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17.懐かしい匂い 〜春人視点〜
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なんだか……懐かしい感じがしたな。
俺は手渡された猫の肉球を模ったお菓子を見ながら麻央との待ち合わせ場所に急いでいた。
二人が一緒にピクニックするほど仲良くなってるのには驚いたけど、なんだろう。なんとも言えないけど不思議な感覚がした。
例えば何故かテーブルの上にあった猫じゃらし。
それにバスケットから匂った不思議な匂い。
それに……
俺は手元の可愛らしいお菓子を見る。
猫──か。
別に好きでも嫌いでもない。
動物自体あまり馴染みもないし。
それなのにどうして懐かしい感じがするんだろう。
……それに、二人を見た時のこの胸のキリキリした感じはなんだろう?
あの二人が何してようが、俺にはまるで関係ないことなのに。
「おはよう春人」
麻央は既に目印の石像の前に立っていた。俺は慌てて彼女に駆け寄る。
“女の子を待たせちゃいけない。”恋愛のノウハウを記したマニュアルにはそう書いてあった。
他にも“服装やメイク、髪型を褒める”とか“店に入る時はドアを開ける”とか。
覚えることが沢山あって大変だ。
「おはよう。待たせてごめん」
「全然待ってないよ。春人も時間より早かったし」
そうだ、俺が先に着こうと思って早めに出たのに途中あの二人に捕まってしまったのだ。
「……?どうしてお菓子を持ってるの?」
「ああ、さっきケイとタケルに会って貰った」
「え?偶然ね」
「ああ、公園でピクニックしてた」
「へえ……?」
麻央が目を丸くしてる。そりゃそうだろう。俺だって最初見た時は信じられなかった。それほどに本格的なピクニックだったのだ。
「じゃあ行こうか」
麻央はいつものようににっこりと笑って先に立って歩き出す。
あっ!褒めなきゃ!
俺は慌てて後を追い、今日のおしゃれのポイントを探った。
「イヤリング可愛いな、新しく買ったの?」
「ありがとう……えっといつも付けてるやつかな?でもお気に入りだからそう言って貰えて嬉しい」
しまった。
「春人は前髪切った?よく似合ってるよ」
「……ありがとう」
また遅れをとってしまった。
俺はいつもこうだ。
「もうすぐバイトでしょ?あんまり時間がないからカフェでお茶でも飲もうか」
「そうだな」
麻央は優しい。
初めて会った時もそうだった。
友達も多い麻央はもう覚えてはないだろうけど。
あれは入学式の日だった。
人見知りする俺は学校に近づくにつれて気分が悪くなってしまった。両親は仕事で来られないと言ってたし、校門から先に進めない俺は、ふらふらと人気のないところを探していた。
その時、声をかけてくれたのが麻央だったのだ。
「大丈夫?」
「……」
返事するのもつらい。それに知らない人に話しかけられるのも嫌だ。
「……問題ない」
俺の返事が素っ気なかったからか、麻央はそのままいなくなってしまった。
……いっそ休んでしまおうか。
そんな考えが頭をよぎる。
「どっか……暗くて狭いとこ……」
そう思って足を止めたとき、後ろに人影を感じた。
「ここにいたんだ!」
顔を上げると、さっき去っていったはずの麻央が戻ってきていた。
手にペットボトルを持っていて、それを俺に差し出す。
「温かいお茶。ちょっと飲んで落ち着けるといいけど」
「……どうして」
「だって、気分悪そうだったから」
麻央は軽く笑った。押しつけがましさがなくて、ただ自然に優しい。
そんなふうに声をかけられたのは、生まれて初めてのことのように感じた。
──俺は子供の頃から、人とうまく関われなかった。
人の顔色を読むのも、空気に合わせて話すのも苦手だ。
そのうち周りから距離を置かれ、友達の親から嫌われて一人でいることが多くなった。中学になれば変われると思っていたのに、何も変わらない。努力するほど空回りをして周りに誤解される。
そうしてむしろ歳を重ねるほど「自分は人と違う」って思う場面が増えていった。
もしかしたら、俺は何か病気なんじゃないだろうか。
発達障害とか……よく聞くああいうやつ。勉強は人並み以上に出来るし、誰かに診断されたわけじゃない。
でも「他の人にはできて、自分にはできないこと」が多すぎて、そう疑わずにはいられなかった。
普通の人にならなきゃ。
そうすれば両親から困惑の目を向けられ腫れ物に触るような扱いをされることもないんだから。
「春人?どうかした?」
麻央の声にふと我に返る。
そうだ今はデートの最中だった。
「あのカフェでいい?ティーラテが話題なの」
「うん」
俺は見よう見まねで麻央と同じように笑って見せた。
俺は手渡された猫の肉球を模ったお菓子を見ながら麻央との待ち合わせ場所に急いでいた。
二人が一緒にピクニックするほど仲良くなってるのには驚いたけど、なんだろう。なんとも言えないけど不思議な感覚がした。
例えば何故かテーブルの上にあった猫じゃらし。
それにバスケットから匂った不思議な匂い。
それに……
俺は手元の可愛らしいお菓子を見る。
猫──か。
別に好きでも嫌いでもない。
動物自体あまり馴染みもないし。
それなのにどうして懐かしい感じがするんだろう。
……それに、二人を見た時のこの胸のキリキリした感じはなんだろう?
