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第1章 変わる日常

第4節 ギルド嬢と忠告

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「グラフォス君、ギルド側の立場的にこういうことを言うのはおかしいかもしれないけど、ずっとこのパーティ募集は続けるつもりなの?」

 ギルド嬢は自分が貼った募集紙を眺めながら少し真面目な顔をしてグラフォスに問いかける。

「もちろんです。一人で森に行くのは危ないですし、それ以外の場所にも行ってみたいですから」

「んー、そういうことじゃなくて……。確かに薬草の採集とかで調薬師の人とかがパーティ募集依頼を出すことはあるけど、それは彼らに需要があるから受けられるのであって、もちろんグラフォス君に価値がないってわけじゃないんだけどね」

 ギルド嬢はそこで一度口を閉じると、困ったように彼に告げる言葉を探している。
 グラフォスはそれをただただ無表情で黙って待っていた。

 こういったやり取りは初めてではない。言葉こそ違えど定期的に告げられる警告。
 グラフォスは彼女の言葉をそう受け取っている。だから次にくる発言がなんなのかもだいたい予想がつく。

「書き師って職業は戦闘力がない人が一般的で、そういう人がパーティ募集を出しても冒険に連れて行くのはリスクが高いっていうか、護衛依頼とほとんど変わらないでしょ? だから依頼料を出すならもう少し報酬料も貯めて護衛依頼を出した方がいいんじゃないかなってお姉さん思うわけよ」

 最後はおどけたような口調で話すギルド嬢。

「確かに言っていることももっともだと思います。だけど護衛されて肌身にその危険を感じずに書かれた内容は真実味がないです」

「真実味かあ」

 確かにただ魔物の情報、魔法の情報、薬草の情報を事実として記した本。それが真実ではないとは言わない。

 ただその魔物と実際に相対したとき、その魔法を実際に目にしたとき、薬草の周りにどういったものがあるのか。

 それを知るには自分の身をもって知るしかない。だから護衛依頼ではだめなのだ。
 守られていてはそれを体感することはできない。

「確かに僕は冒険には全く向かない職業です。でもそれは僕の知識欲を止めるための言い訳にはならない。僕にとって興味のある知識を手に入れるために、危険を冒せと言われるなら、僕はその危険に飛び込みます。それでも命は惜しいです。だから少しでも危険を減らすためにパーティを組んでくれる冒険者を探しているんです」

「どうしても?」
「どうしてもです」

 グラフォスのそれは半分意地に近い。護衛対象としてではなく、一人のパーティメンバーとしてその知識を得たいのだ。

「そこまで言われたらお姉さんは何も言えないかな。でも危険を冒してまで冒険するっていうのは冒険者にも推奨していないからね? もしそんなことを君がするようだったら、その時は私も断固として反対します。……私グラフォス君に肩入れしすぎかなあ?」


 ギルド嬢は苦笑いを浮かべながら頭を掻く。

「ドリアさんは別に僕に嫌味を言っているわけではなく、善意で言ってくれているのはわかっているつもりなので。そこは感謝しています」

「ほんとにぃ?」

「ほんとですよ。ミンネさんへ報告しなければもっと素直に感謝できるんですけど」

「それは無理な話だね」

 彼女の軽快な笑いにつられてグラフォスも微笑を浮かべる。

「お、グラフォス君の笑顔ゲット! 今日はいいことありそー」

「人を一日占いの対象にしないでください。これ依頼料です」

 ギルド嬢に表情の変化を突っ込まれたグラフォスはその照れを隠すように、真顔で依頼料の銀の硬貨を一枚手渡す。

「なるほどね、グラフォス君はこういうのに弱いのか。はい1マラぴったし受け取りました。じゃ私は仕事に戻るけど、無茶だけはしたらだめだからね」

「パーティが見つかれば無茶しません」

 グラフォスのその言葉にまた苦笑いを浮かべながら、彼女は軽く手を振りながら受付へと戻っていった。
 グラフォスはそんな彼女に軽く一礼すると、ギルド端のテーブルへと向かった。
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