上 下
27 / 316
第5章―死と恐怖―

12

しおりを挟む
男は怖じ気づきながら前に出てきた。そんな彼の怯えた顔色を伺いながらリオファーレは凛とした口調で話した。

「お前か?」

 彼の質問に男は一言返事を返した。

「はい、わたしです……!」

 そう言って答えると、リオファーレは彼の服を両手で掴み。自分の方へグッと引き寄せた。鋭い眼光を目の前に男は一瞬、その場で怯んだ。

「――その話は本当か?」

「本当です……! 彼が拷問部屋に連行される所を見ました! そして中からは彼の悲鳴が聞こえました…――!」

 男がそう話すとリオファーレは、瞳を鋭くさせながら呟いた。

「ギレイタス様にこの事を報告しなければ……」

 彼が掴んだ服を離すと、中から出てきた看守の男は命拾いしたと安堵の顔を見せた。そんな男にリオファーレは凛とした口調で尋ねた。

「彼を拷問にかけているのは誰だ?」 

 彼の質問に男は唇を震わせながら答えた。

「えっと、確か……。クロビス様とギュータス様とジャントゥーユ様とケイバー様になります!」

男は意を決してその事実を伝えた。リオファーレは下を向くと、何やら考え事をして呟いた。

「成る程。私だけ蚊帳の外と言うわけか……」

彼はそう呟くとツンとした顔で、鼻をフンと鳴らせた。オーチスの安否を気にかけていた看守達がリオファーレの下に駆け寄ると、何とか彼を助けられないのかと嘆願した。

その一方で違う意見を持つ看守達は『その必要はない、オーチスは我々の裏切り者だ!』 と決めつけると『当然の報いだ!』と騒ぎたった。

雪吹雪が舞う薄暗い雲の下で男達の意見はそこで真っ二つに分かれた。捜索を中断して話し合っているうちに、外の景色も徐々に暗闇へと染まっていく。リオファーレは騒ぎたつ看守達の前で一言告げた。

「私は今からをたしかめに行く。各自はこのまま捜索を続けろ、草の根を分けても必ず見つけ出せ!」

リオファーレは顔をキリッとさせると、凛とした口調で彼らに命令した。堂々とした立ち振舞いと高貴な雰囲気が漂う彼を前に、一同は思わず息を呑み込んだ。そして、その美しい顔立ちと彼の存在感に全員圧倒されたのだった。

中から出てきた男に声を掛けると、どの部屋かを案内しろと言った。そして彼はその男を引き連れるとタルタロスの中に入って行った。彼らがその場から立ち去ると外に居る男達は吹き荒れる吹雪の中を松明を片手に捜索を続けた――。
しおりを挟む

処理中です...