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29.懐かしい家
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その後、ぶらぶらと表札を見ながら歩いていた俺たちは、結局、街の周辺を一周して元の公園に戻ってきてしまった。
「やっぱり、もう残ってないのかな。二人とも、記憶に引っかかるような場所はなかった?」
「うーん、住宅街ってどこも似たような感じだし……若原なんて表札、見つからなかったよ」
「回ってみれば、手がかりの一つくらいはつかめると思ったけど……そんな甘くなかったな。──いや、ちょっと待って」
ケイが眺めていたスマホで何かを操作しながら方角を確認する。そして、俺たちに向き直り、短く告げた。
「こっちだ」
導かれるままに十五分ほど歩くと、やや古びた家々が並ぶ、どこか懐かしい雰囲気の一角にたどり着いた。さっきまでの新しい住宅地とは明らかに違う。
「この先に、小さな公園があるみたいだ」
「公園?」
そう聞き返した俺たちの前に現れたのは、草が生い茂る空き地だった。遊具もベンチも見当たらず、まるでただの原っぱのようだ。
「これが……公園?」
「地図上ではそうなってる」
ケイがスマホを見せる。たしかに、公園と記されている。
そのとき、春人がピクリと耳を動かし、じっと前を見つめた。そして何も言わず、草をサクサクとかき分けて奥へと進んでいく。
「おい、春人?危ないって、それに虫も──いや、お前、虫はむしろ好きだったか」
「ダジャレ?それとも皮肉?黙ってろ」
「……はい」
春人は草むらの奥、一番端まで進むと、何かを覗き込むように腰を屈めた。
「小さな川が流れてる。この音……婆さんの家にいた時に、いつも聞こえてた」
耳をすませば、確かに、かすかに水のせせらぎが聞こえる。おばあさんと住んでた時、俺はそんな音に気付かなかったんだが……。さすが猫の聴力。
「この近くに、若原って家があると情報をもらったんだ」
「えっ、マジで?!」
「でも正確な場所は分からない。ただ、このあたりだっていうのは間違いない」
「よし、歩いてみよう。たぶんもう少し離れたところだと思う」
「なんで分かる?」
「川の音の聞こえ方だよ。春人に聞こえて俺に聞こえなかったってことは、もう少し距離があるってことだと思う」
なるほど、という顔をした春人に頷き返し、俺たちは再び探索を再開した。さっきの公園を中心に、狭い路地を抜けたり、角を曲がったりしながら周辺をさまよい歩く。
──そして。
「「あっ!」」
ある場所にたどり着いた瞬間、俺と春人が同時に声を上げた。
古びた塀と、見覚えのある鉄柵。間違いない。ここだ。見慣れた、懐かしい、あのおばあさんの家だ!
「ケイ!ここだ!見つけた!」
「……え、ここ……?」
ケイが戸惑うのも無理はない。そこは、人の気配がまるでなく、今にも崩れそうな廃墟と化していたからだ。
「……婆さん……」
春人が、ぽつりと呟いた。その声に胸が締めつけられる。春人も、おばあさんのことが大好きだったのだ。
「……どこかの施設に入ってるのかもな」
「会えるかもしれないよな」
ただ、実際に再会できたとしても「お久しぶりです、犬と猫です!」なんて言っても、信じてもらえるはずはないだろうが。
「とりあえず、近所の人にでも話が聞ければ──あっ、誰か出てきた!」
玄関から出てきた女性を見つけた俺は、勢いよくダッシュして話しかけた。
「ちょっとすみません!お話いいですか──」
……あれ?なんでお姉さん、そんな怯えてるんですか?
「おい、タケル!」
後ろからケイが駆けつけてきて、俺の後ろからお姉さんに優しく声をかけた。すると、それまで怯えていた女性が、今度は頬を染めてうっとりとケイを見つめ始める。
……なにこの扱いの差。
「じゃあ、おばあちゃん呼んできますね」
女性はニコニコとした笑顔で、家の中へ戻っていった。
「くっそ……結局、顔かよ!」
「当たり前だ。お前みたいにでかい体格で突撃されたら、そりゃ誰だってビビるわ」
──酷すぎる。ケイだって俺と変わらないくらいのタッパがあるのに……あ、スラリとモデル体型だからか。くそっ!!
