【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy

文字の大きさ
58 / 89
第三章 貴方となら何でも出来る気がしました

57・すべてお話しします

 ライネルは外へ飛び出したが、フェルナンドの姿はすでにどこにも見当たらなかった。

「どうしよう……!」

 呆然と立ち尽くすライネルに、外で作業をしていたショーが気付く。

「どうかしたのか?ライネル」

「ショーさん! 王都からの帰りに襲ってきた男がいました!」

「また現れたのか?!」

 あの日、ショーは別の馬車に乗っていたため、その襲撃を目の当たりにしていない。しかし後で話を聞き、自分がそばに守れなかったことをひどく悔やんだのだ。

「俺が探してくる」

「だめです、ショーさん! 危ないです! あいつは人を殺すことを何とも思わない残虐な男です!……それに、もうきっと間に合わない」

 ショーは眉をひそめた。

「……ライネルはそいつの正体を知っているのか?」

 ライネルは少しだけ逡巡し、小さく頷いた。

「皆さんに隠していたことがあります。きちんとお話しして謝ってから……僕はこの村を出ようと思います」

 このままここにいれば、アシュレイがどんな手を使って自分を連れ戻しに来るかわからない。

 別の場所に身を隠すか……それとも、いっそ。

「なんだか分からないが、ライネルが出て行く必要はない。誰だって言いたくないことのひとつやふたつあるだろう。隠していたって悪いことじゃない」

「ショーさん……ありがとうございます。でも、いずれ話をしなければと思っていました」

 みんなを巻き込む可能性がある以上、逃げることはできない。アシュレイは何をするにも容赦がないのだから。

「僕がみんなに声をかけて、ゼンバさんの工房に集まってもらいます。ショーさんも片付けが終わったら先に行っててください」

「……分かった」

 今後を考えるには急がなければならない。後を任せられるのはショーとアノマリーしかいない。

 仕組みはもう整っている。商品の出し入れや売買の手順さえ伝えれば、この村は問題なく回り続けるはずだ。細々とした外部とのやり取りは紙に書き出しておこう。

 ライネルは自分の頬を軽く叩き、村の中心にある工房へ向かって駆け出した。

 ◇◆

「ライネルが貴族?」

 レバレンが、まるで天気の話でもするようにあっさりと言った。

「……はい。黙っていてすみません」

「いいのよ。だってみんな薄々知ってたわよ」

「ええっっ?!?!」

 ライネルの叫びにも、工房主たちは顔を見合わせ、当然とばかりに頷き合う。

「だって見れば分かるさ。言葉遣いや立ち振る舞いが平民じゃねぇもん。平民の同い年の男なんかもっと粗野で態度でかくて、根拠もなしに偉そうなんだから」

 レバレンの言葉に、その場にいた同年代の少年たちが気まずそうに身を縮める。

「まあ、さすがに侯爵様ってのには驚いたけどなぁ」

 ゼンバの言葉に周りの男たちが笑い出す。

「事情があったんだろ? その点は心配いらねぇ。それにしても家族なのに、そんなひどいことする奴がいるんだな」

「ほんとだぜ。腹違いでもよ、子どもに罪はねぇだろうが」

「そうだそうだ。生まれた子どもには何の責任もねぇ」

 優しい言葉が次々と降り注ぎ、ライネルはぽかんと口を開けた。

 そんな風に言われたのは、生まれて初めてだった。

「とにかく、そんな家族がいるところに帰る必要はねぇよ。探しに来たって、隠れる場所ならいくらでもある。出て行く必要なんかねぇだろ」

「皆さん……」

 胸が熱くなって、言葉にならない。

 けれど現実として、アシュレイはこの先さらに強引な手段を使ってくるだろう。その時は……彼の言う通り、結婚でも何でもして、この村だけは守ってもらおう——ライネルはそう固く心に刻んだ。

「まあ万が一の時は、領主様も助けてくれるだろ」

「そうそう。まさかライネルが領主様と良い仲だったなんてなぁ、そっちの方が驚いたわ」

「?! 良い仲って! 違いますよ! 僕の話、聞いてました?!」

「いやぁ、王都でのお披露目会といい、あの豪華な馬車といい、妙だとは思ってたんだよ。領地の少年にあそこまでやるか? 普通。……全部ライネルのためだったんだろうなぁ」

