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★本編★
未来のために
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結局あれから一睡も出来ず朝日の差し込む部屋で僕はこれからのことを考えていた。
鏡に映る自分は多分十歳くらい。閉じ込められた離れでメイドが毎日こっそりと食べ物を運んでくれていた時期だ。甘そうな薄いキャラメル色の髪が肩まで伸びピンクがかった赤い瞳は不安げに揺れている。
この頃は毎日生きることに罪悪感を持って暮らしていた。母が死んでしまった後も自分を屋敷に置いてくれていた父をがっかりさせてしまったから。魔力さえあればこんな自分でも役に立てる。そう思っていたのに。
でも……
僕は幼い頃から嵌められていたチョーカーにそっと手を伸ばした。
真っ白の肌に映える水牛の皮に青い石が嵌め込まれたそれは五歳の頃、僕がオメガだと医者に診断された時に養母がくれた最初で最後のプレゼントだった。
オメガにとっては当たり前に皆付けている望まない番契約から自分の身を守るもの。当時は養母からの贈り物を心の底から喜んだ。
けれど……
この石には魔力を抑え込む力があったのだ。僕は魔力が無いわけじゃなかった。この石によってそう見せかけられていただけ。
絶対に外すなと言われていた言葉を正直に守り続けたのが馬鹿みたいだ。
僕は首から忌まわしい枷を外し古ぼけた机の上にコトリと置く。そして両掌を握りしめて目を閉じた。
ぼんやりとした熱が腹に広がる。そこに力を込めて全身に巡るよう精神を統一した。
うっすらと握った拳から蒼い光が揺らぐ。
それは微かでまだ形をなさないもの。
ルドルフと結婚してから少しずつ訓練し、大魔法使いと呼ばれるようになるのは3年も経ってからだった。
けれど今ならもっと早く能力の全てを解放できる自信がある。
早く。もっと早く。
この敵だらけの場所で二度とあいつらにいいようにされない為に。
しばらく集中して訓練していたが意識が遠のきそうになり今日はここまでと目を開けた。
荒い息を整え全身に吹き出した汗を拭う。
それから疑われないようチョーカーを元通りに装着して身を清めるべく井戸に向かった。
自分の住む離れの裏にある井戸は水に少し濁りがあり公爵家の者は誰も使わない。
僕は上着を脱ぎ捨てると桶に水を汲み体を洗った。そろそろ雪が降りそうなこれからの時期は文字通り凍えそうな日も多いが今日はその冷たさが熱を持った体に気持ちよかった。
出来れば全裸になり全身洗ってしまいたいのだがそれを我慢して上半身を丁寧に擦った。
そうせざるを得ない理由は魔術師のダン。
あいつが父に僕を生かすよう勧めたのは僕のことが気に入っていたからだ。あいつは幼い少年を好む悪癖を持っている。過去の僕は度々部屋に来ては体を撫で回すあいつが恐ろしくてされるがままになっていた。見張ってくれる仲の良いメイドがいなければとっくに醜悪なあの年寄りの慰み者になっていたに違いない。
この井戸の周りにも遠見の魔法がかけてあるので僕が水浴びをする様子をどこかでニヤニヤしながら見ているはずだ。
「今に見てろよ」
僕は森に向かってそう呟くと上着を掴んでその場を後にした。
鏡に映る自分は多分十歳くらい。閉じ込められた離れでメイドが毎日こっそりと食べ物を運んでくれていた時期だ。甘そうな薄いキャラメル色の髪が肩まで伸びピンクがかった赤い瞳は不安げに揺れている。
この頃は毎日生きることに罪悪感を持って暮らしていた。母が死んでしまった後も自分を屋敷に置いてくれていた父をがっかりさせてしまったから。魔力さえあればこんな自分でも役に立てる。そう思っていたのに。
でも……
僕は幼い頃から嵌められていたチョーカーにそっと手を伸ばした。
真っ白の肌に映える水牛の皮に青い石が嵌め込まれたそれは五歳の頃、僕がオメガだと医者に診断された時に養母がくれた最初で最後のプレゼントだった。
オメガにとっては当たり前に皆付けている望まない番契約から自分の身を守るもの。当時は養母からの贈り物を心の底から喜んだ。
けれど……
この石には魔力を抑え込む力があったのだ。僕は魔力が無いわけじゃなかった。この石によってそう見せかけられていただけ。
絶対に外すなと言われていた言葉を正直に守り続けたのが馬鹿みたいだ。
僕は首から忌まわしい枷を外し古ぼけた机の上にコトリと置く。そして両掌を握りしめて目を閉じた。
ぼんやりとした熱が腹に広がる。そこに力を込めて全身に巡るよう精神を統一した。
うっすらと握った拳から蒼い光が揺らぐ。
それは微かでまだ形をなさないもの。
ルドルフと結婚してから少しずつ訓練し、大魔法使いと呼ばれるようになるのは3年も経ってからだった。
けれど今ならもっと早く能力の全てを解放できる自信がある。
早く。もっと早く。
この敵だらけの場所で二度とあいつらにいいようにされない為に。
しばらく集中して訓練していたが意識が遠のきそうになり今日はここまでと目を開けた。
荒い息を整え全身に吹き出した汗を拭う。
それから疑われないようチョーカーを元通りに装着して身を清めるべく井戸に向かった。
自分の住む離れの裏にある井戸は水に少し濁りがあり公爵家の者は誰も使わない。
僕は上着を脱ぎ捨てると桶に水を汲み体を洗った。そろそろ雪が降りそうなこれからの時期は文字通り凍えそうな日も多いが今日はその冷たさが熱を持った体に気持ちよかった。
出来れば全裸になり全身洗ってしまいたいのだがそれを我慢して上半身を丁寧に擦った。
そうせざるを得ない理由は魔術師のダン。
あいつが父に僕を生かすよう勧めたのは僕のことが気に入っていたからだ。あいつは幼い少年を好む悪癖を持っている。過去の僕は度々部屋に来ては体を撫で回すあいつが恐ろしくてされるがままになっていた。見張ってくれる仲の良いメイドがいなければとっくに醜悪なあの年寄りの慰み者になっていたに違いない。
この井戸の周りにも遠見の魔法がかけてあるので僕が水浴びをする様子をどこかでニヤニヤしながら見ているはずだ。
「今に見てろよ」
僕は森に向かってそう呟くと上着を掴んでその場を後にした。
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