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王弟殿下アリー視点
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~王弟殿下アリー視点~
「まだ見つからないのか」
「申し訳ございません。もしかすると国外に出られたのかもしれません」
「手配の範囲を広げろ」
「はっ」
俺は無能な騎士に苛々しつつ精一杯声を抑えた。
何回同じ報告をするのか。
ユビイがいなくなってもう半年だ。
まさか事故や病気じゃ無いだろうなと思うと気が狂いそうになる。
あいつに頼れる家族はいないのに。
「まあまあ落ち着いたら?」
ソファに寝そべり本を読みながら呑気な事を言うリズにイライラは更に大きくなる。
「お前にもう用はないんだからさっさと国に帰れ」
「冷たいなー。従兄弟同士でしょ。恋人の振りまでしてあげたのに冷たくない?」
「お前は国に帰って叔父上に怒られるのが嫌なだけだろ。こっちでもフラフラと遊び歩いて」
「はは確かにねー」
全く。
腹が立つ。
でも一番腹が立つのは自分の愚かさだ。
ユビイを愛している。
今も昔もずっと。
一緒に遊んだ子供の頃から負けず嫌いで強いあいつが大好きだった。
十五歳になりユビイが妃教育を始めたと同時に俺も兄王を支える為の教育が始まった。
次に会えるのは正式な許嫁になる時だ。
それがどれほど寂しかったか。
これから先一緒にいる為だと耐えられたのはお互い同じ気持ちだと信じていたからだ。
そして二十歳になり五年ぶりに会ったユビイは見違えるほどに立派な妃殿下となっていた。
見た目の美しさは元より中身もそれはたおやかで麗しく久しぶりに会った俺は有頂天になった。片時も離さず大切にするほど。
けれど
そのうちユビイの美しい顔には全く表情がない事に気付いたのだ。
嬉しい時には少しだけ口角が上がる。だが目は笑っていない。嬉しい時は大好き!と飛びついて来たのに今では静かに「感謝いたします」と述べるのみ。全く感謝の感じられない表情で。
五年あれば人は変わる。だがこれは変わりすぎじゃないか?そう思い始めると様々な事が疑いの芽に変わった。
そんな時皇太子の家庭教師であるセイン・ドーランが夜遅くユビイの部屋に入るのを目撃した。
二人は学生時代からの親友らしいがこんな時間にノックもなく部屋に来るだろうか。
その後も週に一度の割合でこっそりとユビイの部屋に通うセイン。
しかも出て来る時いつも紙の束を持っている。
あれはきっと二人でやりとりしている恋文に違いない。俺でさえ一度ももらった事が無いのにと思うと怒りと哀しみでどうにかなりそうだった。
そんな時出会ったのが一冊の小説だ。
城内で爆発的に流行っていると言うその恋愛小説は作者が誰か不明だそうで読みやすい文章が普段本に馴染みのない者さえ虜にしていると言う。
「恋愛小説なんてくだらない」
そう思っていた俺も読み始めると止まらなかった。自分達と話の中の二人が重なって切ない。ただ一つ違うのはユビイには他に愛する人がいると言う事だ。
まだ話は途中で今後の展開は分からないが本の中の二人は誤解を解き新たな絆を育てている。それが心底羨ましかった。
そして俺は一つの賭けをした。
この話の皇帝のように婚約を破棄しよう。
もし本当にユビイがセインを愛しているならその後は二人で幸せになるだろう。
それならそれでいい。人の心は縛れない。
ユビイ以上に愛せる人に今後巡り会える自信は無いけれど。
だがセインとの事が俺の勘違いで彼が一人で城を去るようならこちらが準備した館に移って貰い少しずつユビイの気持ちを解きほぐし新たな関係を築きたい。
そう思っていたのに。
ユビイは消えてしまった。
あまりにあっさりと。
破棄だと言った時も表情一つ変えず部屋を出て行った。呼び止める俺を振り返りもせず。愛情はもう無いのだと知らしめるように。
だからてっきりセインと一緒だと思っていたのに一人で出て行ったと聞いて慌てて彼の行方を追った。
だが半年経っても依然不明のまま。
一体どこで何をしているんだろう。
「ねえアリー」
「何だ」
「この小説本当に面白いね。隣国の皇太子登場でどっちとハッピーエンドになるのかドキドキする~。この連載終わるまで国に帰れないよ」
「さっさと帰れ。え?皇太子?何だそれは。新作か?」
「そう」
「見せてみろ」
「あっまだ途中なのに!」
俺はリズから取り上げた小説の続きを読む。
そしてギリッと歯噛みした。
孤独に暮らす青年に甘ったるい言葉を囁き手に入れようとするこの男が心底憎たらしい。
小説の話だとは分かっていても奇妙にリンクする二人を俺は酷く身近に感じている。
もしもこれと同じ事がユビイの身に起きてるとしたら。今頃違う誰かがユビイの側にいるんだろうか。
「やはり自分で探しに行く」
「そんな暇ないでしょ。何言ってんの。セインには聞いてみたの?」
「勿論だ。だが知らないの一点張りだし見張っていてもどこにも出掛けている様子はない」
「どこ行っちゃったんだろうね」
俺が全部悪い。
軽率な行動でユビイをあんな目に合わせて。
出来るなら会って騙した事をきちんと謝って彼の本当の気持ちを知りたい。
その上で一緒にいたくないなら俺は潔く諦めよう。
そうは言っても肝心のユビイに会えなければどうしようも無い。
