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第三章 貴方となら何でも出来る気がしました
48・貴方のいるところが好きな場所です
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ライネルはテーブルの上に紙を広げ、ペンで小さな丸をいくつか描いた。そして“トウシンさんたち”と名前を入れる。
「……これは?」
「共同工房の皆さんです」
「はあ?」
よく分からないという顔をする面々を前に、ライネルは丁寧に説明を始めた。
「独立工房は一つ一つが独自に株式化してあります。けれど、共同工房は皆さん全員で一つの株式とします」
「……わかるような、わかんねぇような」
オイショが首をかしげたので、ライネルはさっき書いたいくつかの点を大きな丸で囲い、その隣に別の丸をいくつか描いた。
その丸に“ゼンバさん”や“レバレンさん”と名前を書き込む。
「独立工房に関してはそれぞれが、独自の“希望の証”を持っています。けれど共同工房はみんな合わせて一つの希望の証を持つことになります」
「損も得も分け合うってことか?」
「はい。でもそれだけじゃありません。たとえば宝石工房の希望の証は、もし宝石の売り上げが落ちたら価値も下がりますよね?」
「うん」
「でも、共同工房はステンドグラスの売り上げが落ちても、アクセサリーの売り上げが上がればプラスマイナスゼロになるんです」
「それぞれが助け合うってことだな」
「はい。お土産は流行り廃りが激しいので、すごく売れるものもあれば、突然売れなくなるものもあります。いろんな職人が集まることで、リスクを下げるんです」
「なるほどな」
「ただ、リスクが減ると大きな儲けの可能性も少なくなります。価格変動が少なく、安定した支援をしたい人向けの希望の証になります」
「ほぉ……確かに。でも貴族向けの商品じゃないから、買ってもらえないんじゃないか?」
あちこちから質問や疑問の声が上がる。
ライネルは丁寧に一つずつ答えていった。
「お米や麦の話、覚えていますか?あらかじめ金額を決めて、年間契約するっていうあの仕組みです。あれを王都の商会に持っていったら、面白がって契約してくれたんです。今回のその商会主に話もしてみようと思います」
「なるほど。商会なら平民も商売相手だもんな」
「はい。貴族だけでなく、商人や裕福な平民にも興味を持ってもらえたらいいなと」
「確かにそうだ。どうだ、トウシン。ライネルを信用できそうか?」
「意地悪はやめてください。とっくに信用してます。ぜひお願いします」
共同工房の若者たちは、一斉に頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「じゃあみんなで飲むか!」
「またですか?!」
さっきまで馬車の中でぐったりしていた人たちが、たちまち元気を取り戻して酒を注ぎ合う。
「うわー……俺はもう帰ろ」
ブラウンが嫌そうにそう言うので、ライネルもこっそりと一緒にその場を抜け出し、宿へ向かった。
「ショーさんも置いてきちゃいましたね。疲れた顔してたのに」
「あの空気じゃ、よっぽど上手く抜けないと無理だろ。後は本人たちの采配に任せよう」
二人はのんびりと、宿へ続く道を歩いた。
空にはうっすらと月が浮かび、静かな夜気の中に虫の声が響いている。
「王都は賑やかでしたね」
ライネルの言葉に、ブラウンは笑ってうなずいた。
「ライネルはどっちが好きだ?」
「職人村と王都ですか?それはもう、職人村の方が――」
そう言いかけて、ふとアルヴェリオを思い出す。
「……どっちも好きです」
「そうか」
ブラウンの笑みは、月の光の下でどこか優しく見えた。
◇◇◆◆◇◇
翌日から、株式化システムが正式に始動した。
……とはいえ、忙しいのは新しい商品を店舗に卸す各工房だけで、ライネルたち“事務局”の仕事はまだほとんどない。
「始まったばかりだからね。これから“希望の証”を売ったり買ったりする人が増えたら、大変になるよ」
前世の記憶をヒントに、この時代に合うようアレンジを加えながら、なるべく簡単に運用できるよう進めていくつもりだ。
何しろ人手は三人しかいないのだから。
「ねぇ、本当に俺でいいの?計算苦手なんだけど」
ショーが不安げに言うと、アノマリーが元気よく手を挙げた。
「僕が得意なので大丈夫です!」
「そうですね。ショーさんはとても几帳面に宿の収支をつけていますよね?あんなふうに、“希望の証”の“売り”と“買い”を紙に記帳していただきたいんです」
計算は本人の言うとおりアノマリーに任せて、全体の取りまとめは自分がやる――ライネルはそう考えていた。
「外部との折衝は俺に任せてくれ」
ブラウンも頼もしい言葉を口にする。
「手始めに明日、トウシンの話を王都の商会に説明しに行ってくる」
「はい、お願いします……」
本当は一緒に行って、あわよくばアルヴェリオに会いたかった。
ライネルは、しょんぼりと肩を落としながらそう答える。
「まぁ元気出せ。しばらくライネルは王都に近づかないほうがいい。この前追いかけてきたやつに、トドメを刺し損ねたしな。いつまた襲ってくるかわからない」
「トドメ……?」
なんて、恐ろしいことを。
「……アルヴェリオ様に、よろしくお伝えください。もう二度と会うことはないかもしれませんし」
気弱なことを言うライネルに、ブラウンはうっすらと笑った。
「そうなったら、あいつは何をするかわからないな」
「えっ?」
「いや、なんでもない。じゃあ旅支度があるんで」
そう言うと、ブラウンは手を振って宿の二階へ上がっていく。
その後、アノマリーとショーもそれぞれ工房を周るための準備をしようと、部屋から出て行った。
ライネルはひとり、窓の外を見上げながら切ない気持ちでため息をつく。
「あーあ、やっぱり会いに行きたかったな」
アシュレイの代わりに結婚させられると聞いた時は、自分がこんなふうに相手を好きになるとは夢にも思っていなかった。
わずかに残る前世の記憶のせいで、むしろ男との結婚に多少なりとも違和感を持っていたし、そもそも恋なんてしてる場合ではなかったのだから。
けれどアルヴェリオの不器用な優しさに触れ、貴族らしからぬ人の良さや誠実さに惹かれた。
人としても心から尊敬できる人なのだ。
「……でもそんな人が僕を好きって……」
宿屋での言葉を思い出し、ライネルは恥ずかしさに部屋を転がりそうになるのをグッと堪える。
「……また、会えるかな」
「……これは?」
「共同工房の皆さんです」
「はあ?」
よく分からないという顔をする面々を前に、ライネルは丁寧に説明を始めた。
「独立工房は一つ一つが独自に株式化してあります。けれど、共同工房は皆さん全員で一つの株式とします」
「……わかるような、わかんねぇような」
オイショが首をかしげたので、ライネルはさっき書いたいくつかの点を大きな丸で囲い、その隣に別の丸をいくつか描いた。
その丸に“ゼンバさん”や“レバレンさん”と名前を書き込む。
「独立工房に関してはそれぞれが、独自の“希望の証”を持っています。けれど共同工房はみんな合わせて一つの希望の証を持つことになります」
「損も得も分け合うってことか?」
「はい。でもそれだけじゃありません。たとえば宝石工房の希望の証は、もし宝石の売り上げが落ちたら価値も下がりますよね?」
「うん」
「でも、共同工房はステンドグラスの売り上げが落ちても、アクセサリーの売り上げが上がればプラスマイナスゼロになるんです」
「それぞれが助け合うってことだな」
「はい。お土産は流行り廃りが激しいので、すごく売れるものもあれば、突然売れなくなるものもあります。いろんな職人が集まることで、リスクを下げるんです」
「なるほどな」
「ただ、リスクが減ると大きな儲けの可能性も少なくなります。価格変動が少なく、安定した支援をしたい人向けの希望の証になります」
「ほぉ……確かに。でも貴族向けの商品じゃないから、買ってもらえないんじゃないか?」
あちこちから質問や疑問の声が上がる。
ライネルは丁寧に一つずつ答えていった。
「お米や麦の話、覚えていますか?あらかじめ金額を決めて、年間契約するっていうあの仕組みです。あれを王都の商会に持っていったら、面白がって契約してくれたんです。今回のその商会主に話もしてみようと思います」
「なるほど。商会なら平民も商売相手だもんな」
「はい。貴族だけでなく、商人や裕福な平民にも興味を持ってもらえたらいいなと」
「確かにそうだ。どうだ、トウシン。ライネルを信用できそうか?」
「意地悪はやめてください。とっくに信用してます。ぜひお願いします」
共同工房の若者たちは、一斉に頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「じゃあみんなで飲むか!」
「またですか?!」
さっきまで馬車の中でぐったりしていた人たちが、たちまち元気を取り戻して酒を注ぎ合う。
「うわー……俺はもう帰ろ」
ブラウンが嫌そうにそう言うので、ライネルもこっそりと一緒にその場を抜け出し、宿へ向かった。
「ショーさんも置いてきちゃいましたね。疲れた顔してたのに」
「あの空気じゃ、よっぽど上手く抜けないと無理だろ。後は本人たちの采配に任せよう」
二人はのんびりと、宿へ続く道を歩いた。
空にはうっすらと月が浮かび、静かな夜気の中に虫の声が響いている。
「王都は賑やかでしたね」
ライネルの言葉に、ブラウンは笑ってうなずいた。
「ライネルはどっちが好きだ?」
「職人村と王都ですか?それはもう、職人村の方が――」
そう言いかけて、ふとアルヴェリオを思い出す。
「……どっちも好きです」
「そうか」
ブラウンの笑みは、月の光の下でどこか優しく見えた。
◇◇◆◆◇◇
翌日から、株式化システムが正式に始動した。
……とはいえ、忙しいのは新しい商品を店舗に卸す各工房だけで、ライネルたち“事務局”の仕事はまだほとんどない。
「始まったばかりだからね。これから“希望の証”を売ったり買ったりする人が増えたら、大変になるよ」
前世の記憶をヒントに、この時代に合うようアレンジを加えながら、なるべく簡単に運用できるよう進めていくつもりだ。
何しろ人手は三人しかいないのだから。
「ねぇ、本当に俺でいいの?計算苦手なんだけど」
ショーが不安げに言うと、アノマリーが元気よく手を挙げた。
「僕が得意なので大丈夫です!」
「そうですね。ショーさんはとても几帳面に宿の収支をつけていますよね?あんなふうに、“希望の証”の“売り”と“買い”を紙に記帳していただきたいんです」
計算は本人の言うとおりアノマリーに任せて、全体の取りまとめは自分がやる――ライネルはそう考えていた。
「外部との折衝は俺に任せてくれ」
ブラウンも頼もしい言葉を口にする。
「手始めに明日、トウシンの話を王都の商会に説明しに行ってくる」
「はい、お願いします……」
本当は一緒に行って、あわよくばアルヴェリオに会いたかった。
ライネルは、しょんぼりと肩を落としながらそう答える。
「まぁ元気出せ。しばらくライネルは王都に近づかないほうがいい。この前追いかけてきたやつに、トドメを刺し損ねたしな。いつまた襲ってくるかわからない」
「トドメ……?」
なんて、恐ろしいことを。
「……アルヴェリオ様に、よろしくお伝えください。もう二度と会うことはないかもしれませんし」
気弱なことを言うライネルに、ブラウンはうっすらと笑った。
「そうなったら、あいつは何をするかわからないな」
「えっ?」
「いや、なんでもない。じゃあ旅支度があるんで」
そう言うと、ブラウンは手を振って宿の二階へ上がっていく。
その後、アノマリーとショーもそれぞれ工房を周るための準備をしようと、部屋から出て行った。
ライネルはひとり、窓の外を見上げながら切ない気持ちでため息をつく。
「あーあ、やっぱり会いに行きたかったな」
アシュレイの代わりに結婚させられると聞いた時は、自分がこんなふうに相手を好きになるとは夢にも思っていなかった。
わずかに残る前世の記憶のせいで、むしろ男との結婚に多少なりとも違和感を持っていたし、そもそも恋なんてしてる場合ではなかったのだから。
けれどアルヴェリオの不器用な優しさに触れ、貴族らしからぬ人の良さや誠実さに惹かれた。
人としても心から尊敬できる人なのだ。
「……でもそんな人が僕を好きって……」
宿屋での言葉を思い出し、ライネルは恥ずかしさに部屋を転がりそうになるのをグッと堪える。
「……また、会えるかな」
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