あの二人が何してようが、俺にはまるで関係ないことなのに。
「おはよう春人」
麻央は既に目印の石像の前に立っていた。俺は慌てて彼女に駆け寄る。
“女の子を待たせちゃいけない。”恋愛のノウハウを記したマニュアルにはそう書いてあった。
他にも“服装やメイク、髪型を褒める”とか“店に入る時はドアを開ける”とか。
覚えることが沢山あって大変だ。
「おはよう。待たせてごめん」
「全然待ってないよ。春人も時間より早かったし」
そうだ、俺が先に着こうと思って早めに出たのに途中あの二人に捕まってしまったのだ。
「……?どうしてお菓子を持ってるの?」
「ああ、さっきケイとタケルに会って貰った」
「え?偶然ね」
「ああ、公園でピクニックしてた」
「へえ……?」
麻央が目を丸くしてる。そりゃそうだろう。俺だって最初見た時は信じられなかった。それほどに本格的なピクニックだったのだ。
「じゃあ行こうか」
麻央はいつものようににっこりと笑って先に立って歩き出す。
あっ!褒めなきゃ!
俺は慌てて後を追い、今日のおしゃれのポイントを探った。
「イヤリング可愛いな、新しく買ったの?」
「ありがとう……えっといつも付けてるやつかな?でもお気に入りだからそう言って貰えて嬉しい」
しまった。
「春人は前髪切った?よく似合ってるよ」
「……ありがとう」
また遅れをとってしまった。
俺はいつもこうだ。
「もうすぐバイトでしょ?あんまり時間がないからカフェでお茶でも飲もうか」
「そうだな」
麻央は優しい。
初めて会った時もそうだった。
友達も多い麻央はもう覚えてはないだろうけど。
あれは入学式の日だった。
人見知りする俺は学校に近づくにつれて気分が悪くなってしまった。両親は仕事で来られないと言ってたし、校門から先に進めない俺は、ふらふらと人気のないところを探していた。
その時、声をかけてくれたのが麻央だったのだ。
「大丈夫?」
「……」
返事するのもつらい。それに知らない人に話しかけられるのも嫌だ。
「……問題ない」
俺の返事が素っ気なかったからか、麻央はそのままいなくなってしまった。
……いっそ休んでしまおうか。
そんな考えが頭をよぎる。
「どっか……暗くて狭いとこ……」
そう思って足を止めたとき、後ろに人影を感じた。
「ここにいたんだ!」
顔を上げると、さっき去っていったはずの麻央が戻ってきていた。
手にペットボトルを持っていて、それを俺に差し出す。
「温かいお茶。ちょっと飲んで落ち着けるといいけど」
「……どうして」
「だって、気分悪そうだったから」
麻央は軽く笑った。押しつけがましさがなくて、ただ自然に優しい。
そんなふうに声をかけられたのは、生まれて初めてのことのように感じた。
──俺は子供の頃から、人とうまく関われなかった。
人の顔色を読むのも、空気に合わせて話すのも苦手だ。
そのうち周りから距離を置かれ、友達の親から嫌われて一人でいることが多くなった。中学になれば変われると思っていたのに、何も変わらない。努力するほど空回りをして周りに誤解される。
そうしてむしろ歳を重ねるほど「自分は人と違う」って思う場面が増えていった。
もしかしたら、俺は何か病気なんじゃないだろうか。
発達障害とか……よく聞くああいうやつ。勉強は人並み以上に出来るし、誰かに診断されたわけじゃない。
でも「他の人にはできて、自分にはできないこと」が多すぎて、そう疑わずにはいられなかった。
普通の人にならなきゃ。
そうすれば両親から困惑の目を向けられ腫れ物に触るような扱いをされることもないんだから。
「春人?どうかした?」
麻央の声にふと我に返る。
そうだ今はデートの最中だった。
「あのカフェでいい?ティーラテが話題なの」
「うん」
俺は見よう見まねで麻央と同じように笑って見せた。
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