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★本編★
中庭の出来事
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翌日から僕は城の一室に軟禁された。
食事を拒否したり逃げようとするとその度にメイド達が罰として傷付けられる。
息さえも殺してひっそりと蹲って過ごすしかなかった。
「アリス様,教会に連絡をしておきました」
「ありがとうアーロン。八雲先生とノエルにも?」
「はい。とても心配されていました。公爵も登城したい旨のお手紙を何度も出されてますが全て殿下に拒否されてます」
ルドルフは完全に僕と外の世界の繋がりを断ち切るつもりらしい。父はともかく八雲先生やノエルには会いたいが危害を加えられても困る。
なにしろルドルフが何を考えているのかまるで分からないのだ。毎日様子は見に来るものの本を読む僕をただ黙って見ているだけなのだから。
「アリス様昼食は何を召し上がりますか?」
「何でもいいので少しだけ」
とにかく食べないとまた罪もないメイド達が怪我を負わされる事になる。
「気分が良く無いですか?では中庭で花を見ながら召し上がりますか?エリカが見頃です。華やかな花ではないですが満開で美しいですよ」
アーロンはそう言って目尻に薄い皺を刻んだ。まだ若い彼を世の優しい父親のようだと思うのは失礼だろうか。
「分かった。じゃあ一緒に食べてくれる?一人だと食が進まなくて」
「光栄です。では支度をして参りますね」
そう言うとアーロンはテキパキとメイドに指示を始めた。
唯一外の空気が吸える場所がこの中庭だ。部屋からすぐ出られるようになっていて他の部屋と繋がっていない為、人の目も気にしなくて済む。
広くはないがよく手入れされた花壇と芝生があり木陰で読書をしたりお茶を飲んだりと気分転換の場所になっていた。
「アリス様は本当に好き嫌いがなくて素晴らしいです。きっと大きくなりますよ」
「そうかな。頑張って食べるよ」
二人で鳥の囀りを聞きながらサンドイッチを頬張る。日差しは暖かくこれから厳しい冬が来るなんて想像も出来ないくらいの陽気だ。
「あっ!リスだ!」
「本当ですね。森から逃げて来たんでしょう」
「森?」
「はい城の裏手には大きな森があります。そこには鹿やウサギなど小動物が放し飼いされているんです」
僕がこの城に来た時にはそんなものなかった。城の裏手は一面の焼け野原で鹿はおろか猫の子一匹も居なかったのに。
僕がこの城に嫁いできたのは十七歳の時。
今から六年後だ。
その六年の間に一体何があったんだろう。
「わっ?!」
考え込んでいた僕の側をリスがひらりと横切る。
そして何かを待つようにテーブルに座った。
「お腹空いてるの?どうぞ」
そう言ってビスケットを渡すと両手で掴んでサクサクと食べ始める。
なんて可愛いんだろう。
モグモグと動く頬を見て笑っているとテーブルに人影が落ちた。
「何してるの」
聞き覚えのあるその声。
当時ルドルフの一番目の側室だったロザリアだ。
僕はゆっくりと彼女を見上げた。
当時よりは幼い、それでも強い意志を感じさせる青い目。ルドルフより幾つか年下だったから十六、七くらいの頃か。
「あなたね?ルドルフが拾って来たオメガは」
当時は何かにつけて嫌がらせや暴力を受けた。その時の記憶が蘇りゾワッと総毛立つ。
「ロザリアお嬢様何故こちらに?」
アーロンが厳しい口調で問うもロザリアはまるで意に介さず言葉を続ける。
「ここはあんたみたいなのが来るところじゃないの。子供だからって調子に乗らないで。ルドルフは私と結婚するのよ」
「お嬢様!」
「黙りなさいアーロン!皇太子妃と呼べと言ったはずよ!」
ロザリアは手にしていた扇でアーロンの頬を打つ。
僕は咄嗟に彼に駆け寄りロザリアを睨み上げた。
「お前も打たれたいの?!どきなさい!」
芝生に突き飛ばされるが立ち上がって負けじと叫んだ。
「調子に乗っているのはどっちなんだ!まだ婚約者でもないくせに!」
「なんですって?!私はこの国で唯一皇族に匹敵する力を持つ家門の一人娘よ?!それに私達は愛し合っているんだから皇太子妃も同然よ!生意気ね!」
「ルドルフはあなたと結婚なんかしない!」
「その口二度と喋れなくしてあげるわ!」
怒りに任せたロザリアの手が僕を打とうと振り上げられる。僕はぎゅっと目を閉じその衝撃を覚悟した。
