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第1話
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「僕は君のような悪女を愛せない」
王宮の広間で、第一王子クラント・ハイマス殿下は私にそう告げました。
集まっていたここで働く従者たちが、ざわめきと共に私たちを見つめています。
「君の浪費癖や陰湿ないじめ、もう我慢の限界だ。愛することは出来ない」
浪費癖や陰湿ないじめ……。
全く心当たりがありません。
しかし、愛せないときましたか。
そうしますと、次の言葉は……
「僕は君との婚約を破棄するよ、マーガレット・フェイン嬢」
やはりそうですよね。
そのセリフが来ると思いましたわ。
本当、予想を裏切らない王子様ですこと。
国王陛下が隣国へお出かけになられ、城を一時的にクラント殿下に任せた途端の暴挙。
正直に言って、こうなることすら予想済みでしたけど。
クラント殿下から愛されていないのはもちろん、彼の愛情がどこへ向かっているのかも気付いていましたから。
きっと国王陛下がお戻りの際には、あれこれ理由をつけて私との婚約破棄を正当化するのでしょうね。
「さあマーガレット、もちろん婚約破棄には同意するだろう?僕は第一王子、今この城で一番偉いのも僕だ。まさか否定なんて……」
「当然ですわ。誠に残念ではございますが、婚約破棄を了承いたしますわ」
ちっとも残念ではないのだけれど、少しばかりのサービス精神で言葉を添えて差し上げます。
それでもこの傲慢で自分勝手な王子様のお気には召さなかったみたいです。
彼の顔が少し不機嫌になりました。
ひょっとして、私が婚約破棄を撤回してくれるよう懇願するとでも思っていたのでしょうか。
それこそ残念ながら、そこまでのサービス精神は持ち合わせていません。
「ふん。まあいい。みんな、よく聞け。僕はもうすでに新たな婚約者を決めている」
クラントの視線が、広間にいる1人のメイドへと注がれます。
彼女の名前はシエル。
私の身の回りの世話をしてくれている、大切な侍女です。
そう。
シエルこそが、本来私に注がれるはずの愛情が向かっていた先なのです。
「シエル、前へ」
シエルの方も、クラントからの好意に気付いていたのでしょう。
迷うことなく、王子の隣へ並び立ちました。
広間のざわめきを鎮めるべく、クラントは1つ咳ばらいをしてから私に語りかけます。
「どうだ?自分が今までこき使ってきた侍女に座を奪われた気分は。そうだ、お前は今日からシエルの侍女になれ。完全に立場逆転だな」
クラント殿下が勝ち誇ったように笑います。
こき使った覚えなど、まるでないのですけれど。
ですが、してやったりという態度がむかつきますわね。
軽くパンチを入れて差し上げますわ。
「それはそれは。婚約者として不十分だった私を追い出さず、城に残し職を与えていただけるなんて。寛大なお申し出に感謝いたしますわ、クラント殿下」
「貴様!」
あらま。
王子がお怒りです。
さすがに、嫌味が伝わってしまったようですね。
「ええい、不愉快だ。おい、こいつをつまみ出せ!」
「では私が」
軍隊長のグレンが私の肩を抱き、王宮から退出させます。
外に出され、扉が閉まる瞬間。
私はシエルと目を合わせました。
彼女が勝ち誇ったようにニヤリと微笑みます。
私もまた、彼女に微笑み返すのでした。
「はあ、ここまで上手く行くとは思わなかったなぁ。あ、いや、思っていませんでしたわ。王子殿下の婚約者になるんですもの。言葉にも気を付けないと」
第一王子の婚約者に与えられる部屋。
椅子に腰かけたシエルが楽しげに笑っています。
対する私は無表情で返しました。
「あまり調子に乗らないことよ」
「まあ怖い。平静を装っていても、やはり婚約破棄されたことがショックなんですの?」
「誰がショックを受けるものですか。むしろ喜ぶべきだわ」
