17 / 172
プロローグ
暗躍!ガスタンの策謀!その4
しおりを挟む
「ひぃっ・・・」
ひきつった声が出た。それが記憶の中のルナのそれだったのか、それともそれを垣間見た自身の声だったのか。それすらもわからなかった。
目の前の少女が蠢く黒い波に飲まれて悲鳴を上げながら手足を失い、傷だらけになり、最後には異形の姿へと変貌していく。
それはかつて自身が体験した。悍ましい体験が齎すはずだった終着点ともいうべき惨い有様だった。
かつて見習いの修道女であった彼女が教会に戻ろうとしていたときだった。無力で清らかな修道女を汚し、手に入れようとした悪魔の毒牙にかかったのである。
『やめて!はなしてっ!』
『お前を眷属として迎え入れよう』
『いぎっ!・・が。あ、うああああああっ!あ、が、ぐごえ・・・!』
あの時、悪魔がそう言いながら自身を押さえつけ、その背に自身の爪を突き立てた。焼けるような痛み、そして体がその悍ましい力によって変質していく恐怖にマルティナはその時神の祈りすらも忘れて恐怖に泣き叫んでいた。
その時はギリギリのタイミングで聖職者が助けに入ったため彼女は命と人としての姿を失わずに済んだのである。
しかしそれでも彼女の目には自身の手がボコボコと歪み変形して人でないものに変わる瞬間が焼き付いていた。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
自身の傷口が、忘れかけていた悪夢が蘇った。彼女はまるで自身を守るかのようにルナに厳重に封印をかけてしまった。
「!?、だいじょーーーー」
驚いた表情のまま、ルナは聖職者が使う封印の術に閉ざされてまるで時が止まったように凍り付いてしまった。
張り詰めた魔力が一気に霧散する。膝が砕け、祭壇の床に手をつく。
吐き気と眩暈が波のように押し寄せ、視界の端が黒く滲んだ。
「…はぁ…っ…」
息を吸うことすら痛い。力を使いすぎたのだろう、立ち上がるのにすら時間が必要だった。
「う、うぅ・・・」
あまりの恐怖にマルティナは涙をうかべながらエトナーの言葉を思い出していた。使命感に駆られて彼女を調べたまでは良かったが蓋を開けてみればわけも分からない内に目の前の少女に封印の術を掛けてしまっていた。
聖職者として、術者としてもあまりにもお粗末な有様だった。
——その瞬間、扉の蝶番が軋み、足音が響いた。
「・・・これはこれは、随分と都合がいい」
息も絶え絶えのマルティナの前を通り過ぎて封印の術によって石像のように固まったルナをみてガスタンはほくそ笑んだ。
「・・・な、にを・・・?」
「ご苦労だった、シスター・マルティナ。ここからは我らに任せていただこう」
困惑するマルティナを他所にガスタンは部下に指示を出すとまるでモノを扱うかのようにルナに布をかぶせて運び出していく。当然マルティナはそれを阻もうとしたが・・・
「ま、まって・・・とまり、なさい・・・!」
立つこともままならない彼女では抵抗すらできずその場に膝をついたまま手を伸ばすのが精一杯だった。
「ああ・・・そんな・・・」
「聖職者という奴がこうまで御しやすいとはな。聖人というのが例外なだけか?」
自身を見下すような、冷たい笑みを浮かべるガスタンの顔を見て彼の目的を察した時にはもうすでに遅かった。
あの男は最初から彼女をどうにかするために自分を利用したのだと。
それでも彼を阻もうと身を捩った彼女を押しのけ、ガスタンは高笑いと共に聖堂を後にした。
「ご、ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
突き飛ばされてあおむけに倒れ、無力さに打ちひしがれながらマルティナは好奇心と義務感に目を曇らせていた自分自身を恥じ入ることしかできず、ついに体力の限界を迎えた彼女は意識を手放した。
「・・・遅いな」
時間は少し遡って魔法学校にて。アダムは一人、教室で補習授業の準備を整えてある生徒を待っていた。
「補習授業と銘打って誘ってみれば二つ返事の随分と真面目な子が遅刻か?」
アダムは前回の不審者騒動からルナに何かしらの危険が迫っていることを察しており、彼女をできるだけ目の届く場所に置いておこうと行動パターンを把握できるようにしていた。
「ああ、ディーン先生。探しましたよ」
そんな中、不意に学校に勤めている用務員がアダムを見つけて声を掛けてきた。
「おや、何か御用でしたか?」
「伝言を頼まれましてね、ええと、フラウステッドさんから」
「何かあったんですか?」
少しばかり嫌な予感がする。アダムは立ち上がって用務員に問いかけた。
「ええ、なんでも聖人様に急な用事ができたとかで呼ばれたと言ってましたよ」
「あの怠け・・・聖人様が?」
「ええ、聖堂に行くとか言ってたような・・・」
アダムの頭の中で警鐘が鳴った。フラウステッドが危ない、と告げている。
「そうでしたか、それじゃあ私も失礼しますかな」
用務員には笑顔で応対しつつもアダムはすぐに出かけ支度をして急ぎ聖堂に向かうことにした。