「痛っ!」
意に反して聞こえたのはロザリアの悲鳴。
恐る恐る目を開けると僕の前に立ちはだかっていたのはルドルフだった。
食事を拒否したり逃げようとするとその度にメイド達が罰として傷付けられる。
息さえも殺してひっそりと蹲って過ごすしかなかった。
「アリス様,教会に連絡をしておきました」
「ありがとうアーロン。八雲先生とノエルにも?」
「はい。とても心配されていました。公爵も登城したい旨のお手紙を何度も出されてますが全て殿下に拒否されてます」
ルドルフは完全に僕と外の世界の繋がりを断ち切るつもりらしい。父はともかく八雲先生やノエルには会いたいが危害を加えられても困る。
なにしろルドルフが何を考えているのかまるで分からないのだ。毎日様子は見に来るものの本を読む僕をただ黙って見ているだけなのだから。
「アリス様昼食は何を召し上がりますか?」
「何でもいいので少しだけ」
とにかく食べないとまた罪もないメイド達が怪我を負わされる事になる。
「気分が良く無いですか?では中庭で花を見ながら召し上がりますか?エリカが見頃です。華やかな花ではないですが満開で美しいですよ」
アーロンはそう言って目尻に薄い皺を刻んだ。まだ若い彼を世の優しい父親のようだと思うのは失礼だろうか。
「分かった。じゃあ一緒に食べてくれる?一人だと食が進まなくて」
「光栄です。では支度をして参りますね」
そう言うとアーロンはテキパキとメイドに指示を始めた。
唯一外の空気が吸える場所がこの中庭だ。部屋からすぐ出られるようになっていて他の部屋と繋がっていない為、人の目も気にしなくて済む。
広くはないがよく手入れされた花壇と芝生があり木陰で読書をしたりお茶を飲んだりと気分転換の場所になっていた。
「アリス様は本当に好き嫌いがなくて素晴らしいです。きっと大きくなりますよ」
「そうかな。頑張って食べるよ」
二人で鳥の囀りを聞きながらサンドイッチを頬張る。日差しは暖かくこれから厳しい冬が来るなんて想像も出来ないくらいの陽気だ。
「あっ!リスだ!」
「本当ですね。森から逃げて来たんでしょう」
「森?」
「はい城の裏手には大きな森があります。そこには鹿やウサギなど小動物が放し飼いされているんです」
僕がこの城に来た時にはそんなものなかった。城の裏手は一面の焼け野原で鹿はおろか猫の子一匹も居なかったのに。
僕がこの城に嫁いできたのは十七歳の時。
今から六年後だ。
その六年の間に一体何があったんだろう。
「わっ?!」
考え込んでいた僕の側をリスがひらりと横切る。
そして何かを待つようにテーブルに座った。
「お腹空いてるの?どうぞ」
そう言ってビスケットを渡すと両手で掴んでサクサクと食べ始める。
なんて可愛いんだろう。
モグモグと動く頬を見て笑っているとテーブルに人影が落ちた。
「何してるの」
聞き覚えのあるその声。
当時ルドルフの一番目の側室だったロザリアだ。
僕はゆっくりと彼女を見上げた。
当時よりは幼い、それでも強い意志を感じさせる青い目。ルドルフより幾つか年下だったから十六、七くらいの頃か。
「あなたね?ルドルフが拾って来たオメガは」
当時は何かにつけて嫌がらせや暴力を受けた。その時の記憶が蘇りゾワッと総毛立つ。
「ロザリアお嬢様何故こちらに?」
アーロンが厳しい口調で問うもロザリアはまるで意に介さず言葉を続ける。
「ここはあんたみたいなのが来るところじゃないの。子供だからって調子に乗らないで。ルドルフは私と結婚するのよ」
「お嬢様!」
「黙りなさいアーロン!皇太子妃と呼べと言ったはずよ!」
ロザリアは手にしていた扇でアーロンの頬を打つ。
僕は咄嗟に彼に駆け寄りロザリアを睨み上げた。
「お前も打たれたいの?!どきなさい!」
芝生に突き飛ばされるが立ち上がって負けじと叫んだ。
「調子に乗っているのはどっちなんだ!まだ婚約者でもないくせに!」
「なんですって?!私はこの国で唯一皇族に匹敵する力を持つ家門の一人娘よ?!それに私達は愛し合っているんだから皇太子妃も同然よ!生意気ね!」
「ルドルフはあなたと結婚なんかしない!」
「その口二度と喋れなくしてあげるわ!」
怒りに任せたロザリアの手が僕を打とうと振り上げられる。僕はぎゅっと目を閉じその衝撃を覚悟した。
「痛っ!」
意に反して聞こえたのはロザリアの悲鳴。
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