「ふふっ。ともかく、私がこれからあなたにお仕えすることもないわけですね」
シエルは相変わらず楽しそうです。
でも私は無表情を貫きます。
強がっているわけではありません。
本当に何のダメージも受けていないのです。
だって、全ては私の計画通りに動いているのですから。
クラント殿下にしてもシエルにしても、私の手元にある駒でしかないのです。
「そういえば、明日には私とクラント殿下の婚約を明確にする儀がなされるそうですわ。楽しみですわねぇ」
「そう」
早速、婚約の儀ですか。
やはりあの王子、予想したとおりに動いてくれますわね。
駒としては優秀なのですが、第一王子としては不十分としか言えません。
私は心の中で呟きます。
『明日が楽しみですわね』と。
翌日。
昨日、婚約が破棄された広間で、今日は新たな婚約の儀が行われています。
それにしても、クラント殿下は国王陛下にどう説明するつもりなのでしょう。
予定では、あと1週間はお帰りにならないことになっています。
その間に考えるつもりでしょうか。
何にせよ、無計画な王子様です。
「さあシエル、おいで」
クラント殿下に招かれ、ドレスに身を包んだシエルが広間の中央に立ちます。
その顔はとても幸せそうです。
それを見つめるクラント殿下もまた、笑みを浮かべています。
でもその笑みは卑しいというか下卑ているというか……。
ともかく、純粋な愛情に基づいた笑顔ではありません。
きっと今晩のうちに、シエルを汚そうという心づもりなのでしょう。
「愛するシエル、僕との婚約を了承してくれるかな」
広間にいる全員が、固唾をのんでシエルを見つめます。
ふと、クラント殿下が私の方へちらりと視線をやりました。
きっと、私の悔しげな表情が見たかったのでしょう。
でも残念ながら、あなたの期待する表情を今から受けべることになるのはクラント殿下、あなた自身ですわ。
私は逆転劇の始まりを告げる笑顔を浮かべます。
その表情に王子が怪訝な顔をした時。
シエルが逆襲の一手を放ちました。
「クラント殿下、その婚約……」
「お断りいたします!」
王宮の広間で、第一王子クラント・ハイマス殿下は私にそう告げました。
集まっていたここで働く従者たちが、ざわめきと共に私たちを見つめています。
「君の浪費癖や陰湿ないじめ、もう我慢の限界だ。愛することは出来ない」
浪費癖や陰湿ないじめ……。
全く心当たりがありません。
しかし、愛せないときましたか。
そうしますと、次の言葉は……
「僕は君との婚約を破棄するよ、マーガレット・フェイン嬢」
やはりそうですよね。
そのセリフが来ると思いましたわ。
本当、予想を裏切らない王子様ですこと。
国王陛下が隣国へお出かけになられ、城を一時的にクラント殿下に任せた途端の暴挙。
正直に言って、こうなることすら予想済みでしたけど。
クラント殿下から愛されていないのはもちろん、彼の愛情がどこへ向かっているのかも気付いていましたから。
きっと国王陛下がお戻りの際には、あれこれ理由をつけて私との婚約破棄を正当化するのでしょうね。
「さあマーガレット、もちろん婚約破棄には同意するだろう?僕は第一王子、今この城で一番偉いのも僕だ。まさか否定なんて……」
「当然ですわ。誠に残念ではございますが、婚約破棄を了承いたしますわ」
ちっとも残念ではないのだけれど、少しばかりのサービス精神で言葉を添えて差し上げます。
それでもこの傲慢で自分勝手な王子様のお気には召さなかったみたいです。
彼の顔が少し不機嫌になりました。
ひょっとして、私が婚約破棄を撤回してくれるよう懇願するとでも思っていたのでしょうか。
それこそ残念ながら、そこまでのサービス精神は持ち合わせていません。
「ふん。まあいい。みんな、よく聞け。僕はもうすでに新たな婚約者を決めている」
クラントの視線が、広間にいる1人のメイドへと注がれます。
彼女の名前はシエル。
私の身の回りの世話をしてくれている、大切な侍女です。
そう。
