71 / 76
黒幕
4
しおりを挟む
はじめは彼をひどく憎んでいたが、それが愛ゆえに狂気へと走ってしまった彼の想いだと知ると、ローゼフは同情した。
「いいえ、もういいのです……。貴方の愛は他の誰よりも深く。彼女は貴方に心から愛されて、しあわせなドールだったと思います……」
ローゼフはそう言って話すと彼の手をそっと握った。もうそこには憎しみはなかった。ただ哀れな男の最期の死をみとるように傍に寄り添って優しく話しかけた。
「はぁ……はぁ……きみは本当に優しいな……。さすがマリアンヌ様の子供だ……。きみのその慈愛はまさに、母親譲りだよ……」
「オーランド…――」
「ああ、メアリー……私の……愛しい……――」
彼は最後に少女の名前を呼ぶと、瞳から涙を流して息をひきとったのだった。 ローゼフは突然の悲しみに襲われると、彼の開いていた瞼を右手で静かに閉じた。
「チッ、はずしたか……! どこまでも運の強いお方だ……! だが、次は外しませんよ!?」
アーバンは冷酷な顔でそう話すと彼に向かって再び銃口を向けた。 ピノは銃を持っている彼の手に噛みつくと、ローゼフに向かってその場で叫んだ。
「ローゼフ逃げてぇっ!!」
手を噛まれるとカッとなって叩いて振り払った。ピノが地面に倒れるなり、アーバンは鬼の形相で頭に銃を突きつけた。
「人形の癖につけあがるなよっ!!」
アーバンは銃口をピノの頭に向けると、そこで引き金をひこうとした。
『ローゼフーッ!!』
ピノは泣き叫ぶと彼の名前を呼んだ。
「そこまでだアーバン!」
ローゼフはステッキを片手に持つと、それを彼に向けた。
「なんだそれは!? それで私を殺せるとおもうのか!?」
「ああ、できるさ! 私を見くびるなよ!」
「何っ!?」
彼は強気な口調で言い返すと持っているステッキでアーバンを撃ち抜いた。乾いた銃声が時計台の上に置かれている鐘と共に鳴り響いた。それは終焉を描いたような、鮮やかなフィナーレだった――。
「なっ、なに……!? ば、ばかなっ……!!」
銃弾はアーバンの心臓を貫いていた。
「何故わたしが……! ばかな…――!?」
彼は地面に倒れると驚いた表情をしながら呆然となった。
死と言う現実を受け入れられない彼に、ローゼフは冷めた目で話しかけた。
「――いいだろう。欲望にとりつかれた哀れな貴様に教えてやる。これはステッキに見せかけた仕込み銃だ。まさかこんな時にこれが役に立つとはな、私がただ骨董品を集めていたと思うなよ……!」
その言葉にアーバンは大きな衝撃を受けた。
「それにこれはお前が昔、私に売った物だ! そんなことも忘れたのかバカめ……!」
「くっ、ただの小僧と見くびっていた私が甘かった…――!」
アーバンはそのことに気がつくと倒れた地面の上で言葉を失った。ピノは泣きながらローゼフのもとに走り出すと、彼に向かって飛びついた。
「ローゼフ……!」
「ああ、ピノ! もうお前を離さないぞ!!」
彼は震える両手でピノを抱き締めると自分の腕の中にギュッと閉じ込めた。ピノはローゼフの腕の中で安心すると、そこで泣きながら話しかけた。
「っひ……く……! ローゼフ、ボクもう離れないよ……! いっぱい大好き……!」
「ピノ。ああ、私もお前を…――」
彼は優しく微笑むとピノの小さな頭を撫でた。すると突然、ピノは目の前で顔色を変えたのだった。鮮やかに咲く薔薇の花びらがやがて地面に散ってしまうように、終わりは前触れもなく訪れた――。
「いいえ、もういいのです……。貴方の愛は他の誰よりも深く。彼女は貴方に心から愛されて、しあわせなドールだったと思います……」
ローゼフはそう言って話すと彼の手をそっと握った。もうそこには憎しみはなかった。ただ哀れな男の最期の死をみとるように傍に寄り添って優しく話しかけた。
「はぁ……はぁ……きみは本当に優しいな……。さすがマリアンヌ様の子供だ……。きみのその慈愛はまさに、母親譲りだよ……」
「オーランド…――」
「ああ、メアリー……私の……愛しい……――」
彼は最後に少女の名前を呼ぶと、瞳から涙を流して息をひきとったのだった。 ローゼフは突然の悲しみに襲われると、彼の開いていた瞼を右手で静かに閉じた。
「チッ、はずしたか……! どこまでも運の強いお方だ……! だが、次は外しませんよ!?」
アーバンは冷酷な顔でそう話すと彼に向かって再び銃口を向けた。 ピノは銃を持っている彼の手に噛みつくと、ローゼフに向かってその場で叫んだ。
「ローゼフ逃げてぇっ!!」
手を噛まれるとカッとなって叩いて振り払った。ピノが地面に倒れるなり、アーバンは鬼の形相で頭に銃を突きつけた。
「人形の癖につけあがるなよっ!!」
アーバンは銃口をピノの頭に向けると、そこで引き金をひこうとした。
『ローゼフーッ!!』
ピノは泣き叫ぶと彼の名前を呼んだ。
「そこまでだアーバン!」
ローゼフはステッキを片手に持つと、それを彼に向けた。
「なんだそれは!? それで私を殺せるとおもうのか!?」
「ああ、できるさ! 私を見くびるなよ!」
「何っ!?」
彼は強気な口調で言い返すと持っているステッキでアーバンを撃ち抜いた。乾いた銃声が時計台の上に置かれている鐘と共に鳴り響いた。それは終焉を描いたような、鮮やかなフィナーレだった――。
「なっ、なに……!? ば、ばかなっ……!!」
銃弾はアーバンの心臓を貫いていた。
「何故わたしが……! ばかな…――!?」
彼は地面に倒れると驚いた表情をしながら呆然となった。
死と言う現実を受け入れられない彼に、ローゼフは冷めた目で話しかけた。
「――いいだろう。欲望にとりつかれた哀れな貴様に教えてやる。これはステッキに見せかけた仕込み銃だ。まさかこんな時にこれが役に立つとはな、私がただ骨董品を集めていたと思うなよ……!」
その言葉にアーバンは大きな衝撃を受けた。
「それにこれはお前が昔、私に売った物だ! そんなことも忘れたのかバカめ……!」
「くっ、ただの小僧と見くびっていた私が甘かった…――!」
アーバンはそのことに気がつくと倒れた地面の上で言葉を失った。ピノは泣きながらローゼフのもとに走り出すと、彼に向かって飛びついた。
「ローゼフ……!」
「ああ、ピノ! もうお前を離さないぞ!!」
彼は震える両手でピノを抱き締めると自分の腕の中にギュッと閉じ込めた。ピノはローゼフの腕の中で安心すると、そこで泣きながら話しかけた。
「っひ……く……! ローゼフ、ボクもう離れないよ……! いっぱい大好き……!」
「ピノ。ああ、私もお前を…――」
彼は優しく微笑むとピノの小さな頭を撫でた。すると突然、ピノは目の前で顔色を変えたのだった。鮮やかに咲く薔薇の花びらがやがて地面に散ってしまうように、終わりは前触れもなく訪れた――。
0
あなたにおすすめの小説
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
キミがいる
hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。
何が原因でイジメられていたかなんて分からない。
けれどずっと続いているイジメ。
だけどボクには親友の彼がいた。
明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。
彼のことを心から信じていたけれど…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる