22 / 31
第22話
しおりを挟む
セグレルダ滞在2日目。
昨日の就寝が遅かったこともあり、俺たちが目を覚ました頃にはすっかりお昼を過ぎていた。
昨日の夕食を取った店で食事を取り、街に出てみる。
頼りになるのは、昨日イルハからもらった地図だ。
「どこか行きたいところはあるか?」
「そうですね……どこも楽しそうで目移りしてしまいます」
「あ、見て見て。クイクル治療の店だって」
クイクル治療。
その名前は俺も聞いたことがある。
各種族に伝わる治癒スキルや伝統療法を組み合わせ、怪我を神がかり的なスピードで治す、世界でここにしかない治療法だ。
「ネミリには早く怪我を治してもらいたいしな」
「それに、疲労回復効果もあるみたいだよ。2人も受けてみたら?」
「私たちも受けれるなら、ぜひ受けてみたいです」
「よし、決まりだ。えっと、意外と近いんだな」
この街では、歩行者用のスペースが道の両端に設けられ、真ん中はジンリキシャという人の力で引っ張る乗り物用の通路になっている。
クイクル治療の店までは、歩いて行くことができそうだ。
「あ、ネズミだ」
俺の足元に、ちょこんとネズミが座っている。
目が合うと、ネズミは駆けていった。
「あれはただのネズミですから、ご安心ください」
「それならよし。行くとするか」
「ゴーゴー!」
俺たちは地図を頼りに、クイクル治療の店へと歩き始めた。
10分ほど歩き、店へ到着した。
入ってみると、受付のところにエルフの女性が座っている。
「いらっしゃいませ~。ご予約の方ですか?」
「あ、いや、予約はしてないな。してないと入れないか?」
「基本的にはそうです。でもお客様は運が良いですよ。ちょうど、3名分のキャンセルが出たところなんです。今すぐでよろしければ、ご案内できます」
予約を取って出直しかと思ったら、何という幸運。
クイクル治療なんてめったに受けられないのに、もったいないことをする奴もいたもんだ。
「それでいいよな?」
「もちろん」
「本当に運が良かったですね」
「では、決まりですね。お名前、伺ってもよろしいですか?」
「俺はグレン」
「レイネです」
「ネミリだよー」
「ありがとうございます。当店では実際に怪我を治療するプランと、疲労を取ることを目的としたプランを用意しています。どうなさいますか?」
「俺とレイネは疲労回復、ネミリは怪我の治療で」
「かしこまりました。では、ネミリ様をお先にご案内しますのでこちらへ。お2人はかけてお待ちください」
ネミリだけが、連れられて奥の扉へと消えていく。
実際にクイクル治療を受けるのは初めてだけど、そのうわさは聞いていた。
どれくらいの効果があるのか、すごく楽しみだ。
何でも体験した冒険者が言うには、ふわふわして夢の中にいるような感覚になるらしい。
「お待たせしました~。お2人はこちらへ」
戻ってきたエルフに、さっきネミリが入ったのとは別の扉へ通される。
そこでは人間とエルフ、2人の女性が待っていた。
「グレン様を担当されるフレア先生と、レイネ様を担当されるアミリタ先生です。では、ごゆっくり」
俺は人間の、レイネはエルフの先生から施術されるようだ。
壁で区切られて並ぶベッドに、2人それぞれ仰向けに寝っ転がる。
「初めまして。フレアです」
「どうも」
「まずは全身の力を抜いてください。ゆーっくり息を吐きながら、少しずつ脱力して~脱力して~」
聞き心地の良い少し低めな声。
この声にもリラックス効果がありそうだな。
「はい、目も閉じてみてください。施術中、寝てしまわれても構いませんからね~。というか、ほとんどの方が寝てしまわれます」
確かにこれは寝てしまいそうだ。
転がっているベッドも、寝心地がすごく良い。
「では、始めていきま~す」
徐々に徐々に、体の表面が毛布のような温かさで覆われていく。
でも何かかけられたわけじゃない。
もうスキルの効果が始まっているのだろう。
ちなみに人間族、エルフ族、獣人族、竜人族が操るスキルはそれぞれ異なる。
似たようなスキルこそあるが、例えば人間族が竜人族のスキルを完璧に操るなどということはできない。
しかしこのクイクル治療で用いられるスキルは、どの種族でも使えるように長年かけて開発されたものだ。
完全に習得するまでには、ものすごい時間と努力が必要らしい。
このフレア先生も、穏やかな口調で物腰柔らかだが実はめちゃくちゃすごい人なのである。
……などと考えていたら、ものすごい眠気が襲ってきた。
体もふわふわする。
でもすごく気持ちが良い。
なるほど、これは起きてられないな。
首筋を強弱付けて揉まれる感覚を味わいながら、俺は深い眠りへと落ちていくのだった。
たった今、現在進行形でネミリに起きていることを知らずに。
