悪魔になったらするべきこと?

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暗躍!ガスタンの策謀!その3

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夕暮れ時の街角、カフェの並びにある石造りの小さな食堂。通りからは香ばしい肉とハーブの香りが漂っていた。

「こちらです、マルティナ様」

店の奥の半個室から、低く押さえた声が彼女を呼んだ。

マルティナは白い聖職者服の上に簡素な外套を羽織り、祈りの首飾りを胸に下げて現れた。
テーブルにはすでにガスタンが腰掛けており、目の前には赤ワインと焼きたてのパン。
その傍らに、封蝋を割った紙片が置かれている。

「呼び立てして申し訳ない。…どうぞお掛けください」
「急ぎの用件と伺いましたが」

マルティナは席に着き、静かに水を口に含んだ。
ガスタンは軽く指で紙片を押さえ、その端を彼女の方へ滑らせる。
紙面には血のような赤褐色の染みと、震えた筆跡で書かれた四文字。

『結果は黒』

「これは・・・?」
「信頼できる筋からの報告です。対象の素性、ほぼ確定と見てよい」

ガスタンの口元に笑みが浮かぶが、その目は冷たかった。

「あなたには、ある人物の“再試験”を円滑に進めてもらいたい。ただし、正面からではなく――聖職者としての立場を活かして、彼女を動かすのです」

マルティナは眉をひそめた。

「聖職者を、あなたの私事に使えと?」
「これは私事ではありません。むしろ公正のための手段です」

ワインの赤がグラスの中で揺れ、まるで血を映すかのように光った。
短い沈黙の後、マルティナは息を吐き、視線を紙片から外す。

「話を詳しく聞きましょう。ただし、私の信念に反すれば、その場で降ります」

「もちろん。だが――あなたなら理解してくださると信じています」

ガスタンは低く笑い、テーブルの下で足を組み直した。




「・・・あの男の言う事は信用ならない・・・」

あれから修道院に戻り、自問自答を繰り返した。だがしかし、とマルティナの心が問うた。
彼女の魔力に白と言えない何かがある。そして、それはおそらく人ならざるなにかの・・・

「よう、邪魔するぜ」

修道院で祈りを捧げていた彼女に不意に声がかかった。振り返るとそこには古びた修道服を着た女性が立っていた。

「シスターエトナ―」
「ようマルティナ、随分と忙しそうだな」

何も興味がなさそうで、それでいて全てを見透かすような瞳にマルティナは身構えた。彼女はエルフの長老格すら頭を下げる長命の存在。彼女が知らぬことはこの大陸にないと言われるほどの知識と信仰の持ち主である。

「ええ、あなたほどではありませんが」
「坊主と医者が忙しいだなんて、良くねえよなぁ」

エトナ―はそう言うとマルティナの傍まで歩むと彼女と同じように神に祈りを捧げる所作をとる。

「神よ、懺悔します」
「・・・?」
「聖職者でありながら政の争いに手を貸そうとしている者がいることを」

ドキ、と胸が不自然に跳ねた。そして立ち上がったエトナ―がぐるりとこちらを向いて言う。

「欲の匂いがするんだよな、気をつけろよ」
「欲ですか・・・?」
「お前さんの今回の仕事だ、わかってんだろ?」

さらに踏み込んだ発言にマルティナは顔をしかめる。

「な、なにを・・・」
「お前が道を踏み外さないように言ってんだぜ、気を付けるんだ。なんでも覗き込むことは良い事じゃないってな」
「しかし不義を正し、悪事を暴くことは正義を遂行する上で欠かせないことでは?」
「そりゃあそうだが、お前さんトラウマ持ちだろ?思わぬ深淵を覗き込んで怪我しない内にやめとくべきだぞ」

人の心には思いもよらぬことがあるもんだ。とエトナーは言う。

「傷があったからと役目を放り出していいと?」
「場合によりけりだがな。特に今回みたいなのはお前さんのような若い奴には荷が勝ちすぎる・・・老婆心からの忠告だ」

エトナ―は肩を叩くとそのまま修道院を出ていった。残されたマルティナは懐に入った袋の、その中身が齎す重さに不気味なものを感じていた。しかしそれでも彼女はそれを調べずにはいられなかったのだ。
エトナ―の言葉が皮肉にも彼女のプライドに火をつけてしまった。

「いいでしょう、そこまで言うのなら・・・しっかりと調べます。信仰に誓って」

マルティナは首飾りを手に、一人聖堂へと向かう。
そこはガスタンがあらかじめ借り切った場所であり、悪魔や悪霊を封じ込めるのに最適な場所。そこでマルティナは手筈の通りに儀式に必要な陣と祭具の設置に取り掛かった。それが済めば後はガスタンが彼女を連れてくるはず。

「これでよし・・・」

陣は書けた。祭具もばっちり。あとは自身の力を信じるのみである。
外の景色は明るく、太陽が照らしている。準備に思いのほか時間がかかった。気付けばもう朝も遅くなっている。

「あのー・・・」

深呼吸をする暇もなく、誰かの声が響いた。マルティナが振り返るとそこには純朴そうな女の子が立っていた。

「?、あなたは・・・?」
「えっと、ルナ・フラウステッドっていいます。エトナ―さんが居るってきいたんですけど・・・」

マルティナはその言葉の主にすぐに合点が行き、内心で毒づいた。まさか彼女を騙してまで此処に連れてくるとは。

「すみませんが彼女はいませんよ。それよりフラウステッドさん、よろしければ私の修行に付き合ってくれませんか?」
「修行ですか?」
「ええ、魔力の質を調べるんです。それによって占いや魔除けをしたりするんですよ」

すこし考えるそぶりを見せたが彼女はすぐに了承した。あまりのお人好しにマルティナは自身が今からやろうとしていることにわずかばかりの疑念を抱いたが・・・。

(間違いなら間違いでいい、なにも悪事を働こうとしているわけではないのだから)

そう自分に言い聞かせてマルティナは魔法陣の真ん中に立った彼女を見ながら術式を発動させた。

「・・・」

魔力の色、質、そして量。すべてが不明瞭になりつつも底知れない何かを感じさせる。しかしながらこれくらいならば魔術師ならもちろん、聖職者の中にも見抜く者は多い。問題はそこからさらに奥。彼女の秘奥を探る必要がある。
まるで靄を払うように、少しずつ彼女の内面を探る。

その時だった。

彼女の脳内に、まるで自身に起こったことかのようにあの悍ましい儀式がフラッシュバックした。
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