27 / 32
28.おばあさんを探せ
しおりを挟む
三日後。
ようやく春人が登校してきた。
例の誘拐未遂事件はテレビのニュースで報じられたこともあり、校内でも瞬く間に知れ渡っていた。おかげで春人は一躍、“時の人”扱いだ。
「怖かっただろ! 体のほうは、もう大丈夫か?!」
「痩せたんじゃない? パンあげよっか?」
クラスメートたちが一斉に春人を囲み、思い思いの言葉をかけていく。
……が、肝心の本人はというと、早々に机に突っ伏し、寝る体勢に入っていた。
「ほんと、マイペースすぎだろ……」
ケイが呆れ気味に言えば、隣にいた麻央が楽しげに吹き出す。
「それが春人でしょ。みんなもそれを分かってるから、受け入れてくれてるのよ」
確かに。
あんなに無愛想で、人付き合いなんてまるで苦手な春人なのに、クラスの誰もそれを責めたりしない。むしろ気にかけて、面倒を見ようとさえしている。
「……いい仲間に巡り会えたな」
──ちょっと、妬けるけどな。
「じゃあ私、日直だから次の授業の準備してくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
麻央が教室を出ていったのを見送ると、ケイが俺に向かって声を潜めた。
「あれから、ちゃんと話はできたのか?」
「ああ。ケイのおかげだよ。いろいろ、本当にありがとう」
「何言ってんだよ、友達だろ。──でも、よかったな」
「……うん」
本当に、ケイには助けられた。
辛いとき、そばにいてくれる存在が、こんなに頼もしいものだなんて──昔の俺は、知らなかった。
「……タケル」
「うわっ!? お、お前寝てたんじゃ……!」
声をかけられて驚いた俺は、あやうく『キャン!』と鳴きそうになった。しかも、条件反射で足の間に“尻尾”を巻き込みそうになったし……いや、感覚的な話だけど。
そんな俺を無視して、春人は無言でスマホを差し出してくる。
「忘れちゃいけないと思って……先に」
「ん?」
画面を覗き込むと、公園周辺の地図が表示されていた。
そして、所々に赤いバツ印が描き込まれている。
「……これ、なに?」
「調べられたところだけ印つけといた。ここは若原じゃなかった」
「えっ? まさか……退院したばっかだろ?」
「……夜中。眠れなかったから」
「お前な……」
こんなの調べる前に、まず“病み上がり”って言葉の意味を辞書で引いてくれ。
「ん? なんだ、今度は人探しか?」
ケイがひょいっとスマホを覗き込んできた。
「ああ、昔俺たちが住んでた家を探しててるんだ。犬と猫だったころの……だけど」
「なるほど。それが“若原”って家か。──手伝おうか?」
「いいのか?」
ケイが加わってくれるなら、百人力だ。
こいつは頭がキレるし、情報収集にも強いし、ついでに顔も広い。
「……でも、春人が嫌がらないか?」
そう言ってケイがちょっと意地の悪そうな顔で、俺の隣にいる春人を見やった。
「……別に、嫌じゃねーし」
「ほんとかよ?」
「そう言ってるだろ」
むくれたように唇を尖らせる春人。……おや? もしかして、この二人の間に何かあった?
「妬いてんだよねー?」
「はあ? 妬いてなんかねーし!!」
春人が珍しく声を荒げる。
──妬きもち? 春人が? まさか俺に?
「いやどう見ても妬いてるだろ。今にも煙出そう」
「うるさい!……来るなら勝手にくっついてこいよ!」
ぷいっと顔を背けて、足早に自分の席へ戻った春人は、そのままふて寝モードに突入した。
なんだよ……ほんと可愛いな。
そういや、昔──おばあさんの膝で俺が眠ってたとき、春人によく噛みつかれたっけ。
あれって、独占欲……だったのか?
「ほんと、からかいがいがあるなー」
「まあ、ほどほどにしとけよ。……春人、ケイのことは好きだし、信頼もしてると思うし」
「……そうか。……そうだと、いいな」
ケイは少し表情を和らげて、ふっと笑った。
「じゃあ、頼れるご案内役として頑張りますか。俺のタブレットと情報網が、今こそ火を吹くとき!」
「……ダサ……」
「なんだと? これは神アニメでヒーローが言ってたセリフだぞ!」
なにを参考にしてるんだか……。
「まあ、そこも含めて頼れるってことで」
俺がそう返すと、ケイはモデル顔負けのスマイルで親指を立ててみせた。
「じゃあ、放課後に集合な。それまでに、情報かき集めておくから」
「うん。ありがとな」
──そのタイミングで、チャイムが鳴った。
俺たちはそれぞれの席に戻り、次の授業に備えることにした。
ようやく春人が登校してきた。
例の誘拐未遂事件はテレビのニュースで報じられたこともあり、校内でも瞬く間に知れ渡っていた。おかげで春人は一躍、“時の人”扱いだ。
「怖かっただろ! 体のほうは、もう大丈夫か?!」
「痩せたんじゃない? パンあげよっか?」
クラスメートたちが一斉に春人を囲み、思い思いの言葉をかけていく。
……が、肝心の本人はというと、早々に机に突っ伏し、寝る体勢に入っていた。
「ほんと、マイペースすぎだろ……」
ケイが呆れ気味に言えば、隣にいた麻央が楽しげに吹き出す。
「それが春人でしょ。みんなもそれを分かってるから、受け入れてくれてるのよ」
確かに。
あんなに無愛想で、人付き合いなんてまるで苦手な春人なのに、クラスの誰もそれを責めたりしない。むしろ気にかけて、面倒を見ようとさえしている。
「……いい仲間に巡り会えたな」
──ちょっと、妬けるけどな。
「じゃあ私、日直だから次の授業の準備してくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
麻央が教室を出ていったのを見送ると、ケイが俺に向かって声を潜めた。
「あれから、ちゃんと話はできたのか?」
「ああ。ケイのおかげだよ。いろいろ、本当にありがとう」
「何言ってんだよ、友達だろ。──でも、よかったな」
「……うん」
本当に、ケイには助けられた。
辛いとき、そばにいてくれる存在が、こんなに頼もしいものだなんて──昔の俺は、知らなかった。
「……タケル」
「うわっ!? お、お前寝てたんじゃ……!」
声をかけられて驚いた俺は、あやうく『キャン!』と鳴きそうになった。しかも、条件反射で足の間に“尻尾”を巻き込みそうになったし……いや、感覚的な話だけど。
そんな俺を無視して、春人は無言でスマホを差し出してくる。
「忘れちゃいけないと思って……先に」
「ん?」
画面を覗き込むと、公園周辺の地図が表示されていた。
そして、所々に赤いバツ印が描き込まれている。
「……これ、なに?」
「調べられたところだけ印つけといた。ここは若原じゃなかった」
「えっ? まさか……退院したばっかだろ?」
「……夜中。眠れなかったから」
「お前な……」
こんなの調べる前に、まず“病み上がり”って言葉の意味を辞書で引いてくれ。
「ん? なんだ、今度は人探しか?」
ケイがひょいっとスマホを覗き込んできた。
「ああ、昔俺たちが住んでた家を探しててるんだ。犬と猫だったころの……だけど」
「なるほど。それが“若原”って家か。──手伝おうか?」
「いいのか?」
ケイが加わってくれるなら、百人力だ。
こいつは頭がキレるし、情報収集にも強いし、ついでに顔も広い。
「……でも、春人が嫌がらないか?」
そう言ってケイがちょっと意地の悪そうな顔で、俺の隣にいる春人を見やった。
「……別に、嫌じゃねーし」
「ほんとかよ?」
「そう言ってるだろ」
むくれたように唇を尖らせる春人。……おや? もしかして、この二人の間に何かあった?
「妬いてんだよねー?」
「はあ? 妬いてなんかねーし!!」
春人が珍しく声を荒げる。
──妬きもち? 春人が? まさか俺に?
「いやどう見ても妬いてるだろ。今にも煙出そう」
「うるさい!……来るなら勝手にくっついてこいよ!」
ぷいっと顔を背けて、足早に自分の席へ戻った春人は、そのままふて寝モードに突入した。
なんだよ……ほんと可愛いな。
そういや、昔──おばあさんの膝で俺が眠ってたとき、春人によく噛みつかれたっけ。
あれって、独占欲……だったのか?
「ほんと、からかいがいがあるなー」
「まあ、ほどほどにしとけよ。……春人、ケイのことは好きだし、信頼もしてると思うし」
「……そうか。……そうだと、いいな」
ケイは少し表情を和らげて、ふっと笑った。
「じゃあ、頼れるご案内役として頑張りますか。俺のタブレットと情報網が、今こそ火を吹くとき!」
「……ダサ……」
「なんだと? これは神アニメでヒーローが言ってたセリフだぞ!」
なにを参考にしてるんだか……。
「まあ、そこも含めて頼れるってことで」
俺がそう返すと、ケイはモデル顔負けのスマイルで親指を立ててみせた。
「じゃあ、放課後に集合な。それまでに、情報かき集めておくから」
「うん。ありがとな」
──そのタイミングで、チャイムが鳴った。
俺たちはそれぞれの席に戻り、次の授業に備えることにした。
43
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
後宮に咲く美しき寵后
不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。
フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。
そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。
縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。
ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。
情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。
狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。
縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる