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★本編★
籠の鳥
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宮殿に着くなりルドルフは待ち構えていた騎士やメイドたちを全員下がらせ僕を部屋に連れて行った。
そして雨で張り付いた僕の服を乱暴に脱がせ熱いお湯が張られた浴槽にどぼんと放り込む。
体に力が入らずされるがままの僕は湯船の中で溺れないようにするだけで精一杯だ。
「待ってろ薬を用意させる」
ルドルフはそれだけ言うとさっさと部屋を出て行った。
逃げるなら今しかない。そう思うのに手足の自由が効かない。どんな薬を飲まされるのかも分からないのに。
けれどしばらくして戻って来たのはルドルフではなく執事のアーロンだった。
「お待たせして申し訳ございません。こちらを飲んでください。ヒートを抑える薬ですから楽になるはずです」
彼はつらい宮殿での生活で親身になってくれた数少ない人だった。
僕は素直にアーロンの手から薬の入ったカップを受け取る。 そして苦い液体を一気に飲み干した。
「ベッドを用意致しますのでお休みになって下さい。お目覚めになったらスープでもお持ちしましょう。」
「……帰して下さい」
「申し訳ございません。殿下の許可なくお帰しする事は出来かねます」
「どうして僕を連れて来たんですか?」
「……あの方がどなたかご存知ですよね」
知らないふりをしようかと思ったがいずれバレると思いこくりと頷く。
「殿下のお考えは私共にも分かりません。でもあの方は全てを自由にする権利をお持ちなんです」
「そんな!僕はペットや人形じゃないです!」
「……殿下にとっては人間も人形も同じなのかもしれません」
アーロンは俯き自嘲気味に微笑んだ。
アーロンからもらった薬はよく効いた。
瞬く間に身体の火照りは消え気持ちも落ち着つく。けれど一人になった部屋で僕はこんなに早くヒートを迎えた事にショックを受け絶望に打ちひしがれていた。
ルドルフは僕をどうするつもりだろう。ヒートが来たなら結婚も可能だ。いや、僕はまだ子供だ。正式に婚姻などせず慰み者としてここで飼われるのかもしれない。そう思うと今いる立派に飾られたベッドが強固な檻に見えて恐怖に震える。
「薬は効いて来たか」
いつの間に来たのかドアの側に立つ影が独り言のように呟いた。
「……教会に帰して下さい」
「アーロンには随分慣れたみたいじゃないか。あいつが気に入ったのか?」
「教会に帰して下さい」
「欲しいものは何でも用意してやる。ここにいろ」
「教会に帰して……」
何度も同じ言葉を繰り返す僕にルドルフは呆れたのかドアの外にいるアーロンを呼んだ。
「御用でしょうか」
アーロンが頭を下げそう言った途端。
ルドルフは腰の剣を抜きアーロンの肩を貫いた。
「うっ……」
飛び散った血が床を汚す。
アーロンはそのままその血溜まりに膝をついた。
「なにしてんの?!なんだよ!おかしいよ!」
僕は半狂乱になって彼に走り寄った。
「アーロン!アーロン!!」
「やっと他の言葉を話したな」
「?!そんな事のために!?」
ずっと側で仕えてきた忠臣を!
そんな事のために!!
