21 / 41
俺の番には大切な人がいる㉑ 〜晃視点〜
しおりを挟む
晃視点
「匠が目を覚ました?すぐ行く!」
ユキからの連絡に俺はすぐさま上着を掴んで玄関に向かった。
「待って!まだ先生の診察も終わってないし、なんか話があるみたいでしばらく病室に入れないんだ。」
「でも近くにいたい」
たとえ顔が見られなくても。
「もうちょっと待ってて。診察終わって面会出来そうなら改めて連絡するから。とにかく無事に目覚めたからもう大丈夫だよ」
「分かった……ありがとう」
俺は電話を切るとその場に座り込む。
「良かった……本当に」
1人でそう呟いて昨夜の惨状を思い出し匠を失うかもしれなかった恐怖に体を震わせた。
昨夜、匠の様子がおかしいとユキから連絡を貰ったので2人で彼の住むマンションまで駆けつけた。
するとエントランス前に救急車が停まっていたのだ。
嫌な予感がして足速に入り口に向かうと、廊下の先から直人さんが走って来た。
救急隊員に先導されて血塗れで意識のない匠を横抱きにして……。
「匠!!」
思わず叫び駆け寄ると直人さんはハッとしたように足を止め泣きそうに顔を歪めて俺たちを見た。
「直人さんどう言うこと?!匠は……ああそれより早く病院に運んで!」
ユキは声を震わせながらも直人さんを急かす。
横たわる匠は元々白い肌を更に白くさせてピクリとも動かなかった。
バスタオルを巻かれた左腕から滲む血は止まる気配が無いし、だらんと垂れた脚は記憶の中の匠よりずっと痩せ細っている。
頭の中で様々な感情が溢れ言葉の出ない俺を横目に、匠の血でシャツを真っ赤に染めた直人さんがユキに縋るように声を絞り出した。
「ユキくん、あの子に付き添ってやってくれないか。俺は怖がられてるから意識が戻るとパニックを起こすかもしれない。すぐ車で追いかけるから」
「……わかりました」
そう言うなりユキは何も聞かずさっと救急車に乗り込み隊員と言葉を交わした。
「ユキ!俺も……!」
「後で直人さんと一緒に来て!」
話は終わりとばかりにバックドアが閉まる。
静まり返った夜更けの街に耳を塞ぎたくなるようなサイレンを鳴らして匠を乗せた救急車は闇に消えていった。
「驚かせてしまった。すまない」
そう呟いた直人さんは憔悴しきっていた。
「何があったんですか」
「首の……噛み跡が」
「え?」
直人さんはどこを見ているか分からない虚な目でそう言った。
「噛み跡?」
「そう。噛み跡が消えそうだったんだ」
直人さんはエントランスにある来客用ソファに崩れるように座り込み、吹き抜けを見上げて独り言のように続けた。
「噛み跡が消えたら優斗はどこかに行ってしまう。だから噛もうとして……怖がらせた。そしたら優斗は刃物で自分の腕を……」
……優斗じゃない。あれは匠だ。そう言いたい気持ちを堪えて唇を噛んだ。
けれどあれだけの怪我を自分でやったと言うのか。
一体どうして……。
それに噛み跡が消えるなんておかしい。
確かに番になったΩも最近はお互いの気持ちが離れれば頸の噛み跡は消えていくと聞いたことがある。
消えれば他のαと番う事が出来るので絶滅に瀕しているΩの進化の形だとテレビで言っていた。
でも匠は直人さんを心から愛してる。
何故噛み跡が消えるんだ?
そこまで考えたところでそれどころじゃないことを思い出した。
「直人さん早く病院に行きましょう」
「ああ。車を呼ぶ」
……この人も随分と痩せてしまったな。
それにしても彼らに何があったのだろう。
俺は色のない匠の顔を思い出し、焦燥に駆られた。
程なくして到着した迎えの車に乗り、病院に着いた俺たちは救急の入り口から案内されて手術室の前にたどり着いた。
ユキが小さな体を更に小さく丸めてベンチにうずくまっている。
「どんな様子だ?」
「手首を刃物で何度も切り付けたみたいで神経がちゃんと繋がるか分からないって」
「何でそんな事……」
ユキは何も考えたくないとばかりに更に小さく丸くなった。
俺は茫然自失の直人さんを促しソファに座った。
この状態では何があったのか聞き出すのは無理だろう。
「直人さん」
俺の呼びかけに直人さんは黙って虚な目だけを俺に向ける
「匠は俺の運命の相手です」
何も映してなかったその目が徐々に大きくなり、ようやく視線が噛み合った。
「一生大事にしたいと思ってます。」
最後まで言わなくても俺の意図は伝わったのだろう。
そうかと小さく呟いて彼は下を向いた。
静かな廊下に時計の音だけが響く中でそれぞれがただ1人の人にそれぞれの思いを馳せる。
直人さんは俺が匠と呼んだことに気が付いただろうか。
手術室のドアが開き、医師が姿を見せたのはもう空が明るくなってからだった。
「匠は!」
「大丈夫ですよ。出血が酷かったので回復に時間はかかりますが」
「ありがとうございます!」
「血圧や心拍が安定したら病室に移します。今後のリハビリについてはまたご相談しますので」
俺たち三人は、匠を救ってくれた若い医師に何度も頭を下げてお礼を伝えた。
その後、担当看護師から付き添いの話があり、手を挙げたユキが診察室に消えた。
「……直人さん、付き添わないでいいんですか?」
俺の言葉に彼は黙って頷いた。
「でも、匠は待ってるかもしれませんよ」
違う名前を呼ばれても愛していた相手だ。
目が覚めた時、側にいて欲しいんじゃないだろうか。
「……さっきも言っただろう。俺がいると怖がらせる。それに俺は彼のそばにいる資格がない」
「それはどういう……」
俺が最後まで言い終わらないうちに直人さんは立ち上がり、ふらふらと出口から姿を消した。
記憶は戻ったんだろうか。
それならきちんと匠に伝えた方がいい。
そして匠を愛してると伝えれば2人は仲良く暮らせるだろう。
優斗さんがいなくなった今、昔よりずっと寄り添って生きていけるはずだ。
こんな風に匠を苦しめるのはどうしてなのか。
いくら考えても分からない。
……そんな風に昨夜のことを思い出していると、再度ユキから連絡が入った。
匠が会いたがってるから来てくれとの言葉に俺は急いで部屋を飛び出し、病院に向かった。
「匠が目を覚ました?すぐ行く!」
ユキからの連絡に俺はすぐさま上着を掴んで玄関に向かった。
「待って!まだ先生の診察も終わってないし、なんか話があるみたいでしばらく病室に入れないんだ。」
「でも近くにいたい」
たとえ顔が見られなくても。
「もうちょっと待ってて。診察終わって面会出来そうなら改めて連絡するから。とにかく無事に目覚めたからもう大丈夫だよ」
「分かった……ありがとう」
俺は電話を切るとその場に座り込む。
「良かった……本当に」
1人でそう呟いて昨夜の惨状を思い出し匠を失うかもしれなかった恐怖に体を震わせた。
昨夜、匠の様子がおかしいとユキから連絡を貰ったので2人で彼の住むマンションまで駆けつけた。
するとエントランス前に救急車が停まっていたのだ。
嫌な予感がして足速に入り口に向かうと、廊下の先から直人さんが走って来た。
救急隊員に先導されて血塗れで意識のない匠を横抱きにして……。
「匠!!」
思わず叫び駆け寄ると直人さんはハッとしたように足を止め泣きそうに顔を歪めて俺たちを見た。
「直人さんどう言うこと?!匠は……ああそれより早く病院に運んで!」
ユキは声を震わせながらも直人さんを急かす。
横たわる匠は元々白い肌を更に白くさせてピクリとも動かなかった。
バスタオルを巻かれた左腕から滲む血は止まる気配が無いし、だらんと垂れた脚は記憶の中の匠よりずっと痩せ細っている。
頭の中で様々な感情が溢れ言葉の出ない俺を横目に、匠の血でシャツを真っ赤に染めた直人さんがユキに縋るように声を絞り出した。
「ユキくん、あの子に付き添ってやってくれないか。俺は怖がられてるから意識が戻るとパニックを起こすかもしれない。すぐ車で追いかけるから」
「……わかりました」
そう言うなりユキは何も聞かずさっと救急車に乗り込み隊員と言葉を交わした。
「ユキ!俺も……!」
「後で直人さんと一緒に来て!」
話は終わりとばかりにバックドアが閉まる。
静まり返った夜更けの街に耳を塞ぎたくなるようなサイレンを鳴らして匠を乗せた救急車は闇に消えていった。
「驚かせてしまった。すまない」
そう呟いた直人さんは憔悴しきっていた。
「何があったんですか」
「首の……噛み跡が」
「え?」
直人さんはどこを見ているか分からない虚な目でそう言った。
「噛み跡?」
「そう。噛み跡が消えそうだったんだ」
直人さんはエントランスにある来客用ソファに崩れるように座り込み、吹き抜けを見上げて独り言のように続けた。
「噛み跡が消えたら優斗はどこかに行ってしまう。だから噛もうとして……怖がらせた。そしたら優斗は刃物で自分の腕を……」
……優斗じゃない。あれは匠だ。そう言いたい気持ちを堪えて唇を噛んだ。
けれどあれだけの怪我を自分でやったと言うのか。
一体どうして……。
それに噛み跡が消えるなんておかしい。
確かに番になったΩも最近はお互いの気持ちが離れれば頸の噛み跡は消えていくと聞いたことがある。
消えれば他のαと番う事が出来るので絶滅に瀕しているΩの進化の形だとテレビで言っていた。
でも匠は直人さんを心から愛してる。
何故噛み跡が消えるんだ?
そこまで考えたところでそれどころじゃないことを思い出した。
「直人さん早く病院に行きましょう」
「ああ。車を呼ぶ」
……この人も随分と痩せてしまったな。
それにしても彼らに何があったのだろう。
俺は色のない匠の顔を思い出し、焦燥に駆られた。
程なくして到着した迎えの車に乗り、病院に着いた俺たちは救急の入り口から案内されて手術室の前にたどり着いた。
ユキが小さな体を更に小さく丸めてベンチにうずくまっている。
「どんな様子だ?」
「手首を刃物で何度も切り付けたみたいで神経がちゃんと繋がるか分からないって」
「何でそんな事……」
ユキは何も考えたくないとばかりに更に小さく丸くなった。
俺は茫然自失の直人さんを促しソファに座った。
この状態では何があったのか聞き出すのは無理だろう。
「直人さん」
俺の呼びかけに直人さんは黙って虚な目だけを俺に向ける
「匠は俺の運命の相手です」
何も映してなかったその目が徐々に大きくなり、ようやく視線が噛み合った。
「一生大事にしたいと思ってます。」
最後まで言わなくても俺の意図は伝わったのだろう。
そうかと小さく呟いて彼は下を向いた。
静かな廊下に時計の音だけが響く中でそれぞれがただ1人の人にそれぞれの思いを馳せる。
直人さんは俺が匠と呼んだことに気が付いただろうか。
手術室のドアが開き、医師が姿を見せたのはもう空が明るくなってからだった。
「匠は!」
「大丈夫ですよ。出血が酷かったので回復に時間はかかりますが」
「ありがとうございます!」
「血圧や心拍が安定したら病室に移します。今後のリハビリについてはまたご相談しますので」
俺たち三人は、匠を救ってくれた若い医師に何度も頭を下げてお礼を伝えた。
その後、担当看護師から付き添いの話があり、手を挙げたユキが診察室に消えた。
「……直人さん、付き添わないでいいんですか?」
俺の言葉に彼は黙って頷いた。
「でも、匠は待ってるかもしれませんよ」
違う名前を呼ばれても愛していた相手だ。
目が覚めた時、側にいて欲しいんじゃないだろうか。
「……さっきも言っただろう。俺がいると怖がらせる。それに俺は彼のそばにいる資格がない」
「それはどういう……」
俺が最後まで言い終わらないうちに直人さんは立ち上がり、ふらふらと出口から姿を消した。
記憶は戻ったんだろうか。
それならきちんと匠に伝えた方がいい。
そして匠を愛してると伝えれば2人は仲良く暮らせるだろう。
優斗さんがいなくなった今、昔よりずっと寄り添って生きていけるはずだ。
こんな風に匠を苦しめるのはどうしてなのか。
いくら考えても分からない。
……そんな風に昨夜のことを思い出していると、再度ユキから連絡が入った。
匠が会いたがってるから来てくれとの言葉に俺は急いで部屋を飛び出し、病院に向かった。
40
あなたにおすすめの小説
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます
こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。
【運命】に捨てられ捨てたΩ
あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる