご令息でも珍しいですよ」

 少女は少し黙り込む。もともとの顔つきのせいか、彼女のそのツンとした表情に、門番は「気を悪くしただろうか」と不安になる。自分の発言に若干後悔した。

「あ、あの、別に深い意味は」

「え? ………ああ。ええ。そうじゃないの。………いや、そうなのね。高等部だと、乗ってらっしゃる方がそれなりに居らっしゃるのかしら?」

「は、はい! 馬屋の設備が中等部よりも充実していますし、馬以外の騎獣にも興味を持たれる方も多いので」

「そう………。ここら辺のご令嬢が、あまり乗馬を嗜まれないとは聞いていたんですが、乗ってる馬の種類までは知らなかったもので。ありがとうございます。参考になりました」

 少女は上品にほほ笑むと、開けられた通用口を通り、学園へと入っていった。凛としたその後ろを、とんでもなく美人の使用人が、これまた上品に礼を言い付き従っていく。

 二人は通用口を抜けると、馬に跨り直す。かっぽかっぽと、優雅にも聞こえる足音が遠のいていった。

「おい、今公爵のご令嬢って言ったか?」

 警備室の中、一人遊び用の魔術具に興じていた同僚が顔をあげる。

「ああ。あのディオール様の所の。殿下からのお招きだ」

「へぇ。ラツィラス様か。候補を断ったって聞いたが、結構親しいのか? ………どうだった? 公爵様似の変人だったか?」

「まあ………ある意味凄かったぞ。落ち着いてるというか、やけに大人びてるというか。使用人のレベルもかなり高かったしな。………『これが公爵家か』って、格の違いを感じて少し落ち込んだよ」

「なんだそりゃ。公爵だろうが何だろうが、まだ十三~十五のお嬢ちゃんだろ」

 同僚はカラカラと笑う。

「そうだけど違うんだって。なあ、帰りはお前が出てみろ。きっと俺が言いたいこと分かるって」

 若干ムキになりつつ、門番は自分と同じく男爵家出身の同僚に、理解してもらうべく夕刻の番を提案する。





(休息日は正門が閉じてる、か。にしても、通用口もなかなか立派じゃない。流石、国中の貴族が集まる学校)

 アルベラは、先ほど門番に見せたバッジを胸ポケットへと仕舞う。

(つけてくれって言われてるし、馬から降りたら。指に刺したら嫌だし。………にしても、休みなのに意外と生徒がいるのね)

 遠方からも通っている生徒がいるため、二日の休息日では家へ帰らない者も多いようだ。彼等は寮で過ごしたり、お付きの者を連れて王都を回って過ごしたりしているらしい。

(ハイパーホース、思ってたより目を引くのか。お母様、『乗馬をするならこれくらいの馬は』って言ってたけど………………………あの人の基準も少しずれてるってこと忘れてた。………けどこの視線、絶対ハイパーホースのせいだけじゃないんだよなぁー………)

「あら、なんでしょう?」

 アルベラは後ろの使用人へ視線を向ける。

「………いえ。何も」

(こいつが悪目立ちしている)

 先ほど、正門へ向かって歩く何処かのご令息が、エリーを見て「なあ、見たか? あの使用人」と友人に囁き通り過ぎて行った。

(本当、面白いぐらい………)

 アルベラは馬の背からフロントガーデンを堪能しつつ、エリーに目を奪われる人々の数を数える。





「どこから見る? やっぱ校舎が先かな。その後食堂とか図書館に行って………あと温室とプールもあるんだっけ。音楽や演劇用のホールもあるんですって。あ、あと高等学部との共同施設で博物館と美術館」

「あらあら、意外と乗り気ですね」

(………可愛らしい)

「ですが、あちらを………」

 入ってすぐのエントランスホール。若干浮かれ気味のアルベラだったが、エリーが指さす先に見覚えのある執事服の男性を見つけてしまう。彼はこちらを見てにこやかにお辞儀した。そして、手のひらでそっとアルベラの左手の方を示す。

(ギャッジさん………その手はつまり)

「やあ」

 エントランスの横に並べられた休憩席の中、目立つ金髪頭が目に入る。まるで自分が来る少し前に来ていたかのように、ラツィラスが椅子に座り手を振っていた。

 「案内無しで、少しの間好き勝手に校内を回ってしまおう」という思惑が消し去られた。若干下がったアルベラの肩。それに気づき、エリーが小さく微笑む。

「びっくりした? 僕には優秀な執事がいるからね」

 ラツィラスは悪戯が成功した時のようにクスクス笑う。

「………あの、本当に怖いんですけど。ギャッジさん、殿下の周辺人物に片っ端から発信機とかつけてませんよね?」

「さあ。どうだろう。やってても幾らでももみ消せるだろうし」

「否定してほしいんですが………」

 ラツィラスはクスクスと笑うのみで、結局否定の言葉は聞けなかった。





「人気者だね。『あのディオール家のご令嬢』様」

「誰のせいですか」

 王子と歩く校内はやはり目を引いた。何せ、王子が連れているのはいつもの傍付きではない。知る人は知る「例のご令嬢」である。この間の王子の誕生日会で、大体の者には知れ渡っているようで、目にした者達は「なぜ二人が一緒に居るのか?」という疑問の表情を浮かべていた。