やがて玄関から、かなり年配の女性が現れた。俺たちのおばあさんくらいの年齢だ。
「隣の家のことが聞きたいって?」
「はい!」
「お隣さんねぇ、ずっと空き家なのよ。持ち主がどうにもできずに放置してるみたい。家も古いし、売るには上物を解体しないとダメなんだけど、そんなお金もないらしくてね」
──やっぱり、そうか。
俺たちが記憶を辿ってたどり着いたその家は、もう誰の暮らしの匂いもしない、ただの空き家になっていた。
「その持ち主はどんな人ですか?」
「やっぱり、もう残ってないのかな。二人とも、記憶に引っかかるような場所はなかった?」
「うーん、住宅街ってどこも似たような感じだし……若原なんて表札、見つからなかったよ」
「回ってみれば、手がかりの一つくらいはつかめると思ったけど……そんな甘くなかったな。──いや、ちょっと待って」
ケイが眺めていたスマホで何かを操作しながら方角を確認する。そして、俺たちに向き直り、短く告げた。
「こっちだ」
導かれるままに十五分ほど歩くと、やや古びた家々が並ぶ、どこか懐かしい雰囲気の一角にたどり着いた。さっきまでの新しい住宅地とは明らかに違う。
「この先に、小さな公園があるみたいだ」
「公園?」
そう聞き返した俺たちの前に現れたのは、草が生い茂る空き地だった。遊具もベンチも見当たらず、まるでただの原っぱのようだ。
「これが……公園?」
「地図上ではそうなってる」
ケイがスマホを見せる。たしかに、公園と記されている。
そのとき、春人がピクリと耳を動かし、じっと前を見つめた。そして何も言わず、草をサクサクとかき分けて奥へと進んでいく。
「おい、春人?危ないって、それに虫も──いや、お前、虫はむしろ好きだったか」
「ダジャレ?それとも皮肉?黙ってろ」
「……はい」
春人は草むらの奥、一番端まで進むと、何かを覗き込むように腰を屈めた。
「小さな川が流れてる。この音……婆さんの家にいた時に、いつも聞こえてた」
耳をすませば、確かに、かすかに水のせせらぎが聞こえる。おばあさんと住んでた時、俺はそんな音に気付かなかったんだが……。さすが猫の聴力。
「この近くに、若原って家があると情報をもらったんだ」
「えっ、マジで?!」
「でも正確な場所は分からない。ただ、このあたりだっていうのは間違いない」
「よし、歩いてみよう。たぶんもう少し離れたところだと思う」
「なんで分かる?」
「川の音の聞こえ方だよ。春人に聞こえて俺に聞こえなかったってことは、もう少し距離があるってことだと思う」
なるほど、という顔をした春人に頷き返し、俺たちは再び探索を再開した。さっきの公園を中心に、狭い路地を抜けたり、角を曲がったりしながら周辺をさまよい歩く。
──そして。
「「あっ!」」
ある場所にたどり着いた瞬間、俺と春人が同時に声を上げた。
古びた塀と、見覚えのある鉄柵。間違いない。ここだ。見慣れた、懐かしい、あのおばあさんの家だ!
「ケイ!ここだ!見つけた!」
「……え、ここ……?」
ケイが戸惑うのも無理はない。そこは、人の気配がまるでなく、今にも崩れそうな廃墟と化していたからだ。
「……婆さん……」
春人が、ぽつりと呟いた。その声に胸が締めつけられる。春人も、おばあさんのことが大好きだったのだ。
「……どこかの施設に入ってるのかもな」
「会えるかもしれないよな」
ただ、実際に再会できたとしても「お久しぶりです、犬と猫です!」なんて言っても、信じてもらえるはずはないだろうが。
「とりあえず、近所の人にでも話が聞ければ──あっ、誰か出てきた!」
玄関から出てきた女性を見つけた俺は、勢いよくダッシュして話しかけた。
「ちょっとすみません!お話いいですか──」
……あれ?なんでお姉さん、そんな怯えてるんですか?
「おい、タケル!」
後ろからケイが駆けつけてきて、俺の後ろからお姉さんに優しく声をかけた。すると、それまで怯えていた女性が、今度は頬を染めてうっとりとケイを見つめ始める。
……なにこの扱いの差。
「じゃあ、おばあちゃん呼んできますね」
女性はニコニコとした笑顔で、家の中へ戻っていった。
「くっそ……結局、顔かよ!」
「当たり前だ。お前みたいにでかい体格で突撃されたら、そりゃ誰だってビビるわ」
──酷すぎる。ケイだって俺と変わらないくらいのタッパがあるのに……あ、スラリとモデル体型だからか。くそっ!!
やがて玄関から、かなり年配の女性が現れた。俺たちのおばあさんくらいの年齢だ。
「隣の家のことが聞きたいって?」
「はい!」
「お隣さんねぇ、ずっと空き家なのよ。持ち主がどうにもできずに放置してるみたい。家も古いし、売るには上物を解体しないとダメなんだけど、そんなお金もないらしくてね」
──やっぱり、そうか。
俺たちが記憶を辿ってたどり着いたその家は、もう誰の暮らしの匂いもしない、ただの空き家になっていた。
「その持ち主はどんな人ですか?」
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