シエルこそが、本来私に注がれるはずの愛情が向かっていた先なのです。
「シエル、前へ」
シエルの方も、クラントからの好意に気付いていたのでしょう。
迷うことなく、王子の隣へ並び立ちました。
広間のざわめきを鎮めるべく、クラントは1つ咳ばらいをしてから私に語りかけます。
「どうだ?自分が今までこき使ってきた侍女に座を奪われた気分は。そうだ、お前は今日からシエルの侍女になれ。完全に立場逆転だな」
クラント殿下が勝ち誇ったように笑います。
こき使った覚えなど、まるでないのですけれど。
ですが、してやったりという態度がむかつきますわね。
軽くパンチを入れて差し上げますわ。
「それはそれは。婚約者として不十分だった私を追い出さず、城に残し職を与えていただけるなんて。寛大なお申し出に感謝いたしますわ、クラント殿下」
「貴様!」
あらま。
王子がお怒りです。
さすがに、嫌味が伝わってしまったようですね。
「ええい、不愉快だ。おい、こいつをつまみ出せ!」
「では私が」
軍隊長のグレンが私の肩を抱き、王宮から退出させます。
外に出され、扉が閉まる瞬間。
私はシエルと目を合わせました。
彼女が勝ち誇ったようにニヤリと微笑みます。
私もまた、彼女に微笑み返すのでした。
「はあ、ここまで上手く行くとは思わなかったなぁ。あ、いや、思っていませんでしたわ。王子殿下の婚約者になるんですもの。言葉にも気を付けないと」
第一王子の婚約者に与えられる部屋。
椅子に腰かけたシエルが楽しげに笑っています。
対する私は無表情で返しました。
「あまり調子に乗らないことよ」
「まあ怖い。平静を装っていても、やはり婚約破棄されたことがショックなんですの?」
「誰がショックを受けるものですか。むしろ喜ぶべきだわ」
「ふふっ。ともかく、私がこれからあなたにお仕えすることもないわけですね」
シエルは相変わらず楽しそうです。
でも私は無表情を貫きます。
強がっているわけではありません。
本当に何のダメージも受けていないのです。
だって、全ては私の計画通りに動いているのですから。
クラント殿下にしてもシエルにしても、私の手元にある駒でしかないのです。
「そういえば、明日には私とクラント殿下の婚約を明確にする儀がなされるそうですわ。楽しみですわねぇ」
「そう」
早速、婚約の儀ですか。
やはりあの王子、予想したとおりに動いてくれますわね。
駒としては優秀なのですが、第一王子としては不十分としか言えません。
私は心の中で呟きます。
『明日が楽しみですわね』と。
翌日。
昨日、婚約が破棄された広間で、今日は新たな婚約の儀が行われています。
それにしても、クラント殿下は国王陛下にどう説明するつもりなのでしょう。
予定では、あと1週間はお帰りにならないことになっています。
その間に考えるつもりでしょうか。
何にせよ、無計画な王子様です。
「さあシエル、おいで」
クラント殿下に招かれ、ドレスに身を包んだシエルが広間の中央に立ちます。
その顔はとても幸せそうです。
それを見つめるクラント殿下もまた、笑みを浮かべています。
でもその笑みは卑しいというか下卑ているというか……。
ともかく、純粋な愛情に基づいた笑顔ではありません。
きっと今晩のうちに、シエルを汚そうという心づもりなのでしょう。
「愛するシエル、僕との婚約を了承してくれるかな」
広間にいる全員が、固唾をのんでシエルを見つめます。
ふと、クラント殿下が私の方へちらりと視線をやりました。
きっと、私の悔しげな表情が見たかったのでしょう。
でも残念ながら、あなたの期待する表情を今から受けべることになるのはクラント殿下、あなた自身ですわ。
私は逆転劇の始まりを告げる笑顔を浮かべます。
その表情に王子が怪訝な顔をした時。
シエルが逆襲の一手を放ちました。
「クラント殿下、その婚約……」
「お断りいたします!」
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