ひきつった声が出た。それが記憶の中のルナのそれだったのか、それともそれを垣間見た自身の声だったのか。それすらもわからなかった。
目の前の少女が蠢く黒い波に飲まれて悲鳴を上げながら手足を失い、傷だらけになり、最後には異形の姿へと変貌していく。
それはかつて自身が体験した。悍ましい体験が齎すはずだった終着点ともいうべき惨い有様だった。
かつて見習いの修道女であった彼女が教会に戻ろうとしていたときだった。無力で清らかな修道女を汚し、手に入れようとした悪魔の毒牙にかかったのである。
『やめて!はなしてっ!』
『お前を眷属として迎え入れよう』
『いぎっ!・・が。あ、うああああああっ!あ、が、ぐごえ・・・!』
あの時、悪魔がそう言いながら自身を押さえつけ、その背に自身の爪を突き立てた。焼けるような痛み、そして体がその悍ましい力によって変質していく恐怖にマルティナはその時神の祈りすらも忘れて恐怖に泣き叫んでいた。
その時はギリギリのタイミングで聖職者が助けに入ったため彼女は命と人としての姿を失わずに済んだのである。
しかしそれでも彼女の目には自身の手がボコボコと歪み変形して人でないものに変わる瞬間が焼き付いていた。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
自身の傷口が、忘れかけていた悪夢が蘇った。彼女はまるで自身を守るかのようにルナに厳重に封印をかけてしまった。
「!?、だいじょーーーー」
驚いた表情のまま、ルナは聖職者が使う封印の術に閉ざされてまるで時が止まったように凍り付いてしまった。
張り詰めた魔力が一気に霧散する。膝が砕け、祭壇の床に手をつく。
吐き気と眩暈が波のように押し寄せ、視界の端が黒く滲んだ。
「…はぁ…っ…」
息を吸うことすら痛い。力を使いすぎたのだろう、立ち上がるのにすら時間が必要だった。
「う、うぅ・・・」
あまりの恐怖にマルティナは涙をうかべながらエトナーの言葉を思い出していた。使命感に駆られて彼女を調べたまでは良かったが蓋を開けてみればわけも分からない内に目の前の少女に封印の術を掛けてしまっていた。
聖職者として、術者としてもあまりにもお粗末な有様だった。
——その瞬間、扉の蝶番が軋み、足音が響いた。
「・・・これはこれは、随分と都合がいい」
息も絶え絶えのマルティナの前を通り過ぎて封印の術によって石像のように固まったルナをみてガスタンはほくそ笑んだ。
「・・・な、にを・・・?」
「ご苦労だった、シスター・マルティナ。ここからは我らに任せていただこう」
困惑するマルティナを他所にガスタンは部下に指示を出すとまるでモノを扱うかのようにルナに布をかぶせて運び出していく。当然マルティナはそれを阻もうとしたが・・・
「ま、まって・・・とまり、なさい・・・!」
立つこともままならない彼女では抵抗すらできずその場に膝をついたまま手を伸ばすのが精一杯だった。
「ああ・・・そんな・・・」
「聖職者という奴がこうまで御しやすいとはな。聖人というのが例外なだけか?」
自身を見下すような、冷たい笑みを浮かべるガスタンの顔を見て彼の目的を察した時にはもうすでに遅かった。
あの男は最初から彼女をどうにかするために自分を利用したのだと。
それでも彼を阻もうと身を捩った彼女を押しのけ、ガスタンは高笑いと共に聖堂を後にした。
「ご、ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
突き飛ばされてあおむけに倒れ、無力さに打ちひしがれながらマルティナは好奇心と義務感に目を曇らせていた自分自身を恥じ入ることしかできず、ついに体力の限界を迎えた彼女は意識を手放した。
「・・・遅いな」
時間は少し遡って魔法学校にて。アダムは一人、教室で補習授業の準備を整えてある生徒を待っていた。
「補習授業と銘打って誘ってみれば二つ返事の随分と真面目な子が遅刻か?」
アダムは前回の不審者騒動からルナに何かしらの危険が迫っていることを察しており、彼女をできるだけ目の届く場所に置いておこうと行動パターンを把握できるようにしていた。
「ああ、ディーン先生。探しましたよ」
そんな中、不意に学校に勤めている用務員がアダムを見つけて声を掛けてきた。
「おや、何か御用でしたか?」
「伝言を頼まれましてね、ええと、フラウステッドさんから」
「何かあったんですか?」
少しばかり嫌な予感がする。アダムは立ち上がって用務員に問いかけた。
「ええ、なんでも聖人様に急な用事ができたとかで呼ばれたと言ってましたよ」
「あの怠け・・・聖人様が?」
「ええ、聖堂に行くとか言ってたような・・・」
アダムの頭の中で警鐘が鳴った。フラウステッドが危ない、と告げている。
「そうでしたか、それじゃあ私も失礼しますかな」
用務員には笑顔で応対しつつもアダムはすぐに出かけ支度をして急ぎ聖堂に向かうことにした。
1
あなたにおすすめの小説
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる