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第二章 静かに暮らしたいだけだったのに
21・酒の前に僕の話を聞いてください
「……なんでしょうか?」
ライネルは、ショーの真剣な眼差しに戸惑いながらも、おずおずと視線を上げた。
「明日みんなを集めて、今の話をしてみよう」
「明日ですか? 早すぎませんか?」
「どうせみんな暇なんだ。早いに越したことはないだろ?」
「……まあ、確かにそうかもしれませんけど」
(でも、言い方ってものがあるよね……)
とは思いつつも、確かに働き口が見つからず、借りた家のリフォームも進まない現状を思えば、早いほうがいいのかもしれない。
宿にはお世話になりっぱなしで、無料でいいと言われたものの、申し訳なさすぎて手持ちの金をほんの少しだけ渡している。……雀の涙ほどだけど。
「……それと、話が終わったら君を連れて行きたい場所があるんだ。そこで俺の話も、聞いてくれるか?」
「話なら、別に今でも全然――」
「こういうのは、ムードが大事だからな」
「え?」
“こういうの”って、どういうの?
ライネルは首を傾げたが、あまりにも真面目な顔で言うショーに押され、ひとまず頷く。
「じゃあ僕は、明日に向けて説明の内容をまとめておきますね。おやすみなさい」
ライネルの頭はすでに“村まるごと株式化計画”でいっぱいだ。
……そのせいで、ショーの嬉しそうな笑顔にはまったく気づかなかった。
◇◇◆◆◇◇
翌日。
村の大広場に、すべての工房の責任者と会計係が集まった。
「村まるごと株?……なんだって?」
集まった職人たちは一様に怪訝な顔をしている。
「村まるごと株式化計画です。この村を活性化させるためのご提案です」
「おっ、どうしたチビちゃん?なんか面白いこと思いついたのか?」
宝石細工の工房長、ゼンバさんが揶揄うようにそう言った。
「……チビじゃないです。ライネルです。まずは僕の話を聞いてください」
「よーし、分かった!おーい、誰か酒持ってこーい!」
「あ、いいねぇ! じゃあ俺はつまみ作ってくる!」
「うちに干し肉があるよ、あとで玄関から持ってきな!」
あっという間に宴会の準備が始まり、わいわいと盛り上がる村人たち。
(ま、待って!? 違うそうじゃない!)
みんなが酔っ払ってしまう前にと、ライネルは慌てて声を張った。
「ま、まずは話だけでも聞いてください!」
なんとか静かになったところで、ライネルは説明を始めた。まずは基礎的な概要から話し、その後、噛み砕いて内容を伝える。
「つまり、僕たちは“工房の将来”を買ってもらうんです。投資してもらうことで素材を買い、新しい作品を作る。そして利益が出たら、支援してくれた人たちに少しずつお礼を返す。それが“希望の証”です!」
しん、と一瞬の沈黙。
そして次の瞬間――。
「なるほどな! それなら金をもらいながら、好きなもん作れるってわけか!」
「はい! 今までは注文を待ってましたけど、これからは自分が作りたいものを自由に作って、それを欲しい人に買ってもらうんです!」
「そりゃ面白ぇな!」
「夢があるじゃねぇか!」
どっと歓声が上がり、ライネルは胸を撫で下ろす。
(ふふっ。いい反応。徹夜で考えた甲斐があった……!)
「まずは工房の規模と従業員数で、“希望の証”の数と値段を決めましょう」
「あーもうそのへんはチビちゃん頼んだ!俺たち細けぇの苦手だから!」
「おい酒きたぞー! 飲もう飲もう!」
(えーーっ!? もう酒!? 早すぎません!?)
慌てるライネルに、ショーがそっと笑いかける。
「大丈夫。みんな君を信用してるんだよ」
「でも、僕まだ来たばかりなのに……」
「時間なんて関係ないさ。職人ってのは人を見る目が鋭い。君の人柄は、もう伝わってるよ」
そう言われると、なんだか照れくさい。
説明が最後までできなかったことは気がかりだが、みんなが前向きなら上出来だ。
「それじゃあ次は、計算が得意な人をお手伝いにお願いしたいです! 一人か二人でいいんです!」
「あぁ、それなら適任がいるわよ」
ゼンバさんの奥さん、ゴバさんが手を上げ、隣の少年を指差した。
「うちの末っ子。アノマリーよ。この子、教えたわけでもないのに計算が恐ろしく早いの。大人でも敵わないくらいよ」
「それは助かります!アノマリーくん、僕を手伝ってくれる?」
ゴバさんの隣に立つ少年が、コクリと頷いた。
年の頃は十二歳ほど。
白っぽい銀灰の髪に、瞳は青とも紫ともつかない透明な色をしている。
小柄で、まるで人形のように整った顔立ち――けれど今、その唇には信じがたいものが。
「……それ、宝石ですか?」
ライネルが恐る恐る尋ねると、ゴバさんは苦笑した。
「そうなのよ。この子ね、ちょっと悪食でね。ご飯はほとんど食べないのに、石とか宝石が大好きなの」
「えっ、宝石?!そんなの食べて大丈夫なんですか!?」
「赤ちゃんの頃からなの。お医者さんに見せたけど、“特別な体質”らしいわ。食べても平気なんですって」
「……は、はぁ……そうですか……」
ライネルは顔を引きつらせたまま、アノマリーを見る。
少年はきらきらした鉱石をかじりながら、人懐っこい笑顔でこちらを見つめていた。
(……なんか、いろんな意味で頼もしいような、怖いような……)
ライネルは、ショーの真剣な眼差しに戸惑いながらも、おずおずと視線を上げた。
「明日みんなを集めて、今の話をしてみよう」
「明日ですか? 早すぎませんか?」
「どうせみんな暇なんだ。早いに越したことはないだろ?」
「……まあ、確かにそうかもしれませんけど」
(でも、言い方ってものがあるよね……)
とは思いつつも、確かに働き口が見つからず、借りた家のリフォームも進まない現状を思えば、早いほうがいいのかもしれない。
宿にはお世話になりっぱなしで、無料でいいと言われたものの、申し訳なさすぎて手持ちの金をほんの少しだけ渡している。……雀の涙ほどだけど。
「……それと、話が終わったら君を連れて行きたい場所があるんだ。そこで俺の話も、聞いてくれるか?」
「話なら、別に今でも全然――」
「こういうのは、ムードが大事だからな」
「え?」
“こういうの”って、どういうの?
ライネルは首を傾げたが、あまりにも真面目な顔で言うショーに押され、ひとまず頷く。
「じゃあ僕は、明日に向けて説明の内容をまとめておきますね。おやすみなさい」
ライネルの頭はすでに“村まるごと株式化計画”でいっぱいだ。
……そのせいで、ショーの嬉しそうな笑顔にはまったく気づかなかった。
◇◇◆◆◇◇
翌日。
村の大広場に、すべての工房の責任者と会計係が集まった。
「村まるごと株?……なんだって?」
集まった職人たちは一様に怪訝な顔をしている。
「村まるごと株式化計画です。この村を活性化させるためのご提案です」
「おっ、どうしたチビちゃん?なんか面白いこと思いついたのか?」
宝石細工の工房長、ゼンバさんが揶揄うようにそう言った。
「……チビじゃないです。ライネルです。まずは僕の話を聞いてください」
「よーし、分かった!おーい、誰か酒持ってこーい!」
「あ、いいねぇ! じゃあ俺はつまみ作ってくる!」
「うちに干し肉があるよ、あとで玄関から持ってきな!」
あっという間に宴会の準備が始まり、わいわいと盛り上がる村人たち。
(ま、待って!? 違うそうじゃない!)
みんなが酔っ払ってしまう前にと、ライネルは慌てて声を張った。
「ま、まずは話だけでも聞いてください!」
なんとか静かになったところで、ライネルは説明を始めた。まずは基礎的な概要から話し、その後、噛み砕いて内容を伝える。
「つまり、僕たちは“工房の将来”を買ってもらうんです。投資してもらうことで素材を買い、新しい作品を作る。そして利益が出たら、支援してくれた人たちに少しずつお礼を返す。それが“希望の証”です!」
しん、と一瞬の沈黙。
そして次の瞬間――。
「なるほどな! それなら金をもらいながら、好きなもん作れるってわけか!」
「はい! 今までは注文を待ってましたけど、これからは自分が作りたいものを自由に作って、それを欲しい人に買ってもらうんです!」
「そりゃ面白ぇな!」
「夢があるじゃねぇか!」
どっと歓声が上がり、ライネルは胸を撫で下ろす。
(ふふっ。いい反応。徹夜で考えた甲斐があった……!)
「まずは工房の規模と従業員数で、“希望の証”の数と値段を決めましょう」
「あーもうそのへんはチビちゃん頼んだ!俺たち細けぇの苦手だから!」
「おい酒きたぞー! 飲もう飲もう!」
(えーーっ!? もう酒!? 早すぎません!?)
慌てるライネルに、ショーがそっと笑いかける。
「大丈夫。みんな君を信用してるんだよ」
「でも、僕まだ来たばかりなのに……」
「時間なんて関係ないさ。職人ってのは人を見る目が鋭い。君の人柄は、もう伝わってるよ」
そう言われると、なんだか照れくさい。
説明が最後までできなかったことは気がかりだが、みんなが前向きなら上出来だ。
「それじゃあ次は、計算が得意な人をお手伝いにお願いしたいです! 一人か二人でいいんです!」
「あぁ、それなら適任がいるわよ」
ゼンバさんの奥さん、ゴバさんが手を上げ、隣の少年を指差した。
「うちの末っ子。アノマリーよ。この子、教えたわけでもないのに計算が恐ろしく早いの。大人でも敵わないくらいよ」
「それは助かります!アノマリーくん、僕を手伝ってくれる?」
ゴバさんの隣に立つ少年が、コクリと頷いた。
年の頃は十二歳ほど。
白っぽい銀灰の髪に、瞳は青とも紫ともつかない透明な色をしている。
小柄で、まるで人形のように整った顔立ち――けれど今、その唇には信じがたいものが。
「……それ、宝石ですか?」
ライネルが恐る恐る尋ねると、ゴバさんは苦笑した。
「そうなのよ。この子ね、ちょっと悪食でね。ご飯はほとんど食べないのに、石とか宝石が大好きなの」
「えっ、宝石?!そんなの食べて大丈夫なんですか!?」
「赤ちゃんの頃からなの。お医者さんに見せたけど、“特別な体質”らしいわ。食べても平気なんですって」
「……は、はぁ……そうですか……」
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