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18.春人のバイト
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それからしばらくの間、クラスの皆は合唱コンクールの練習に大忙しだった。
何しろ偏屈で有名な音楽の土居先生が、春人の歌声に本気になってしまったのだ。
もう誰も彼のことを止められない。
「喉が……千切れそう」
「俺も……多分明日は声出ない」
「何を言ってる。まだまだだ」
「「「えーーーー」」」
金曜日の放課後、春人のバイトが休みだからと、休憩なしのぶっ通しで皆を歌わせた土居先生だがまだしっくり来ないようだ。
「うーん、よし、タケル。ちょっと裕司と場所交代して」
「えっ?!裕司はテノールのメインじゃ……」
慌てる俺に、「大丈夫だから早くしろ」と、急かす先生。……いや後悔しても知らねーよ?
「じゃあ春人に合わせて歌ってみて。春人の息継ぎのところから大きめの声で」
土居先生の指示に俺は渋々と声を張り上げた。
だが、その瞬間……。
「やめて!」
「背中がゾワゾワした!」
「タケル!破壊力やばい!」
「おい、みんな失礼だな」
本当に失礼だと思う。思うけど、否定も出来ない。なんせ俺は筋金入りの音痴だ。
「タケル……なんだその犬がワンワン吠えてるみたいな歌い方は」
ひどい!
「ぶふっ!!」
「おい!ケイ!そこで吹き出すんじゃねーよ!」
「わりー。けど表現が的確だなあと思って」
「くそっ!」
分かってる。だから普段はなるべく歌わないし、今回だって小声で参加してる。
昔から声はいいと言われるのだが、いかんせん音程がうまく取れないのだ。
「だが、春人の高音とは凄く相性のいい声なんだ。個別特訓するか」
「……先生、それなら他の人に変えてくださいよ。俺の音痴は治る気がしません」
「諦めるな!一生音痴でいいのか!この音痴めが!」
音痴音痴うるさいです先生……。
それより土居先生はクールキャラだったのにやっぱり大葉先生に感化されちゃったのかな。学内に二人も熱血キャラいたら校内の温暖化が進むからやめてほしいんだけど。
「さあ始めるぞ。ピアノ弾くからそれに合わせて歌ってみろ。春人もな。チューリップ分かるな?」
「チューリップ?」
ああ、あの“咲いた咲いた”言うヤツか。懐かしいな。
土居先生の指が鍵盤を弾き出した。なんとなく本格的に聞こえるんだが、やはり才能があるとチューリップ如きでも差が出るんだろうか。
「~🎵」
先生の合図で春人が歌い始めた。
その後を追うように俺も一緒に声を出す。
あ、歌いやすい。
これならそんなに音程外さないで歌えそう。
いい気分で短い一曲を歌い終える。
……だが、誰も声を発しない。
「なに?やっぱ駄目だったか?」
「いや、最高だよ」
「は?」
「うん!春人の声と凄く合ってた!」
「二人で一つって感じ!」
「かっこよかったよ!」
皆が口々にそう言うので、俺は照れ臭くなって春人を見た。
……まあ、安定の無表情だけどな。
「よし!これでいく。春人のソロのあと、タケルが入って二重唱だ。俺も時間のある時は指導するから自分でも練習するんだぞ」
「……はい」
不安はある。けれど、さっき春人と声を合わせた時、凄く懐かしかった。
猫の春人が夜空に向かって高い声で鳴いてる時に俺も一緒に遠吠えしたのを思い出したんだ。
うるさいって春人には怒られたけど、楽しかったんだよなあ……。
まさか今世でもこんな風に一緒に歌うことが出来るなんて。
……まあ春人は何も覚えちゃいないんだけど。
◇◇◆◆◇◇
コンクールまで日がないと言うことで、翌日から俺たちは早速練習を始めた。
最初は「バイトだから」と渋っていた春人も、ケイの「指導係としてバイトしてくれ報酬は出す」という言葉にすんなり首を縦に振る。
もちろん俺も小遣いから幾らか支払ったが、その分、ケイは毎日のように差し入れをくれるので、彼にはすっかり甘えっぱなしだ。
「ケイってお母さんみたいだよな」
「え?……お父さんでもなく?」
ケイがショックを受けている。
けれど、困ってる人を放って置けないという彼の性質は母性以外の何者でもない。
「めちゃくちゃ優しいし力貸してくれるじゃん。俺の母さんより母親っぽいと思う」
「……褒め言葉として貰っとくけど。まあ確かに自覚はある。……俺、以前春人のこと好きだって言ってたじゃん?」
トイレに行った春人がまだ戻ってないのを確認し、ケイが続ける。
「今から思うと、あいつの彼氏って立場になったら堂々と援助出来るんじゃないかって思ったのかもしれない」
「……お前、流石にそこまでいくと引くわ」
「そうだよな。面倒見はいい方だと思うけど、春人は特にほっとけない。っていうか危なっかしいんだよ、あいつ」
「なんで?」
「春人って中学から近所のちょっとした手伝いなんかで小遣い貰ってたらしくてさ、それを知った上級生が春人を厄介なもんのパシリにしようとしててな」
「はあ?!厄介なもんってなんだよ」
「薬とか?テスト前に出回ってんだよ。目が覚める奴」
「……そんな」
「だから手を回して今のバーガー屋のバイト紹介したんだよ」
「それはグッジョブだ」
なんの薬かは分からないが、見つかればタダでは済まないだろう。だが、春人なら簡単に引き受けてしまいそうで怖い。
けど……。
……そこまでして金を稼ぐ理由は一体何なんだろう?
