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33.やり直しの恋
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その日は朝から驚くほどの晴天だった。
卒業式。
今日、俺たちはこの学校から巣立つのだ。
「絶対同窓会やろうね!」
「約束!全員参加だからね!」
「寂しい!週一で同窓会開催してもいい?」
「いいよぉ~」
至る所で大泣きの声がする。
それほどまで仲の良いクラスだった。
俺たちも皆と別れの挨拶を交わし、それぞれ違う道を進んでいく。
当たり前だったこの光景も、もう二度と見ることはない。
「忘れんなよ!夕方ファミレスでお別れ会だからな!」
「おう!時間通りに行くよ」
俺と春人は皆に別れを告げて約束の時間まで俺たちの家で過ごすことにした。
自分の墓への墓参りもすっかり日課になってしまった。
今日も春人はドッグフードとキャットフードを墓前に備える。
……実はこっそりと近所の野良猫が後で食べに来てるんだが、無くなっていることを特に気にする様子もないので問題ないんだろう。
夕暮れの光が差し込む家で、俺たちはいつも通り片付けをしていた。
「……やっと、ここまで来たな」
俺がそう呟くと、春人は黙って頷く。
畳の張り替えも終わり、ペンキも乾いて、ようやく、ちゃんと人が住める家になっている。
あの日、壊れたままの場所ばかりだったこの家に、俺たちは少しずつ手を加えてきた。
思い出すのは、二年前のあの日。
──「俺たちさ、ここで暮らさねーか?」
春人は何も答えなかった。
ただ黙って、掃除を続けただけだった。
でも、その日から、毎週のように俺と春人はこの家で時間を過ごしてきた。
一緒に汗をかいて、一緒に笑って、時には小さな喧嘩をして。
それでも、帰る時には「またな」と自然に言える関係になっていた。
春人は、何も言わずに俺の隣にいてくれた。
それだけで、俺は十分だった。
「とうとう卒業か。実感わかねーな」
「ああ」
春人が窓の外を見ながらぽつりと呟いた。
「ずっと考えてた」
「……え?」
「麻央と付き合ってた時も、好きって感情がよくわからなくて、ただ……人と同じになりたかった」
春人の声は、いつになく静かだった。
「でも、それじゃ駄目だって思った。麻央にも悪いことしたし、自分にも嘘ついてた」
俺は何も言わずに、その言葉を待っていた。
「お前が、“いつまでも待つ”って言ってくれたの……ずっと心に残ってる。……それはその……今も有効か?」
「……ああ、もちろんだ」
俺の全身がこの先の言葉を待ちかねて、歓喜に震えた。
「……俺なりに、ずっと考えてた。お前と過ごして、こうして家を作って。……上手く言えねーな……とにかく、いつのまにかお前といるのが俺の“普通”になってたんだよ」
必死に言葉を紡ぐ横顔が、ほんの少しだけ揺れた。
「俺、怖かったんだ。男同士とか、人と違うとか、そういうの全部」
「うん分かってる」
「でも、お前と一緒なら、なんとかなる気がするんだ」
春人が、ゆっくりとこっちを向いた。
「──待たせた……な?」
その一言に、俺は何も言えなくなった。
声に出す前に、目の奥が熱くなる。
「バカ、また泣いてんのか?」
「泣いてねーよ」
「うそつけ、涙目じゃん」
「うるせぇ……お前が悪いんだろ。嬉し涙だ」
「そうなのか?」
春人が、照れたように笑った。
その笑顔が眩しくて、俺は春人をぎゅっと抱きしめる。
「えっ?!なんだよ急に」
「急じゃない。ずっとこうして抱きしめたかった」
「……うん」
春人の体からふにゃりと力が抜けた。まるで猫を抱いてるみたいだ。
「お、俺も。お前の背中みて、抱きついたらどんなだろうって……思ってた」
ボソボソとした声が耳元で響く。
俺はじっと春人の目を見つめた。
「目、閉じて」
「なんでだよ?」
「キスしたいから。いい?」
「……!!!……っ、ああ!やれよ!」
男らしくそう言った春人は、面白いくらい勢いをつけて目を閉じた。
心臓がドキドキして止まりそうだ。
少しずつ近づいて、柔らかそうな唇に自分の口を当ててみる。
マジで柔けぇ……なんだこれ。
舐めまわしたい衝動に駆られたが、「この駄犬が!」と引っかかれそうで、名残惜しい気持ちのまま、一旦離れる。
すると、恐る恐るといった様子で晴人が目を開けた。
「……終わり?」
「うん、……なんで?」
「なんかお前犬の時、もっとべろべろと……あっ!やめろ!違う!やれなんて言ってねえわ!」
もう遅い。
俺は春人を腕に抱き込んで、口の周りも全部舐めてやった。
「やめろー!!この駄犬が!!」
懐かしいそのセリフ。
俺は、お構いなしにたくさんのキスをする。
「なあ、春人。ここで一緒に暮らそうぜ」
「え?いつ?」
「明日から」
「……いいけど」
照れ隠しにちょっと不貞腐れて春人が頷いた。
