【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy

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第二章 静かに暮らしたいだけだったのに

25・旅人の正体は

「お? 珍しいな、客か?」

 オイショがドアを開けると、夜風と共に男が立っていた。
 フードを深く被っていて、顔はよく見えない。

「宿を取りたい。空いているか?」

「ああ、空いてるとも。中に入んな。飯、食ったか?」

「いや。匂いにつられた」

 その一言に、オイショが楽しそうに笑う。

「そりゃ嬉しいねぇ。ちょうどできたとこだ。座りな!」

 ライネルは慌てて新しい皿と椅子を用意した。
 それを見て、男が少し驚いたように目を細める。

「いらっしゃいませ。どうぞ、冷めないうちに」

「……ああ」

 マントを脱いだ男――ブラウンと名乗ったその人は、無造作に椅子へ腰を下ろした。
 粗野な言葉遣いなのに、仕草がどこか丁寧だ。

「どちらからいらしたんですか?」

 ライネルの声に、男はぴくりと体を揺らした。

「……王都の近くだ」

「そうなんですか。遠いところをありがとうございます」

 ライネルがそう言うと、ブラウンはわずかに口ごもり、ライネルの顔を見上げた。

「……どうかしましたか?」

「いや、何でもない」

 そう言ってブラウンは、食事に口をつける。

「……うまい」

「気に入ってくれたんならありがたい。明日の朝飯も期待しててくれ」

 オイショは豪快に笑い、部屋を準備するためにライネルを連れて二階へ上がっていった。

 残されたブラウンは、目の前で給仕をするショーをじっと見つめる。

「……静かな村だな」

「そうですね。人も多くありませんし。今回は旅の途中ですか?」

「ああ、そんなところだ」

 ブラウンは一口スープを飲みながら、ふと視線を落とす。

(……ライネル様は、もうここに住んでいるのか)

 先ほどの仲睦まじい二人の様子が脳裏に浮かび、胸がざわつく。

(プロポーズされたばかりで、気が早くないか?)

 そしてアルヴェリオがその報告を聞いて、驚愕した顔を思い出す。

(アルヴェリオ様はライネル様を気にかけている。まだ自分でも気づいていないが――あれはもう、恋をしている顔だった)

(それなのに……こんな報告、できるわけがない)

「果物もどうぞ。この地方の特産です」

「ああ、すまない」

 ブラウンは、皿を差し出すショーを値踏みするように見やった。
 確かに整った顔立ちで、人当たりも良さそうだ。
 もちろん、アルヴェリオ様には敵わないが――そう思いながら、リンゴに似た果実をシャリ、と齧る。

 元々警戒心が強く、人に心を開かないアルヴェリオの行く末が、ブラウンには不安でならなかった。

(復讐を終えた後、あの人は……また一人で生きていくのか?)

 そう思うだけで、胸が締めつけられる。

「……うまいな。甘みの中に爽やかさもあり、歯応えもいい」

「ありがとうございます。出立される際に、お土産にいくつか差し上げますね」

(……優しい。ライネル様にもお似合いの男だ)

 けれど、それでは困る。

(お前に恨みはないが――二人の仲、俺が全力で引き裂かせてもらう)

「……この村が気に入った。
 よければしばらく滞在したいが、構わないか?」

「もちろんです。何もない所ですが、産業が盛んで“職人村”と呼ばれているんですよ」

「そうか。それは楽しみだ」

「それでは早速、明日からご案内します。……ブラウンさん、もう少しおかわりいかがですか?」

「いや、もう十分だ。ご馳走様」

「はい、あ……ライネルが戻りました。少々お待ちを」

(気安く呼び捨てにしているが、ライネル様は侯爵家のご令息だぞ?)

 きっと平民のふりをしているのだろう。
 そう思いつつも、ブラウンはその親しげな言い方に、苛立ちを覚える。

(まるで自分が旦那にでもなったつもりか……?そんなに近づくな。――馴れ馴れしくライネル様の肩に触れるんじゃない!)

 端から見れば、すっかり仲の良い夫婦のような二人に、ブラウンは心の中で闘志を燃やした。

(必ず、あの二人を引き離してみせる)

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