何しろ偏屈で有名な音楽の土居先生が、春人の歌声に本気になってしまったのだ。
もう誰も彼のことを止められない。
「喉が……千切れそう」
「俺も……多分明日は声出ない」
「何を言ってる。まだまだだ」
「「「えーーーー」」」
金曜日の放課後、春人のバイトが休みだからと、休憩なしのぶっ通しで皆を歌わせた土居先生だがまだしっくり来ないようだ。
「うーん、よし、タケル。ちょっと裕司と場所交代して」
「えっ?!裕司はテノールのメインじゃ……」
慌てる俺に、「大丈夫だから早くしろ」と、急かす先生。……いや後悔しても知らねーよ?
「じゃあ春人に合わせて歌ってみて。春人の息継ぎのところから大きめの声で」
土居先生の指示に俺は渋々と声を張り上げた。
だが、その瞬間……。
「やめて!」
「背中がゾワゾワした!」
「タケル!破壊力やばい!」
「おい、みんな失礼だな」
本当に失礼だと思う。思うけど、否定も出来ない。なんせ俺は筋金入りの音痴だ。
「タケル……なんだその犬がワンワン吠えてるみたいな歌い方は」
ひどい!
「ぶふっ!!」
「おい!ケイ!そこで吹き出すんじゃねーよ!」
「わりー。けど表現が的確だなあと思って」
「くそっ!」
分かってる。だから普段はなるべく歌わないし、今回だって小声で参加してる。
昔から声はいいと言われるのだが、いかんせん音程がうまく取れないのだ。
「だが、春人の高音とは凄く相性のいい声なんだ。個別特訓するか」
「……先生、それなら他の人に変えてくださいよ。俺の音痴は治る気がしません」
「諦めるな!一生音痴でいいのか!この音痴めが!」
音痴音痴うるさいです先生……。
それより土居先生はクールキャラだったのにやっぱり大葉先生に感化されちゃったのかな。学内に二人も熱血キャラいたら校内の温暖化が進むからやめてほしいんだけど。
「さあ始めるぞ。ピアノ弾くからそれに合わせて歌ってみろ。春人もな。チューリップ分かるな?」
「チューリップ?」
ああ、あの“咲いた咲いた”言うヤツか。懐かしいな。
土居先生の指が鍵盤を弾き出した。なんとなく本格的に聞こえるんだが、やはり才能があるとチューリップ如きでも差が出るんだろうか。
「~🎵」
先生の合図で春人が歌い始めた。
その後を追うように俺も一緒に声を出す。
あ、歌いやすい。
これならそんなに音程外さないで歌えそう。
いい気分で短い一曲を歌い終える。
……だが、誰も声を発しない。
「なに?やっぱ駄目だったか?」
「いや、最高だよ」
「は?」
「うん!春人の声と凄く合ってた!」
「二人で一つって感じ!」
「かっこよかったよ!」
皆が口々にそう言うので、俺は照れ臭くなって春人を見た。
……まあ、安定の無表情だけどな。
「よし!これでいく。春人のソロのあと、タケルが入って二重唱だ。俺も時間のある時は指導するから自分でも練習するんだぞ」
「……はい」
不安はある。けれど、さっき春人と声を合わせた時、凄く懐かしかった。
猫の春人が夜空に向かって高い声で鳴いてる時に俺も一緒に遠吠えしたのを思い出したんだ。
うるさいって春人には怒られたけど、楽しかったんだよなあ……。
まさか今世でもこんな風に一緒に歌うことが出来るなんて。
……まあ春人は何も覚えちゃいないんだけど。
◇◇◆◆◇◇
コンクールまで日がないと言うことで、翌日から俺たちは早速練習を始めた。
最初は「バイトだから」と渋っていた春人も、ケイの「指導係としてバイトしてくれ報酬は出す」という言葉にすんなり首を縦に振る。
もちろん俺も小遣いから幾らか支払ったが、その分、ケイは毎日のように差し入れをくれるので、彼にはすっかり甘えっぱなしだ。
「ケイってお母さんみたいだよな」
「え?……お父さんでもなく?」
ケイがショックを受けている。
けれど、困ってる人を放って置けないという彼の性質は母性以外の何者でもない。
「めちゃくちゃ優しいし力貸してくれるじゃん。俺の母さんより母親っぽいと思う」
「……褒め言葉として貰っとくけど。まあ確かに自覚はある。……俺、以前春人のこと好きだって言ってたじゃん?」
トイレに行った春人がまだ戻ってないのを確認し、ケイが続ける。
「今から思うと、あいつの彼氏って立場になったら堂々と援助出来るんじゃないかって思ったのかもしれない」
「……お前、流石にそこまでいくと引くわ」
「そうだよな。面倒見はいい方だと思うけど、春人は特にほっとけない。っていうか危なっかしいんだよ、あいつ」
「なんで?」
「春人って中学から近所のちょっとした手伝いなんかで小遣い貰ってたらしくてさ、それを知った上級生が春人を厄介なもんのパシリにしようとしててな」
「はあ?!厄介なもんってなんだよ」
「薬とか?テスト前に出回ってんだよ。目が覚める奴」
「……そんな」
「だから手を回して今のバーガー屋のバイト紹介したんだよ」
「それはグッジョブだ」
なんの薬かは分からないが、見つかればタダでは済まないだろう。だが、春人なら簡単に引き受けてしまいそうで怖い。
けど……。
……そこまでして金を稼ぐ理由は一体何なんだろう?
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