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第3章 それはいずれ語られる英雄譚
第40節 抜刀と無鉄砲
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「魔法も呪術もダメとなると俺しかいねえよな!」
トキトは勢いよく飛び上がるとそのまま空中で腰に差した刀を引き抜き、両手で握り上段に構える。
グラフォスはというと、ジャイアントウルフの特徴を本に記載しているのに集中していた。
もちろんすぐに戦闘に入れるように脇には魔力で羽化した別の本を用意しているが、魔力の流れが薄いからかジャイアントウルフはグラフォスの方には攻撃を仕掛けてきていなかった。
『グガアアアアアアアア』
トキトがジャイアントウルフに切迫する瞬間、シャルの呪術効果時間が終わり魔物の身体的拘束が取れる。
激しい咆哮と共にその場の空気が振動しトキトの全身に冷気が襲い掛かってくるが、彼女はそれをうけて、上段に構えていた刀を突くような形に持ち替える。
対するジャイアントウルフは口を大きく開けて、トキトが飛び込んでくるのを待ち構えている。
噛み千切るつもりだろうか。
「『刺突』」
これまでの彼女からは想像できないほどの小さくしかし確かに周りに響く声で静かにそう唱えると、トキトはジャイアントウルフの口内に向かって刀を突きだしながらそのままジャイアントウルフの口の中に体ごと突っ込んでいった。
完全にトキトの体がジャイアントウルフの口内に隠れた直後、獲物を捕らえた魔物はトキトを入れたままその口を閉じる。
ジャイアントウルフのガチンッという歯と歯が重なり合った音の後に訪れるわずかな静寂。
次に動き出したのはまたもやジャイアントウルフだった。
しかし様子がおかしい。魔物は口の中にいるはずのトキトを咀嚼するわけでもなく、周りにいるグラフォスたちへ攻撃するわけでもなく、その場の地面に体を打ち付けるようにのたうちまわり始めたのだ。
ジャイアントウルフの口端からは液体が大量に流れている。しかしそれは赤色ではなく、緑色の魔物独特な血の色をしていた。
「いったい何が……」
「まさかトキトさん、中に入ったはいいけど出られなくて暴れてるってことはないですよね?」
グラフォスは十分な情報を書ききったのか羽ペンの動きを止めて、若干呆れたような表情をしながら暴れまわっているジャイアントウルフを見つめる。
「あー……残念ながら可能性は高いわね」
シャルに関しては頭を抱えてうめき始めてしまう始末である。
二人ともトキトの身が危ないとは考えていないようで、唯一彼女の心配をしているのはアカネだけのように思える。
「何やってるんですか……。シャルさん、さっきの呪術は使えますか?」
「使えないこともないけど、短時間での同呪術の詠唱は水晶への負担が大きいわよ。この後私は使い物にならなくなるかも」
「それは困りますね」
どうやら呪術は杖の先端についた水晶を媒体として発動しているようだ。どういう原理かはわからないが、今度ゆっくりと聞かないと。
グラフォスはそんなことをのんきに考えながら、本を片手に構えてゆったりとした足取りで暴れているジャイアントウルフへと向かっていく。
そこに一切の緊張感は見られない。トレントキング・ミニトレントと相対した時もそうだったが、グラフォスは戦闘に対する危機感が低い。
「『リリース』『ウォールシールド』トキトさん! 聞こえてますか? こいつの口こじ開けられますか?」
グラフォスはジャイアントウルフの目の前に立つと、黄金色の半透明の壁を目の前に顕出させて、口の端からそして全身から冷気を放出しグラフォスを殺めようとしているジャイアントウルフの攻撃を防いでいた。
そしてまるで世間話をするようなノリでジャイアントウルフの体内にいるトキトに向かって話しかけていたのだが、当然トキトから返事があるわけがない。