 ゼンバの言葉に、再びみんなが頷く。

「やめてください! アルヴェリオ様に失礼です!」

 真っ赤になって必死に否定するライネルを、人々はますます冷やかし、結果として重かった空気はいつの間にか祝いの席のような和やかさに変わっていったのだった。

 ◆◆◆◆◆

「ライネルが見つかった?」

 バロウズ男爵邸の庭で優雅に茶を楽しんでいたアシュレイのもとへ、馬を飛ばして戻ってきたフェルナンドが跪く。

「はい。ひとまず報告をと思い、取り急ぎ戻って来ました。アシュレイ様が気にかけていた職人村で暮らしていて、あの株式化を考案し、軌道に乗せたのはライネルでした」

「は? まさか。あいつは生まれた時から下働きで、教育なんて何ひとつ受けていない。字だってろくに書けるかどうかも怪しいのに、そんな奴があんなこと思いつくと?絶対に裏で糸を引いてるやつがいる」

「……」

 フェルナンドは知っていた。

 蔑まれ疎まれ、いつも震えて泣くことしか出来なかった少年が、ある日を境にまるで別人のように変わったこと。

 達観したような顔で毎日を過ごし、仕事の合間を縫って難しい本を読み漁るようになった。すべて、アシュレイが軽い気持ちで二階のベランダから彼を突き落としたあの日からだった。

「ライネルを連れてきますか?」

「ああ。どうせ俺の決めた相手と結婚してもらう必要がある。早々に連れて来い。手荒にしても生きてさえいればいい。グランチェスターの屋敷に連れて帰れ」

「はっ」

 フェルナンドは、命より大切な主の命を受け、即座に姿を消した。

あなたにおすすめの小説

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

姉の聖女召喚に巻き込まれた無能で不要な弟ですが、ほんものの聖女はどうやら僕らしいです。気付いた時には二人の皇子に完全包囲されていました

彩矢
BL
20年ほど昔に書いたお話しです。いろいろと拙いですが、あたたかく見守っていただければ幸いです。 姉の聖女召喚に巻き込まれたサク。無実の罪を着せられ処刑される寸前第4王子、アルドリック殿下に助け出さる。臣籍降下したアルドリック殿下とともに不毛の辺境の地へと旅立つサク。奇跡をおこし、隣国の第2皇子、セドリック殿下から突然プロポーズされる。

囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ
BL
【理知的美形王子×痛みを知らない異能王子】  触れた人の痛みは感じても、自分の痛みに気づけない──そんな異能を持つ王子カシュアは、政略結婚で嫁いだ異国で幽閉され、四年間忘れられていた。  彼が再び人前に姿を現したのは、クーデターの混乱のさなか。そして、存在を持て余された末、次期宰相である王子との再婚が決まる。  冷静で無口な王子が、なぜかカシュアにだけは優しいのは、かつて彼が妖精物語に恋をした少年だったから――不器用な王子とともに、愛をたしかめ合うストーリー。※2025/11/26第三部スタート

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

君に不幸あれ。

ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」 学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。 生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。 静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。 静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。 しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。 「好きになられるからあいつには近づかない方がいいよ。」 玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。 それから十年後。 静は玲に復讐するために近づくが…

【第一部・完結】毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~

蛮野晩
BL
マリスは前世で毒親育ちなうえに不遇の最期を迎えた。 転生したらヘデルマリア王国の第一王子だったが、祖国は帝国に侵略されてしまう。 戦火のなかで帝国の皇帝陛下ヴェルハルトに出会う。 マリスは人質として帝国に赴いたが、そこで皇帝の弟(エヴァン・八歳)の世話役をすることになった。 皇帝ヴェルハルトは噂どおりの冷徹な男でマリスは人質として不遇な扱いを受けたが、――――じつは皇帝ヴェルハルトは戦火で出会ったマリスにすでにひと目惚れしていた! しかもマリスが帝国に来てくれて内心大喜びだった! ほんとうは溺愛したいが、溺愛しすぎはかっこよくない……。苦悩する皇帝ヴェルハルト。 皇帝陛下のラブコメと人質王子のシリアスがぶつかりあう。ラブコメvsシリアスのハッピーエンドです。

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…