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告白
しおりを挟む眠れないと思っていたのに気が付いたら朝だった。
俺はつくづく図太く出来てるらしい。
目を擦りながらリビングに行くと
とっくに起きていた賢士が朝ごはんの魚を焼いている。
「ほら顔洗って来い」
「はあい」
「お前は寝ぼけてると素直だな」
失礼だな。
そう思ったけど口には出さず素直に顔を洗いに行く。
昨夜あまり食べなかったので猛烈にお腹が空いていて余計なエネルギーは使いたくなかったのだ。
朝からバランスの取れた様々な料理がテーブルを賑わせる。
こんな生活が出来るなんて夢にも思ってなかった。
「美味いか?」
「うん!最高。・・食べないの?」
「お前を見てるだけで腹いっぱいだ」
そう言ってコーヒーを無表情で飲んでいる。
「今夜も遅い。昼と夜のメシは冷蔵庫だ。レンジで温めろ」
「うん」
「危ないから火は使うなよ?」
「う・・うん?」
俺をいくつだ思ってるんだろう。
これじゃ番じゃなくて親子だ。
「じゃあな」
「行ってらっしゃい!」
俺は慌てて立ち上がり見送る為に賢士を追っかける。
靴を履いた賢士は俺の方を振り向き頭をくしゃくしゃと撫で回して出かけていった。
その背中はやはりとても疲れて見える。
家でほとんど食事をしなくなったけど外ではちゃんと食べているんだろうか。
そのうち倒れるんじゃないかと心配になってしまう。
帰宅してからでも食べられそうな簡単なものを用意してみようか。
料理なんてした事ないけれど人の作ったものなら気分が変わって食べてくれるかもしれない。
俺は急いで残りの朝食を平らげスマホでレシピを検索しながらメニューを考えた。
「おい」
帰宅した賢士の第一声。
「まずはただいまでしょ」
「ただいま。いや、ゴミをテーブルに置くな」
「なんだと?」
視線の先には俺が作った晩御飯がある。
「卵焼きですけど」
「黒いんだが?」
「火加減が上手くいかなくて」
しばらく何かを考えていた賢士ははっとした顔で俺を見た。
「お前が作ったのか?」
「そう!卵焼き!」
胸を張って偉そうに言ってみるが失敗作である事は誰よりも自覚している。
だし巻き卵なるものに挑戦した訳だけどフライパンにくっつくし上手く巻けないし火力が最大だったのも敗因だと思う。
おまけに腕に引っ掛けて落としそうになったフライパンを手で受け止めて盛大に火傷をしてしまった。
「おい!その手!」
ほら見つかったよ。怒られるのに。
乱暴に腕を引かれて風呂場に連れて行かれ水のシャワーを浴びせられる。
「酷い火傷じゃないか!何でちゃんと冷やさないんだ!」
「わかんない・・」
「ああもう・・・!」
火傷をしたら冷やす。
そんなことも知らなかった。
怪我をしてもずっと我慢して自然に治るのを待つだけだったし。
冷たい水が2人の上から雨みたいに降り注ぐ。
熱かったのも痛いのも俺なのにそのつらさを分け合おうとしてるかのように眉間に皺を寄せた賢士は一緒に水に打たれてくれる。
体にこびりついた意地が一緒に流されていくようだ。
「痛いだろうこんな真っ赤になって。薬を塗ってやるからしばらく大人しくしてろ」
バスルームから出るとタオルで拭かれ薬を塗って包帯を巻かれた。
賢士はいつも俺をケアしてくれる。
清潔な包帯に包まれた腕をぼんやりみていると賢士が炭の塊に手を伸ばすのが見えた。
「何すんの」
「食う」
「何を?」
「卵焼きなんだろ?」
そう言うとフォークで切り分けた炭を戸惑いもなく口に入れる。
じゃり。
卵焼きとは思えない
いや食べ物ですらない神社の玉砂利を踏むような音に耐えきれなくなりもう喰うな!と皿を取り上げた。
「問題ない。この音は焦げじゃなくて卵の殻だ」
問題あるよ!
むしろ更にごめんなさいね!?
「早く返せ。食べ物を粗末にしたくない」
その言葉に俺は慌てて残りの卵焼き?を自分の口に放り込んだ。
これ以上苦行を強いるわけには行かない。
「げふっ!!!!」
砂を食べている。
そんな感じ。
「今度はもっと上手く作るから・・」
消え入りそうな声でそう言うと賢士は2度と火を使うなと怖い顔で俺を見下ろした。
最初に会った時はこの表情に反発しかなかった。
でも
今なら分かる。
賢士は俺のことを心配してるんだ。
誰かから大事にされている。
そう思うだけで自分をもっと好きになれる気がした。
賢士を好きかどうかはまだ良く分からないけど
この先誰かの側で生きるなら
賢士の側がいい
「賢士俺・・」
ピンポーン
一世一代の告白のタイミングで間の抜けた呼び出しベルの音が来客を知らせた。
賢士がインターホンのスイッチを切り替えると若い女性が立っている。
「百合」
そう呟く賢士に俺は嫌な予感がした。
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