しかしジャイアントウルフの動きが一瞬止まる。それに合わせたようにぐらふぁすに攻撃を繰り返していた冷気、つららも出現しなくなった。
トキトは勢いよく飛び上がるとそのまま空中で腰に差した刀を引き抜き、両手で握り上段に構える。
グラフォスはというと、ジャイアントウルフの特徴を本に記載しているのに集中していた。
もちろんすぐに戦闘に入れるように脇には魔力で羽化した別の本を用意しているが、魔力の流れが薄いからかジャイアントウルフはグラフォスの方には攻撃を仕掛けてきていなかった。
『グガアアアアアアアア』
トキトがジャイアントウルフに切迫する瞬間、シャルの呪術効果時間が終わり魔物の身体的拘束が取れる。
激しい咆哮と共にその場の空気が振動しトキトの全身に冷気が襲い掛かってくるが、彼女はそれをうけて、上段に構えていた刀を突くような形に持ち替える。
対するジャイアントウルフは口を大きく開けて、トキトが飛び込んでくるのを待ち構えている。
噛み千切るつもりだろうか。
「『刺突』」
これまでの彼女からは想像できないほどの小さくしかし確かに周りに響く声で静かにそう唱えると、トキトはジャイアントウルフの口内に向かって刀を突きだしながらそのままジャイアントウルフの口の中に体ごと突っ込んでいった。
完全にトキトの体がジャイアントウルフの口内に隠れた直後、獲物を捕らえた魔物はトキトを入れたままその口を閉じる。
ジャイアントウルフのガチンッという歯と歯が重なり合った音の後に訪れるわずかな静寂。
次に動き出したのはまたもやジャイアントウルフだった。
しかし様子がおかしい。魔物は口の中にいるはずのトキトを咀嚼するわけでもなく、周りにいるグラフォスたちへ攻撃するわけでもなく、その場の地面に体を打ち付けるようにのたうちまわり始めたのだ。
ジャイアントウルフの口端からは液体が大量に流れている。しかしそれは赤色ではなく、緑色の魔物独特な血の色をしていた。
「いったい何が……」
「まさかトキトさん、中に入ったはいいけど出られなくて暴れてるってことはないですよね?」
グラフォスは十分な情報を書ききったのか羽ペンの動きを止めて、若干呆れたような表情をしながら暴れまわっているジャイアントウルフを見つめる。
「あー……残念ながら可能性は高いわね」
シャルに関しては頭を抱えてうめき始めてしまう始末である。
二人ともトキトの身が危ないとは考えていないようで、唯一彼女の心配をしているのはアカネだけのように思える。
「何やってるんですか……。シャルさん、さっきの呪術は使えますか?」
「使えないこともないけど、短時間での同呪術の詠唱は水晶への負担が大きいわよ。この後私は使い物にならなくなるかも」
「それは困りますね」
どうやら呪術は杖の先端についた水晶を媒体として発動しているようだ。どういう原理かはわからないが、今度ゆっくりと聞かないと。
グラフォスはそんなことをのんきに考えながら、本を片手に構えてゆったりとした足取りで暴れているジャイアントウルフへと向かっていく。
そこに一切の緊張感は見られない。トレントキング・ミニトレントと相対した時もそうだったが、グラフォスは戦闘に対する危機感が低い。
「『リリース』『ウォールシールド』トキトさん! 聞こえてますか? こいつの口こじ開けられますか?」
グラフォスはジャイアントウルフの目の前に立つと、黄金色の半透明の壁を目の前に顕出させて、口の端からそして全身から冷気を放出しグラフォスを殺めようとしているジャイアントウルフの攻撃を防いでいた。
そしてまるで世間話をするようなノリでジャイアントウルフの体内にいるトキトに向かって話しかけていたのだが、当然トキトから返事があるわけがない。
しかしジャイアントウルフの動きが一瞬止まる。それに合わせたようにぐらふぁすに攻撃を繰り返していた冷気、つららも出現しなくなった。
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