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8章 魔道国

第396話 敗者の対応

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「えっと......なんで勝負を仕掛けて来たお二人がどうでも良さげなんスかね?」

クルストさんがへこみ始めた......レギさんの方を見たけど......お前が相手しろって感じで見られる。

「あー、クルストさん。リィリさんは見ての通りですので、僕が相手しますよ。」

ナレアさんの方は言い訳が思いつかないのでリィリさんをダシにさせてもらう。
先程強烈な拳骨を頂いたばかりなのでリィリさんに文句は言えないだろう。

「そ、そうっスね。食事の邪魔は絶対ダメっス!とんでもないことになるっス。」

完璧なしつけが出来たみたいですね......。

「仕方ないんでケイで我慢するっス。それで、どうやってここまで来たっスか?正直負けるとは思ってなかったっスよ?」

......さて、話をするとは言ったものの、どうしよう。
流石にシャル達の事を言うことは出来ないし、魔法の事も同じだ。
となると......不義理だとは思うけど、誤魔化すしかないよね。

「移動手段については......奥の手ってことで秘密です。」

「えー!ケイずるいっス!俺の奥の手は見たっスよね!?」

「見たというか見せつけられた感じでしたが......明らかに見せびらかして自慢していましたよね?」

「う......それはそれっス。少しくらい教えてくれてもいいじゃないっスか。誰にも言わないっスよ。」

まぁ、クルストさんが悪意を持って誰かに教えるってことは無いと思うけど......うっかりぽろっと言いそうな雰囲気はある。
いや、こう見えてクルストさんは情報の有用性を良く知っているから大丈夫......いや、でもな......。

「そうですね......実は......。」

「......。」

皆が俺を注目している。
リィリさんですら食事の手を止めて俺の事を見ているけど......。

「クルストさんの持っていたあの魔道具。あれは僕達も持っています。」

「へ?」

「フロートボードですよね?クルストさんが使っている移動手段は。板の裏に魔術式の入っていない魔晶石がいくつか埋め込まれていて、それぞれに魔力を流し込むことで前進、後退させたり左右に曲がったりできる魔道具です。」

「......。」

「こちらのナレアさんも僕達と同じ冒険者でして......しかも上級冒険者です。」

「......遺跡狂い。」

俺がナレアさんの事を改めて紹介しようとすると、クルストさんがぼそりとナレアさんの二つ名を呟く。

「あ、御存じでしたか?」

「龍王国で会った時は知らなかったっス。でも後で知ったっス。ケイのこ、こい、恋人が遺跡狂いだって......。」

「まだ恋人ではないわ!」

クルストさんが放心したように言うと、物凄い勢いでナレアさんがクルストさんの顔面に拳を叩き込む。
......今日一番痛そう。
そんな思いっきり否定......ん?
今まだって言った?
まだって言ったよね?
真っ赤になりながら肩で息をするナレアさんの顔をまじまじと見てしまう。

「おい、ナレア。さっきの今であまり騒がないでくれ。」

「す、すまぬのじゃ。」

レギさんに言われ、ナレアさんが謝りながら大人しくなる。
なんか新鮮な光景だと思うけど......正直、俺の胸中はそれどころじゃない。
今ナレアさんはまだ恋人ではないと言った......これはつまり、保留されている件は色よい返事を貰えると期待してもいいのではないだろうか?

「あの、ケイ?どうしたっスか?」

もうダメージから立ち直ったらしいクルストさんが、顔を抑えながら俺に話しかけてくる。

「ちょっと今忙しいので放っておいてください。」

「え?いや、思いっきり話の途中っスよね?」

「......。」

「......はい。」

俺が口元で手を組んで考え込むと、項垂れたクルストさんが哀愁を漂わせながら返事をする。

「何か、俺の扱い酷くないっスか?」

「日頃の行いって奴だな。」

何やらクルストさんがレギさんに涙ながらに語っているようだが、レギさんの返しも辛辣だ。
しかし......うーん、ナレアさんの台詞は非常に気になる所だけど、保留されている事実は変わらないし......その時が来るまで心穏やかに......はならないけど、あまり意識しない様にいしておこう。
うん、意識しない、意識しない。

「うぅ......しかも、あれっス。自信満々で出した魔道具は、あっさりと持ってると言われ。余裕綽々で先に行って待ってるっスと言った結果、一人だけ街の外で野宿っス。こんな道化......まるでイクサルっス。」

「......。」

意識しない様に意識した為、クルストさん達の会話が耳に入ってくる。
イクサルってどっかで......あぁ、レギさんの舞台に出てた新人冒険者か。

「イクサルって、立ち位置的には僕でしたけど、内面設定はクルストさんだったと思うのですが。」

「ケイが再起動した途端、毒吐き出したんスけど?」

「日頃の行いだな。」

「後さっきからレギさんも返事が雑っス!結構久しぶりに再会したんスからもう少し優しくして欲しいっス!」

クルストさんのテンションが上がり声が大きくなってきたが、レギさんが一睨みするとクルストさんは一気に大人しくなった。

「えっと......すみません。」

「何か謝られるのも辛いっス。」

がっくりと肩を落としたクルストさんを見て、流石に罪悪感に苛まれる。
しかしクルストさんが肩を落としていたのもつかの間、顔を上げると満面の笑みを浮かべている。

「そう言えば、レギさん。上級冒険者への昇格おめでとうございますっス。」

ますっス......そこは最後のスは無くて良かったんじゃないだろうか?
いや、それはまぁどうでもいい。
クルストさんから祝福されたレギさんはあまり嬉しそうではない、というか明らかに警戒している。
まぁ、今の流れで突然祝福の言葉を掛けられたら、邪推するのも無理はないだろう。

「ダンジョンを攻略した時から上級冒険者になるんじゃないかと思っていたっスが......結構遅かったっスね。もしかしてずっと龍王国の方にいたっスか?」

「......あぁ、そうだな。ここに来る前に都市国家の方を回って来たんだが、その時に推挙されてな。」

「だから中々上級冒険者として認定されなかったんスね。本人がいないんじゃギルドも随分とヤキモキしてたと思うっス。噂では、レギさんを都市国家に呼び戻す依頼が出されそうだったとか聞いたっスよ。」

「そうだったのか。そう考えるとギリギリだったのかもな。方々に迷惑かけることにならなくて良かった。」

龍王国にいたならまだしも、冒険者ギルドが殆ど意味をなしていない東方に居ましたからね......。
確かにレギさん捜索の依頼を受けた人がいたら涙目だったでしょうね。

「そんな分かりにくい所にいたっスか?」

「あぁ、東の方にな。」

「あー、やっぱり東方だったっスか。レギさんが行方不明な時点で、ギルドが近くにないことは想像出来たっス。となると龍王国以東が妖しいっス。東方は行ったことなかったから、いい機会だし行ってみようと思ったっスよ。」

「一部を除いて、好んでいくような場所じゃなかったけどな。」

「いい所もあったっスか?」

「あぁ、友人も出来たしな。まぁそこ以外は本当に噂通りだったがな。」

「やっぱり東方は怖い土地っス......不屈の英雄様でも厳しい場所なんスか?」

「......なんか言ったか?」

「いや、決してあきらめない英雄様だったら、東方でも余裕かと思っていたっス。」

あぁ、なるほど。
先程の笑みはこれで弄るつもりだったからか......。
でも、その程度の攻撃で動揺するレギさんじゃないですよ。

「そりゃ関係ねぇな。あそこの状況は個人がどうこう出来る問題じゃねぇ......それに部外者が首を突っ込むような問題でもないだろ。」

「あ、あれ?レギさんっぽくない反応っス......。」

そりゃぁ......ここに来るまで、決して短くない期間弄られまくっていたからね......。
しかもそんな手ぬるい攻撃じゃなくって、それはもう......勘弁してあげて下さいと、攻撃されていない俺が懇願したくなるような攻撃だ。
俺は何でもないという様にクルストさんと話すレギさんを見て、涙を禁じ得なかった。

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