俺は憎らしいほど清々しく晴れている春の空を見上げ深く溜息をついた。
「まだ見つからないのか」
「申し訳ございません。もしかすると国外に出られたのかもしれません」
「手配の範囲を広げろ」
「はっ」
俺は無能な騎士に苛々しつつ精一杯声を抑えた。
何回同じ報告をするのか。
ユビイがいなくなってもう半年だ。
まさか事故や病気じゃ無いだろうなと思うと気が狂いそうになる。
あいつに頼れる家族はいないのに。
「まあまあ落ち着いたら?」
ソファに寝そべり本を読みながら呑気な事を言うリズにイライラは更に大きくなる。
「お前にもう用はないんだからさっさと国に帰れ」
「冷たいなー。従兄弟同士でしょ。恋人の振りまでしてあげたのに冷たくない?」
「お前は国に帰って叔父上に怒られるのが嫌なだけだろ。こっちでもフラフラと遊び歩いて」
「はは確かにねー」
全く。
腹が立つ。
でも一番腹が立つのは自分の愚かさだ。
ユビイを愛している。
今も昔もずっと。
一緒に遊んだ子供の頃から負けず嫌いで強いあいつが大好きだった。
十五歳になりユビイが妃教育を始めたと同時に俺も兄王を支える為の教育が始まった。
次に会えるのは正式な許嫁になる時だ。
それがどれほど寂しかったか。
これから先一緒にいる為だと耐えられたのはお互い同じ気持ちだと信じていたからだ。
そして二十歳になり五年ぶりに会ったユビイは見違えるほどに立派な妃殿下となっていた。
見た目の美しさは元より中身もそれはたおやかで麗しく久しぶりに会った俺は有頂天になった。片時も離さず大切にするほど。
けれど
そのうちユビイの美しい顔には全く表情がない事に気付いたのだ。
嬉しい時には少しだけ口角が上がる。だが目は笑っていない。嬉しい時は大好き!と飛びついて来たのに今では静かに「感謝いたします」と述べるのみ。全く感謝の感じられない表情で。
五年あれば人は変わる。だがこれは変わりすぎじゃないか?そう思い始めると様々な事が疑いの芽に変わった。
そんな時皇太子の家庭教師であるセイン・ドーランが夜遅くユビイの部屋に入るのを目撃した。
二人は学生時代からの親友らしいがこんな時間にノックもなく部屋に来るだろうか。
その後も週に一度の割合でこっそりとユビイの部屋に通うセイン。
しかも出て来る時いつも紙の束を持っている。
あれはきっと二人でやりとりしている恋文に違いない。俺でさえ一度ももらった事が無いのにと思うと怒りと哀しみでどうにかなりそうだった。
そんな時出会ったのが一冊の小説だ。
城内で爆発的に流行っていると言うその恋愛小説は作者が誰か不明だそうで読みやすい文章が普段本に馴染みのない者さえ虜にしていると言う。
「恋愛小説なんてくだらない」
そう思っていた俺も読み始めると止まらなかった。自分達と話の中の二人が重なって切ない。ただ一つ違うのはユビイには他に愛する人がいると言う事だ。
まだ話は途中で今後の展開は分からないが本の中の二人は誤解を解き新たな絆を育てている。それが心底羨ましかった。
そして俺は一つの賭けをした。
この話の皇帝のように婚約を破棄しよう。
もし本当にユビイがセインを愛しているならその後は二人で幸せになるだろう。
それならそれでいい。人の心は縛れない。
ユビイ以上に愛せる人に今後巡り会える自信は無いけれど。
だがセインとの事が俺の勘違いで彼が一人で城を去るようならこちらが準備した館に移って貰い少しずつユビイの気持ちを解きほぐし新たな関係を築きたい。
そう思っていたのに。
ユビイは消えてしまった。
あまりにあっさりと。
破棄だと言った時も表情一つ変えず部屋を出て行った。呼び止める俺を振り返りもせず。愛情はもう無いのだと知らしめるように。
だからてっきりセインと一緒だと思っていたのに一人で出て行ったと聞いて慌てて彼の行方を追った。
だが半年経っても依然不明のまま。
一体どこで何をしているんだろう。
「ねえアリー」
「何だ」
「この小説本当に面白いね。隣国の皇太子登場でどっちとハッピーエンドになるのかドキドキする~。この連載終わるまで国に帰れないよ」
「さっさと帰れ。え?皇太子?何だそれは。新作か?」
「そう」
「見せてみろ」
「あっまだ途中なのに!」
俺はリズから取り上げた小説の続きを読む。
そしてギリッと歯噛みした。
孤独に暮らす青年に甘ったるい言葉を囁き手に入れようとするこの男が心底憎たらしい。
小説の話だとは分かっていても奇妙にリンクする二人を俺は酷く身近に感じている。
もしもこれと同じ事がユビイの身に起きてるとしたら。今頃違う誰かがユビイの側にいるんだろうか。
「やはり自分で探しに行く」
「そんな暇ないでしょ。何言ってんの。セインには聞いてみたの?」
「勿論だ。だが知らないの一点張りだし見張っていてもどこにも出掛けている様子はない」
「どこ行っちゃったんだろうね」
俺が全部悪い。
軽率な行動でユビイをあんな目に合わせて。
出来るなら会って騙した事をきちんと謝って彼の本当の気持ちを知りたい。
その上で一緒にいたくないなら俺は潔く諦めよう。
そうは言っても肝心のユビイに会えなければどうしようも無い。
俺は憎らしいほど清々しく晴れている春の空を見上げ深く溜息をついた。
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