またこの家で。犬と猫の時みたいに。
俺たちのやり直しの恋は、ようやく始まったばかりなのだ。
卒業式。
今日、俺たちはこの学校から巣立つのだ。
「絶対同窓会やろうね!」
「約束!全員参加だからね!」
「寂しい!週一で同窓会開催してもいい?」
「いいよぉ~」
至る所で大泣きの声がする。
それほどまで仲の良いクラスだった。
俺たちも皆と別れの挨拶を交わし、それぞれ違う道を進んでいく。
当たり前だったこの光景も、もう二度と見ることはない。
「忘れんなよ!夕方ファミレスでお別れ会だからな!」
「おう!時間通りに行くよ」
俺と春人は皆に別れを告げて約束の時間まで俺たちの家で過ごすことにした。
自分の墓への墓参りもすっかり日課になってしまった。
今日も春人はドッグフードとキャットフードを墓前に備える。
……実はこっそりと近所の野良猫が後で食べに来てるんだが、無くなっていることを特に気にする様子もないので問題ないんだろう。
夕暮れの光が差し込む家で、俺たちはいつも通り片付けをしていた。
「……やっと、ここまで来たな」
俺がそう呟くと、春人は黙って頷く。
畳の張り替えも終わり、ペンキも乾いて、ようやく、ちゃんと人が住める家になっている。
あの日、壊れたままの場所ばかりだったこの家に、俺たちは少しずつ手を加えてきた。
思い出すのは、二年前のあの日。
──「俺たちさ、ここで暮らさねーか?」
春人は何も答えなかった。
ただ黙って、掃除を続けただけだった。
でも、その日から、毎週のように俺と春人はこの家で時間を過ごしてきた。
一緒に汗をかいて、一緒に笑って、時には小さな喧嘩をして。
それでも、帰る時には「またな」と自然に言える関係になっていた。
春人は、何も言わずに俺の隣にいてくれた。
それだけで、俺は十分だった。
「とうとう卒業か。実感わかねーな」
「ああ」
春人が窓の外を見ながらぽつりと呟いた。
「ずっと考えてた」
「……え?」
「麻央と付き合ってた時も、好きって感情がよくわからなくて、ただ……人と同じになりたかった」
春人の声は、いつになく静かだった。
「でも、それじゃ駄目だって思った。麻央にも悪いことしたし、自分にも嘘ついてた」
俺は何も言わずに、その言葉を待っていた。
「お前が、“いつまでも待つ”って言ってくれたの……ずっと心に残ってる。……それはその……今も有効か?」
「……ああ、もちろんだ」
俺の全身がこの先の言葉を待ちかねて、歓喜に震えた。
「……俺なりに、ずっと考えてた。お前と過ごして、こうして家を作って。……上手く言えねーな……とにかく、いつのまにかお前といるのが俺の“普通”になってたんだよ」
必死に言葉を紡ぐ横顔が、ほんの少しだけ揺れた。
「俺、怖かったんだ。男同士とか、人と違うとか、そういうの全部」
「うん分かってる」
「でも、お前と一緒なら、なんとかなる気がするんだ」
春人が、ゆっくりとこっちを向いた。
「──待たせた……な?」
その一言に、俺は何も言えなくなった。
声に出す前に、目の奥が熱くなる。
「バカ、また泣いてんのか?」
「泣いてねーよ」
「うそつけ、涙目じゃん」
「うるせぇ……お前が悪いんだろ。嬉し涙だ」
「そうなのか?」
春人が、照れたように笑った。
その笑顔が眩しくて、俺は春人をぎゅっと抱きしめる。
「えっ?!なんだよ急に」
「急じゃない。ずっとこうして抱きしめたかった」
「……うん」
春人の体からふにゃりと力が抜けた。まるで猫を抱いてるみたいだ。
「お、俺も。お前の背中みて、抱きついたらどんなだろうって……思ってた」
ボソボソとした声が耳元で響く。
俺はじっと春人の目を見つめた。
「目、閉じて」
「なんでだよ?」
「キスしたいから。いい?」
「……!!!……っ、ああ!やれよ!」
男らしくそう言った春人は、面白いくらい勢いをつけて目を閉じた。
心臓がドキドキして止まりそうだ。
少しずつ近づいて、柔らかそうな唇に自分の口を当ててみる。
マジで柔けぇ……なんだこれ。
舐めまわしたい衝動に駆られたが、「この駄犬が!」と引っかかれそうで、名残惜しい気持ちのまま、一旦離れる。
すると、恐る恐るといった様子で晴人が目を開けた。
「……終わり?」
「うん、……なんで?」
「なんかお前犬の時、もっとべろべろと……あっ!やめろ!違う!やれなんて言ってねえわ!」
もう遅い。
俺は春人を腕に抱き込んで、口の周りも全部舐めてやった。
「やめろー!!この駄犬が!!」
懐かしいそのセリフ。
俺は、お構いなしにたくさんのキスをする。
「なあ、春人。ここで一緒に暮らそうぜ」
「え?いつ?」
「明日から」
「……いいけど」
照れ隠しにちょっと不貞腐れて春人が頷いた。
またこの家で。犬と猫の時みたいに。
俺たちのやり直しの恋は、ようやく始まったばかりなのだ。
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