【完結】俺の番には大切な人がいる

ivy

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俺の番には大切な人がいる㉕ 〜直人視点〜

直人視点


「待ってください!」

振り返った俺の目の前に少し息を切らして立っていたのは晃くんだ。

「何か用?」

「嘘ですよね、さっきの話」

突き放すような言い方にも怯まず彼がそう問いかける。

「君には関係ない」

そう言って前を向き出口に向かって足を進めた。

「本当にもう会わないつもりですか」

会わないんじゃない
会えないんだよ

心の中で返事をする

「わざと突き放して匠の未練を絶とうとしてるんですよね」


「憶測でものを言わないで欲しい」

俺は彼の方に向き直った。

「匠のお腹にいるのは君の子だろう?よかったじゃないか運命の番と一緒になれるんだぞ」

彼は黙っている。


例え元々がβでも
俺にとっては優斗が運命だった。

匠のことは確かに愛しい。
一緒に暮らすうちにどんどん惹かれる自分がいた。
この先共に歩めたらどんなに幸せだろうと思う。
世の中運命の番と一緒になれる事の方が珍しいのだから。



でも優斗はどうなる?
死んでしまった優斗にしてやれる事は忘れずにずっと思い続ける事だけだ。

だから匠は俺の中で1番になる事はない。
心底愛し合って生涯を共にしても。


「子供の父親は君なんだろう?」

「はい」

「じゃあ尚更余計なことを考えず匠のそばに居ればいい」


そう言われて唇を噛み目を伏せるのは匠の気持ちを慮っているのだろう。



君とならきっと匠は幸せになれる。


あの素直で健気で愛に飢えた子には自分を一番に愛してくれる相手が必要だから。




だからこれで終わりにする。






「君がいなければ未来は変わったかもな」

「どう言う意味ですか?」

「そのままだよ。早く病室に戻って」


それだけ言うと俺は踵を返して歩き出した。


背後から彼の声がした。

「匠と幸せになります」


決意を滲ませた神聖な誓いの言葉は
驚くほど俺の心を自由にした。






「直人様・・」

病院の駐車場で待っていた大久保が俺の姿を見て駆け寄ってきた。

「本当にこれで良いのですか?」

その問いには答えず俺は車に乗り込み呟いた。

「優斗なら俺の子供を産んでくれただろうか」

「えっ?」


そんなことを考えても仕方のないことだけど

優斗が子供を産めたなら
病気になっていなければ
匠と結婚しなければ

匠を・・愛しく思わなければ


何かが変わっただろうか。



「子供ですか・・」

大久保が呟く。

彼もまた後悔も葛藤も沢山しただろう。
我が家に恩があり生涯尽くすと決めていても大久保にとって優斗は大切な一人息子だったのだから。


「大久保、頼んでいた資産の売却は終わったか?」

「はい。時間はかかりましたがいい条件で引き取り手が見つかりました。けれど本当に宜しいのですか?」

やっと軌道に乗ってきた自分の手掛けた事業だ。
全ては優斗のために。


「もう必要ない。契約が締結したら他の資産と一緒に全て匠の口座に振り込んでくれ」

贅沢しなければ一生暮らせるだけの額はあるはずだ。

「全てですか?直人様はどうなさるんですか?」

先日思いの丈を全て親父にぶちまけて勘当されたばかりだ。
大久保の心配ももっともだろう。

「大久保は親父のところに戻ってくれ。話は通してある」

「直人様?馬鹿な事は考えないで下さいね。」

大久保の声が緊張をはらむ。

「心配はいらない。しばらく旅に出ようと思ってる」

優斗が憧れて終の住処にしたいと言った異国の小さな街。
そこに優斗を連れて行く。


「どのくらいでお戻りになりますか?」


その問いには沈黙で答え窓の外の景色を眺めた。
ポツポツと降り出した雨がこの街から色も音も消してゆく。

美しいもの幸せなものは雨に流れて全て匠の元に届けばいい。

もう俺には必要のないものだから。












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