「ねえ、ちょっとゆっくり話さない?」

 校舎本館の一階と、食堂を軽く周ると、ラツィラスは食堂の前にある広い庭に出た。お茶をする予定の場所を訪れる。

 大人の腰ほどの高さの生垣に囲われた、見るからに外での茶会用に作られたかのようなガゼボ。

 ドーム型の屋根。白い柱と、装飾の施された金色の手すり。生垣には、白い椿のような花が咲き誇っていた。その足元にはイチゴのような実を付けた植物が絡みついている。

 ラツィラスはそこから少し離れたベンチに座ると、隣をとんとんと叩いて見せる。

 アルベラは「わかりましたよ」と息をつき、大人しくその指示に従った。

「エリーさん、食堂に行って飲み物貰ってきてもらえる?」

「はい。畏まりました」

(なぜギャッジさんに頼まない)

 辺りを見ると、いつの間にかあの執事の姿が消えていた。

(なんであの人いつもそばにいないの?! 呼んだら現れるのにどこにいるの?!)

「ジーンが、あそこで君に助けられたってね」

 ラツィラスの言葉に、アルベラはぴたりと動きを止めた。隣の彼へ顔を向け、目を据わらせる。

「………ああ。そうでしたね。ジーンからは大方お聞きになってるんですか?」

「もちろん!」

 ラツィラスは輝かんばかりの笑顔を浮かべた。

 先ほど、校内を歩いていた時のご令嬢方の、お上品な黄色い声を思い出す。

(笑顔テロリストが………)

 わざとらしい笑顔も程々に、王子様は少し真面目な顔へと変わる。

「ありがとう。ジーンの事と、あと、ホークや他の子も。助けてくれて」

「いいえ。大体は私の連れがしてくれた事なので」

「君の所の魔族かい? ガルカ君だっけ」

「よくご存じで」

「すごいよね、彼。護送中に、この国きっての魔術師、アート・フォルゴートの張った結界を破壊して脱走したんだって? 魔力封じの枷が付いた状態で、力づくで。………その後すぐに君に拾われて、役所送りからのお仕え。………これぞ巡り合わせって感じだよね」

「フォルゴート様の結界?」

(もしかして、初めにあった時ボロボロだったのってそれのせい………)

「………え。ていうかなんで私が拾ったことまで」

「凄いでしょ? ギャッジの発信機、兼盗聴器」

 アルベラは急いで自分の体を見回す。

「嘘嘘。君が魔族を拾ったって話は、前にラーゼンから聞いたんだよ」

 緑の瞳に睨みつけられ、ラツィラスは楽しそうな笑みで返す。

「王子様に向かってそんな顔かい? ………それで、探し物ってやつは見つかった? 何を探してたのかな?」

(疲れる話題を振ってくるのはどこのどいつか)

 アルベラは質問を受けため息を漏らす。

「魔族にでも聞いてください。彼らが回収してますから。私があの村に行ったのなんて、『好奇心』が大半の理由なので。彼等の腰ぎんちゃくみたいな形で行ったに過ぎないんですよ」

「好奇心か。人がたくさん死んだっていうのに、なかなか不謹慎な理由だね。村に入るまで知らなかったのかな」

「あら。知ってましたよ。王子だって、止める人が居なければ知った上で見に行ったんじゃないですか?」

「良く分ってるなぁ。嬉しいよ」

「食えない反応です事」

 棘を隠しもしないアルベラに、ラツィラスは気を悪くした封もなくクスクス笑う。楽し気な視線を適当な花に向けると、彼は独り言のように溢した。

「君と二人きりなんて、初めてだよね?」

「………そ、そうですね」

「なんか不思議な感じだなぁ。全然ドキドキしないや」

「今喧嘩売ラレマシタ?」

 アルベラは笑顔もなく反射的に聞き返す。

「ごめんごめん。そういう意味じゃないよ。ほら、安心感ってやつ。慣れ親しんだ仲ってやつだよ」

「それはそれでおかしい気もしますが………」

 確かに、幾つかお世話になってもきたが。正直、そこまで心を許し合っているようにも感じない。と、不思議に思う。

(私の認識だと、お互い腹を割って話す間柄、ってほどではないはず)

 怪訝な表情のアルベラに、ラツィラスは人の心を溶かしてしまうかのような、柔らかく優し気な笑顔を浮べる。

(………っう)

「僕は、君といると楽しいよ。アルベラは違うのかい?」

 アルベラは咄嗟に、心にバリアを張った。心を強く持ち、王子様の笑顔を受け止め、微笑み返す。

「ええ。いつも楽しい時間を過ごさせていただき、感謝しております」

 呆れるくらいに上手く作られた華やかな笑顔。ラツィラスは苦笑する。

「いい機会だし、ぜひ聞きたいんだけど。君はさ、いつから僕の事を警戒し始めたの?」

「………は?」

 アルベラは笑顔のまま固まった。





「出来るだけ正直に教えて欲しいな。アルベラはさ、僕と初めてあった時のこと覚えてる?」

(ん? 一体なんの話だ?)

「もう一度言うね。はぐらかさず、できるだけ、真面目に答えてもらえると嬉しい。僕も、出来るだけ真面目に話すから」

「は、はい」

「それで、覚えてるかな?」

「薄らとですが………八歳の頃ですよね?」

「そう、それ。君はあの時、僕と会って、どう感じた?」

「どう……………………それはそれは、天使のようで可愛らしい王子様に、心奪われました」

 ラツィラスはクスクス笑い「ありがとう」と返す。

「だよね。僕も、君がそんな感じだった記憶はあるよ。普通に、好意しか感じなかった。………じゃあさ、その次に会った、十歳の誕生日は? どう思った?」

「…………可愛らしいと、思いましたが? 変わらず、輝いてらっしゃるな、と」

「そう?」

 ラツィラスの透き通る瞳が、アルベラへじっと向けられる。それは日の光を受け、更に透明度が増し、輝いていた。その中央には、吸い込まれそうな深い赤。

「本当にそれだけだった?」

(この子は一体、何を話したいんだ)

 どう答えたらいいかわからない。

「………ラツィラス様は、どう感じられたんですか?」

 ラツィラスは、首を傾げた。背もたれへ体重を預け、軽く足をぶらつかせる。

「僕はね、少し警戒されてるなって。好意も感じたけど、壁も感じた」

(うむ…………………事実)

 「流石です」と、アルベラは心の中で拍手する。

「どう? あってるかな?」

 アルベラは少し間を置き、「はい」と返す。

「僕さ、気になってたんだ。何で君は、僕を警戒してたのか。壁を作っていたのか」

「………壁」

 アルベラは考える。

 ラツィラスも、話しながら考えている様子だった。言いたいことは何なのか、考え、思い出しながらぽつぽつと口に出しているようだ。

「一応言っておくと、僕は怒ってなんかないし、不快でもないよ。去年よりも、君は僕やジーンから、距離を取ろうとしなくなってくれた。と、思う。それに前から、『距離を取られてる』と感じても、『嫌われてる』とは感じなかったし」

(聡いなぁ………………………………怖)

「八歳の時の事は、『王子様に会った! 話しちゃった!』っていう興奮の方が勝っていて、正直あまり覚えてません。ですが十歳の頃は、ラツィラス様と話してると、気を抜くと心が捕まれてしまうような気がして。それで警戒してた気がします」

 「自分の将来の『衝突相手』だから、距離の取り方に迷走していた」とは、当然言えない。

 だが、この王子様が、他の人達よりもかなり心の奥深くに入り込んでくるような感じがするのも確かなのだ。

 大事にしなければ。守らなければ。対面し、言葉を交わしているとそう思わされる。

「殿下と話していると、『自分はこの人の事が好きだ』と錯覚してしまうんです」

「………へぇ。『錯覚』かぁ。正真正銘の一目ぼれとかじゃなくて?」

「一目ぼれ………。よく自分で、そんな大真面目な顔で言えますね」

 「まあね」と、笑いながら返される。

「真面目に話すって言ったじゃない。それにこの方がスムーズでしょ? で、一目ぼれではなかったの?」

「違います。………………多分。それよりも、良く知ってる相手を信頼、親愛する感覚に近いと思いました」

「………君、誰かを信頼したり親愛したことあるのかい?」

「そこですか?」

 王子の神妙な顔に、「あるわ!」という言葉を飲み込む。

 実際、親しい友人や、恋人にそういう気持ちを抱いたり、感じたりしたことはあった。

(勿論前世だけど………けど、死んだ頃には縁も切れてた)

 「ごめんごめん。冗談だよ」とラツィラスはクスクスと笑った。

「いいえ。実際、想像や妄想みたいなものです。けど、ある意味キリエの安心感と近いように感じました。それより少し異様な熱みたいなのがあるんです。気を抜いたら夢中になってしまうような」

