【完結】前世は犬と猫! 〜二度目の恋のやり直し〜

ivy

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32.猫

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あれから二年。
週末のたびに通っては掃除や修繕を進めてきた俺たちだったが、いつの間にかケイもちょくちょく手伝いに来てくれるようになっていた。

「おーい、差し入れ持ってきたぞー!」

玄関の開く音と同時に、ケイの声が響く。

「遅ぇよ。もう午前中で床の張り替え終わったぞ」

春人が工具を片付けながら、ちょっとムッとした顔で言った。

「えー、だって道混んでたし。てか、すげぇ……マジで、ここ、人が住める家になってきてるじゃん」

「だろ? 次はペンキ塗り。お前、刷毛持てるか?」

「なめんな。俺だって図工5だったんだぞ」

「ほんと~? じゃあ外壁、任せた」

「……マジかよ。外壁とかレベチなんだけど」

ケイも加わって、家はますます生まれ変わっていく。

午後には縁側で三人並んでコンビニのおにぎりを食べながら、次の作業計画を立てていた。

「ここが完成したらさ、泊まりに来るか?」

俺がそう言うと、ケイは軽く目を細める。

「じゃあ、俺の部屋も作ってくれよな」

「何言ってんだ、お前んち豪邸だろ」

「そういうことじゃなくてさ。……なんかお前らに引っ張られてるせいか、俺もこの家が懐かしいような気がしてきたんだよな。すげー落ち着くし、もしかしたら俺の前世、おばあさんだったんじゃないかって最近思うんだよ」

その言葉に、俺は春人と顔を見合わせた。

「ワンチャンあるかも……」

「……確かに。俺の荒唐無稽な転生話を、なんの疑問も持たずに信じたしな」

「やめろよ、冗談に決まってるだろ」

ケイが慌てて声を上げた。

「いや、もしかすると……」

「だからやめろって~。まあ、変に懐かしい気持ちがするのはホントだけどな」

──もし本当にそうなら。

俺は、おばあさんを思い出していた。
ケイの優しさや、あたたかさ。それは、どこか同じ種類のものだった。

俺が死ぬ前、おばあさんは俺の毛を撫でながら、ずっと謝ってた。
もっとお金があれば、有名な病院で手術もできたろうにって。
もっと体にいいものを食べさせてあげたかったって。

──だから今世は、金持ちに生まれてきたんだな。散々徳も積んでるし。
そして、俺たちを助けてくれたんだ。

「え? いやいや、まだ言ってんの? 俺みたいなイケメンが、前世おばあさんとかあり得ないでしょ」

「あはは、まあ、それもそうか」

真実は分からない。でもそれでいいんだと思う。
ケイがおばあさんの生まれ変わりでもそうじゃなくても、俺たちは一生親友だ。

「──よし、休憩終わり! まずは風呂場、次にキッチン……今日はそのへんまでだな」

「「おう。任せろ」」

そして俺たちはいつも通りの馬鹿話をしながら、ここで時間を過ごすのだった。




◇◇◆◆◇◇


三学期も終わりが近づいたある日、お互い進路で忙しかった俺たちは、久しぶりに若原の家で作業していた。
床の補修も壁の塗装もほとんど終わり、あとは小さな装飾や、家具の入れ替えだけだ。

「ほら、そこ。斜めってんぞ」

春人がしゃがみ込みながら、棚の水平を見ている。

「わかってるよ、これでどうだ」

「……まぁ合格」

工具を片付けると、部屋の中に沈黙が落ちる。
窓からは、少し冷たい春の風。

その沈黙に、妙に心がざわつく。

「なぁ、春人」

「……ん?」

「卒業したらどうするか決めたのか?」

「……大学、行くよ。家から通えるとこ」

「そっか」

「じゃあまた一緒に居られるんだな」

……春人と一緒にいる時間が好きだ。
一緒に家を作っている間も、ケイと三人で笑っている時も。
ずっとこのままでいたい──ただ、それだけなのに、言葉にするのを躊躇われた。

「タケルは専門学校行くんだろ」

「ああ」

「そこはその……遠いのか?」

「いや、家から通える」

「……そっか」

ほんの少し、春人の声が柔らかくなった気がした。

「この家、どうする? もう完成だよな。そろそろ終わりにする?」

俺の言葉に、分かりやすく動揺した春人は、慌てて言葉を探していた。

「うん……でも、通えるし、たまに来ようぜ。掃除とか、庭の手入れとか、まだやることあるし。それに……」

「……そうだな。畳の張り替え、まだ途中だし」

「そっ、そう!まだまだ終わらない!」

その言葉に、思わず笑ってしまった。

「お前ってさ、いつも少しだけ俺を引き止めるんだよな」

「……なにそれ。言ってる意味がわかんねー」

春人はふいっと視線を逸らした。

「いや、いいよ。……その調子で、もうちょっと焦らしてくれ」

「は?」

「いや、なんでもねーって」

俺はそれ以上話さずに、廃材をまとめて庭に放り出す。

──でも、なんとなくわかった気がした。

春人はまだ答えを出せずにいる。
自分の気持ちに戸惑いながらも、それでも俺を遠ざけない。
でも、猫らしい臆病な慎重さで、少しずつ俺に近づいて来ている。

「ホント可愛い」

「ん?何か言ったか?」

「なんでもない」

どうか早く自分の気持ちに気付いて欲しい。
そう願いながら、俺は工具箱を持ち上げた。






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