昨日の就寝が遅かったこともあり、俺たちが目を覚ました頃にはすっかりお昼を過ぎていた。
昨日の夕食を取った店で食事を取り、街に出てみる。
頼りになるのは、昨日イルハからもらった地図だ。
「どこか行きたいところはあるか?」
「そうですね……どこも楽しそうで目移りしてしまいます」
「あ、見て見て。クイクル治療の店だって」
クイクル治療。
その名前は俺も聞いたことがある。
各種族に伝わる治癒スキルや伝統療法を組み合わせ、怪我を神がかり的なスピードで治す、世界でここにしかない治療法だ。
「ネミリには早く怪我を治してもらいたいしな」
「それに、疲労回復効果もあるみたいだよ。2人も受けてみたら?」
「私たちも受けれるなら、ぜひ受けてみたいです」
「よし、決まりだ。えっと、意外と近いんだな」
この街では、歩行者用のスペースが道の両端に設けられ、真ん中はジンリキシャという人の力で引っ張る乗り物用の通路になっている。
クイクル治療の店までは、歩いて行くことができそうだ。
「あ、ネズミだ」
俺の足元に、ちょこんとネズミが座っている。
目が合うと、ネズミは駆けていった。
「あれはただのネズミですから、ご安心ください」
「それならよし。行くとするか」
「ゴーゴー!」
俺たちは地図を頼りに、クイクル治療の店へと歩き始めた。
10分ほど歩き、店へ到着した。
入ってみると、受付のところにエルフの女性が座っている。
「いらっしゃいませ~。ご予約の方ですか?」
「あ、いや、予約はしてないな。してないと入れないか?」
「基本的にはそうです。でもお客様は運が良いですよ。ちょうど、3名分のキャンセルが出たところなんです。今すぐでよろしければ、ご案内できます」
予約を取って出直しかと思ったら、何という幸運。
クイクル治療なんてめったに受けられないのに、もったいないことをする奴もいたもんだ。
「それでいいよな?」
「もちろん」
「本当に運が良かったですね」
「では、決まりですね。お名前、伺ってもよろしいですか?」
「俺はグレン」
「レイネです」
「ネミリだよー」
「ありがとうございます。当店では実際に怪我を治療するプランと、疲労を取ることを目的としたプランを用意しています。どうなさいますか?」
「俺とレイネは疲労回復、ネミリは怪我の治療で」
「かしこまりました。では、ネミリ様をお先にご案内しますのでこちらへ。お2人はかけてお待ちください」
ネミリだけが、連れられて奥の扉へと消えていく。
実際にクイクル治療を受けるのは初めてだけど、そのうわさは聞いていた。
どれくらいの効果があるのか、すごく楽しみだ。
何でも体験した冒険者が言うには、ふわふわして夢の中にいるような感覚になるらしい。
「お待たせしました~。お2人はこちらへ」
戻ってきたエルフに、さっきネミリが入ったのとは別の扉へ通される。
そこでは人間とエルフ、2人の女性が待っていた。
「グレン様を担当されるフレア先生と、レイネ様を担当されるアミリタ先生です。では、ごゆっくり」
俺は人間の、レイネはエルフの先生から施術されるようだ。
壁で区切られて並ぶベッドに、2人それぞれ仰向けに寝っ転がる。
「初めまして。フレアです」
「どうも」
「まずは全身の力を抜いてください。ゆーっくり息を吐きながら、少しずつ脱力して~脱力して~」
聞き心地の良い少し低めな声。
この声にもリラックス効果がありそうだな。
「はい、目も閉じてみてください。施術中、寝てしまわれても構いませんからね~。というか、ほとんどの方が寝てしまわれます」
確かにこれは寝てしまいそうだ。
転がっているベッドも、寝心地がすごく良い。
「では、始めていきま~す」
徐々に徐々に、体の表面が毛布のような温かさで覆われていく。
でも何かかけられたわけじゃない。
もうスキルの効果が始まっているのだろう。
ちなみに人間族、エルフ族、獣人族、竜人族が操るスキルはそれぞれ異なる。
似たようなスキルこそあるが、例えば人間族が竜人族のスキルを完璧に操るなどということはできない。
しかしこのクイクル治療で用いられるスキルは、どの種族でも使えるように長年かけて開発されたものだ。
完全に習得するまでには、ものすごい時間と努力が必要らしい。
このフレア先生も、穏やかな口調で物腰柔らかだが実はめちゃくちゃすごい人なのである。
……などと考えていたら、ものすごい眠気が襲ってきた。
体もふわふわする。
でもすごく気持ちが良い。
なるほど、これは起きてられないな。
首筋を強弱付けて揉まれる感覚を味わいながら、俺は深い眠りへと落ちていくのだった。
たった今、現在進行形でネミリに起きていることを知らずに。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる