【完結】前世は犬と猫! 〜二度目の恋のやり直し〜

ivy

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19.合唱コンクールの日

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そうしているうちに、遠くからペタペタとスリッパの音が聞こえてきた。

「あ、春人だ」

「え?なんで分かんの」

「スリッパの音かな」

俺は廊下を指差した。

「え?え?何も聞こえないんだけど。やっぱ犬の名残?」

「どうだろう。てか、ケイ割と鼻も耳も目も悪いよな」

「くそっ!俺が普通なんだよ!まあ目は悪いけど」


「……待たせたな。再開するか」

音楽室に戻ってきた春人は、ボソボソとそう言いながら俺たちを見た。
……何だろう?ちょっと機嫌が悪い?見えないはずの背中の毛が逆立ってる気がする。

「じゃあ俺はもう帰るな。お先」

「ああ、気をつけてな」

「おう!頑張れよー」

ケイが手を振って帰ってしまうと、音楽室はシンと静まり返った。

「じゃあもっかい通しで最初からやるか」

「……ああ」

俺の言葉に、春人はのろのろと立ち上がる。……やっぱり何かおかしいな。

「春人、どうかしたか?何かあった?」

「……なんもねぇ」

「そうか……」

なんだこの重苦しい空気。練習どころの話じゃねーぞ??
なんか話題……そうだ!せっかくだからあの件を……。

「あーなあ春人、ちょっと聞いてもいい?」

「なに」

「春人ってさ、何でそんなにバイトばっかりしてんの?なんか欲しいもんあんの?それか旅行行きたいとか?」

「……別に」

別に?おいおい一瞬で話終わらせんなよ。

「でもさー春人すっげー働いてんじゃん?だからさ……」

「……」

あれ?これ聞いたらダメなやつだった?えーっとどうしよう。

「……よし!そろそろ練習すっか!」

「…………だろ」

「え?」

「金がないと大事なもん守れねーだろ」

「……?大事なもん?」

「練習始めんぞ。二時間分の時給貰ってるからな」

「あ、うん」

金がないと守れない大事なもの?……それはもしかして麻央との将来のためとか?
そんなん早過ぎんだろ。けど、真面目な春人らしい……。
……手にすらしてなかった物なのに、更に遠くに感じる。

春人はそれ以上何も言わない。
だから俺もそれ以上何も聞かなかった。


◇◇◆◆◇◇


それから一週間後、合唱コンクールに参加するために、俺たちは皆で予選会場に向かった。そこには沢山の学生たちがいて、初参加の俺たちはかなり圧倒された。

「あー緊張するね!」
「割と強豪校が来てんな」
「会場寒くない?!口がかじかんじゃう!」

口々に弱音や感想を口にしながら、大葉先生と土居先生に連れられて待機の部屋まで辿り着く。

「コーラス部でもない君たちがここまで仕上げたんだから大したものだ。ダメで元々!リラックスして頑張ってこい!」

土居先生の言葉に大葉先生が涙ぐんで頷いている。更に暑苦しいクラスになっちゃったな。

「タケル頑張れよ!」

ケイの言葉に思わず「いや、お前も頑張れよ!」とつっこんでいると、春人が俺の方に向かって歩いて来るのが見えた。

「……あれ?春人大丈夫か?なんかフラフラしてる?」

「……ほんとだな」

しかも手が震えてるし。

「春人、具合悪いのか?」

「……具合は悪くない……でも俺、ダメかもしれん」

「え?!なにが……」

「人……多くて……」

「あー……」

猫の時も春人は極端に怖がりだった。
知らない人が来ると寝ている俺の腹毛に潜り込んで隠れるくらいに。
そりゃこんなに他校の生徒や観客がいるんだもん。怖いよなあ。

「大丈夫」

俺は自分の大きな体でぎゅっと春人を包み込んだ。

「なんもいない。なんも怖くないからな」

「タケル……」

「このまま舞台までいこ。そんで舞台ついたら目を瞑ってろ。俺がちゃんと定位置に立たせてやるから」

「……分かった」

少しずつ体の震えがおさまり、冷たかった手にも熱が戻ってきた。

もう大丈夫だ。

「さあ!出番だそ」

「「「はい!!!」」」

先生の声を合図に、俺たちは揃って舞台を目指した。





◇◇◆◆◇◇


その夜は、近所のファミレスでお疲れ様会が開かれた。
緊張から解放された皆は思い思いに好きなものを頼んで談笑している。

「いや、それにしても惜しかったな」

大葉先生の言葉に、土居先生が悔しそうな顔をした。目の前のサンドイッチはさっきから一向に減っていない。

「まあ初出場で勝手も分からなかったし、仕方ないですよね」

三位とはほんの僅差だった。
ほんの一点、それで銅賞を逃したのだ。

「それにしても春人とタケルのハモリ凄かったわ!鳥肌立ったもん」

「それな!すっげー練習してると思ってたけどあんな技を身につけるなんてタケルもやるなあ」

クラスメイトの賞賛に俺は「だろ?」と笑ってやったが、あのハモリはわざとじゃない。ただ、俺の音程が外れただけだ。

「まあ結果オーライってことで」

側にいて事情を把握している春人とケイ、それに麻央が黙って頷いた。

「……タケル、ありがとう」

お?!春人のお礼とか超レアじゃん!
俺はドリアを掬う手を止めた。

「お前がいなかったら逃げ出してた」

「いやいや、春人はやれる子だよ。自分で気付いてないだけで何でも出来るから試してみ?」

猫の時も、ここぞという時は踏ん張って敵を威嚇し、蹴散らしていた。
俺たちのテリトリーを守るために猫の天敵のカラスとだって互角に戦った事もある。

「……うん、やって良かった。声、張り上げた時、すげー気持ちよかった」

「だろーーー?あれだけの会場で歌えるなんて滅多に無いもんな」

そう言ってふと視線を上げると、春人が見た事もないような顔をしていた。なんて言うか……その……ちょっとほっぺたをピンクにして目なんか潤ませちゃってすっごく可愛い!!

「……それにさ、ソロを歌い出してお前の声が重なった時、なんか凄く懐かしい……?みたいな変な感じがして……」

「……春人!」

「……え?」

麻央がテーブルの上にあった紙ナプキンを慌てて春人に渡した。……だって春人の目から涙がポロポロと溢れ出していたから。

「……なんだろ。別に悲しくも何ともねーのに涙止まんねぇ」

ゴシゴシと乱暴に拳で涙を拭う春人。それを見て俺もつられて泣きそうになった。

……そうだよ、昔はそうやって二人で揃って鳴いてたんだ。おばあさんに「あんたたち今夜も歌ってるのかい?」って笑われてたんだよ。

思い出して欲しいと思うのは俺のエゴだろうか。
俺たちのことを。
あの楽しいばっかりの毎日を……。
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