「なぜお前が泣く。今日会ったばかりの他人だろう」
「それでも人が傷付いたら悲しいに決まってる!」
「では覚えておけ。俺に逆らったら今度こそアーロンは死ぬ」
「な……なんで……」
大人しく俺の側にいろ。わかったな」
ルドルフはそれだけ言うと踵を返して部屋を出て行った。
「アーロン!しっかりして!」
僕は精一杯の治癒の力を彼に注ぎ込む。まだ満足に使いこなせないのがもどかしい。
「アリス様……ありがとうございます。楽になりました」
「嘘だ!全然治らない!血が止まらない!僕のせいでごめんなさい……」
涙がポロポロと溢れる。
「アリス様のせいではありません。言ったでしょう?殿下にとっては人間も人形も同じなんですよ。それは私も例外ではありません」
「アーロン……」
ルドルフは変わらない。
僕に会うずっと前からこんな風に生きて来たんだ。
どう考えても彼と一緒の道を歩む事は出来ない。改めてそう思い知らされた。
そして雨で張り付いた僕の服を乱暴に脱がせ熱いお湯が張られた浴槽にどぼんと放り込む。
体に力が入らずされるがままの僕は湯船の中で溺れないようにするだけで精一杯だ。
「待ってろ薬を用意させる」
ルドルフはそれだけ言うとさっさと部屋を出て行った。
逃げるなら今しかない。そう思うのに手足の自由が効かない。どんな薬を飲まされるのかも分からないのに。
けれどしばらくして戻って来たのはルドルフではなく執事のアーロンだった。
「お待たせして申し訳ございません。こちらを飲んでください。ヒートを抑える薬ですから楽になるはずです」
彼はつらい宮殿での生活で親身になってくれた数少ない人だった。
僕は素直にアーロンの手から薬の入ったカップを受け取る。 そして苦い液体を一気に飲み干した。
「ベッドを用意致しますのでお休みになって下さい。お目覚めになったらスープでもお持ちしましょう。」
「……帰して下さい」
「申し訳ございません。殿下の許可なくお帰しする事は出来かねます」
「どうして僕を連れて来たんですか?」
「……あの方がどなたかご存知ですよね」
知らないふりをしようかと思ったがいずれバレると思いこくりと頷く。
「殿下のお考えは私共にも分かりません。でもあの方は全てを自由にする権利をお持ちなんです」
「そんな!僕はペットや人形じゃないです!」
「……殿下にとっては人間も人形も同じなのかもしれません」
アーロンは俯き自嘲気味に微笑んだ。
アーロンからもらった薬はよく効いた。
瞬く間に身体の火照りは消え気持ちも落ち着つく。けれど一人になった部屋で僕はこんなに早くヒートを迎えた事にショックを受け絶望に打ちひしがれていた。
ルドルフは僕をどうするつもりだろう。ヒートが来たなら結婚も可能だ。いや、僕はまだ子供だ。正式に婚姻などせず慰み者としてここで飼われるのかもしれない。そう思うと今いる立派に飾られたベッドが強固な檻に見えて恐怖に震える。
「薬は効いて来たか」
いつの間に来たのかドアの側に立つ影が独り言のように呟いた。
「……教会に帰して下さい」
「アーロンには随分慣れたみたいじゃないか。あいつが気に入ったのか?」
「教会に帰して下さい」
「欲しいものは何でも用意してやる。ここにいろ」
「教会に帰して……」
何度も同じ言葉を繰り返す僕にルドルフは呆れたのかドアの外にいるアーロンを呼んだ。
「御用でしょうか」
アーロンが頭を下げそう言った途端。
ルドルフは腰の剣を抜きアーロンの肩を貫いた。
「うっ……」
飛び散った血が床を汚す。
アーロンはそのままその血溜まりに膝をついた。
「なにしてんの?!なんだよ!おかしいよ!」
僕は半狂乱になって彼に走り寄った。
「アーロン!アーロン!!」
「やっと他の言葉を話したな」
「?!そんな事のために!?」
ずっと側で仕えてきた忠臣を!
そんな事のために!!
「なぜお前が泣く。今日会ったばかりの他人だろう」
「それでも人が傷付いたら悲しいに決まってる!」
「では覚えておけ。俺に逆らったら今度こそアーロンは死ぬ」
「な……なんで……」
大人しく俺の側にいろ。わかったな」
ルドルフはそれだけ言うと踵を返して部屋を出て行った。
「アーロン!しっかりして!」
僕は精一杯の治癒の力を彼に注ぎ込む。まだ満足に使いこなせないのがもどかしい。
「アリス様……ありがとうございます。楽になりました」
「嘘だ!全然治らない!血が止まらない!僕のせいでごめんなさい……」
涙がポロポロと溢れる。
「アリス様のせいではありません。言ったでしょう?殿下にとっては人間も人形も同じなんですよ。それは私も例外ではありません」
「アーロン……」
ルドルフは変わらない。
僕に会うずっと前からこんな風に生きて来たんだ。
どう考えても彼と一緒の道を歩む事は出来ない。改めてそう思い知らされた。
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