 言っていて、少し考え込んでしまう。

 確かにそうだ。今も、たまに笑顔を向けられれば魅了されてしまう気がして気が気じゃない。

(魔法? そうゆう特性みたいなのって存在するのかな。聞いたことないけど)

 アルベラはラツィラスに視線を向ける。

「今なら三年の付き合いなので、ラツィラス様の性格、人柄っていうのが大雑把になら分かります。その上で自然と惹き付けられて、親しみを持つなら良いんです。けど、あの頃の私は名前と顔と地位しか知りません。なのに親愛なんて。納得できないというか。………………………だからちょっと距離を取らなきゃって、思ったんじゃないですかね? 過去の感覚を思い出しながらなんで、自分でも憶測ですが」

 全て後付けだが。まあ、嘘ではない範囲だ。

 アルベラは「いかに?」と、ラツィラスの顔を見る。

 目があい、彼は微笑みのまま目を細めた。それがどこか切なそうにも見えて。それが美しくて、つい目を奪われてしまう。

 我に返り、顔を逸らす。

(———くそ。相変わらず綺麗な顔しやがって)

 アルベラは不服な表情を浮かべる。

 それに対し、ラツィラスは「………っぷ。く、ふふふ。ふふふふふ」と小さく吹き出し、笑い出した。

「………なるほど。そういう感じだったんだ」

 「そうかそうか」「なるほどなるほど」と、楽し気に笑う王子様に、アルベラは訝し気にそれを眺める。彼のテンションから、完璧に置いてけぼりにされてしまった。

「いや。ごめんね。本当に気になってて。けど、嫌な感じでもなかったのも確かだったから。君はちゃんと僕と接してくれてたし。それでいて、心を許し過ぎないようにって。………いやあ。ある意味安心して接することが出来たっていうか」

「どういう意味ですか? 壁がある方が安心できるって」

 ラツィラスは晴れ晴れとした笑顔を浮かべていた。

「そういう意味だよ。前にも言ったじゃない? 皆して僕を可愛がるって。優しくしてもらえるのは有難いんだけどね。………暴力的に突き放すわけではないし、言葉を投げれば返してくれる。君の距離感は、ある意味居心地がいいんだ。そりゃあ、親友とはまた違う感じだけどね。ジーンは『なんでも話せる間柄』って感じだけど、君は、同年で『対等に話ができる感じ』っていうのかな。………うん。そう。そんな感じだ。君の腹の底が良く分からない時はあるけど、お互いの捻くれた本心を探り合ったりする感じとか、僕、結構楽しいよ」

 アルベラは、言葉の裏を探すようにラツィラスの顔を見つめる。裏の無さそうな、「純粋な少年」のような笑顔。

 単純に、仲良くしようとしてくれている。

(………でも、それだけじゃないよなぁ。何か確認された感じ。………………………けど、今言わないって事は聞いても無駄か。そのうち、機会があれば………)

 会話が途切れた。

 ラツィラスは隣のアルベラを盗み見る。

 目が合うかと思ったが、彼女は真面目な顔で空を眺めていた。目を細くし、無意識なのか、唇を尖らせている。

(一体何をそんなに考えて………)

 つい苦笑してしまう。

 やがて、大きく息を吸い込む音が聞こえた。

「私も、楽しいですよ。殿下もたまに人間らしい所がありますし、根はいい人なのかもって、最近は思えるようになりました。………………………と、言ってやるのが、酷く癪ですが。ここだけの話、とてもお生意気でいらっしゃいますから」

「本人を前に良い度胸してるね」

 そういう割に嬉しそうに笑うではないか。と、アルベラはため息をつく。

「人目がありませんでしたので。軽口をお許しくださいませ」

 ラツィラスはクスクス笑い、胸を張って「許そう」と返す。

 年相応の可愛らしいおふざけに、アルベラは呆れて笑みをこぼした。

 そんな彼女を、ラツィラスは少々意外にも感じていた。

(ここまでちゃんと応えてくれるとは。……………言葉で拒否できなければ、この場から逃げるとかもできたのに。外側は捻くれてるけど根は真面目、か)

「………どうです? 吐かせてスッキリしました?」

 何の気なしに眺めていた生垣から、隣へと視線を移す。彼女は声の通り、不服そうな顔をしていた。それが誰かさんと似ている気がして笑ってしまう。

「うん。とってもスッキリ。準備ができたのに、空気を読んであえて声をかけないでいてくれたエリーさんに、感謝しないとね!」

「な?!」

 アルベラが視線を斜め後ろに走らせる。

 垣根に囲まれた、真っ白なガゼボの中央。設置された丸テーブルの上には、ちょっとしたお菓子が並べられ、お茶もすぐにでも淹れられるような状態に整っていた。その奥では、エリーが口に手を当て、上品にほほ笑んでいる。
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