悪魔になったらするべきこと?

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プロローグ

悪魔になる!なにがなんでも!

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走る、走る、走る。

焦りが、あるかもしれない光明に縋りたい気持ちが彼女を走らせる。
鞭を入れられた馬のように走った先でルナは満月を見上げながら佇むルルイエの姿を捉えた。

「望みの果て、星辰が正され・・・待ち人は来たれり」

星辰(ほしふり)。聞きなれない言葉と普段とは違うどこか恐ろしい雰囲気すら纏うルルイエの姿にルナは少しだけ躊躇った。
けれども、苦悩する家族の姿が、潰えた希望がまた復活するという淡い気持ちが彼女の背中を押した。

「せ、先生・・・」
「よく来たね・・・用件は、言わずともわかっている」

ルルイエが本を空間から出現させ、それを開くと彼女の周囲に魔法陣が出現し、その魔法陣から大きな扉がせりあがった。

「中天の月は血に染まったかのようだ、星の並びも、今を逃せばもうチャンスはないとみていいだろう。君に最後の問いを投げるがいいかな?」
「問い・・・?」
「君は悪魔になるわけだが、成功の確率は完璧ではないし、今から恐ろしい目にもあう・・・それでもいいかな?」 

ぞっとするような声色と怪しい輝きを帯びた目、そして魔力がまるで自身を絡めとるかのように満ちて・・・
ルナをこの場から逃がすまいとするようだ。しかしながら彼女とて今更このチャンスを手放すつもりもない。
もとより今を逃せば間接的に破滅が待っているのだから。


門は開かれ、ルナはその中に吸い込まれた。まるで体から魂となって抜け出したような、ふわふわとした感覚。

「これは・・・?」

進め、振り返るな、進み続けるのだ。 頭の中に声が響いた。そして、暗闇が晴れるその中はおぞましくもまるで血に染まったような大地と、黒い河が流れていた。

「黒い水・・・?うっ」

思わず口を塞いだ。黒い河と思ったのは蠢く虫、毒を放つ百足の濁流だった。
進め、漱げ、禊を。抗いがたい声と、恐ろしい光景を他所にルナの足は前へと進む。恐怖、嫌悪、そして

「あ、が・・・うぅ、お、うぁ・・・!!!!」

足先から膝下へ、這いずる虫の中を踏みしめて進む。踏みしめた足を、まるで供物をそうするように虫たちが食らいつく。痛みが、苦しみが足先から脳天を容赦なく貫いていく。

「あ、が・・・ひっ・・・」

苦悶が呼び起こす生理現象を垂れ流しながらルナは河を渡っていく。そして・・・河をひたすら、見えない力に引きずられるまま進み続けた彼女はようやく黒い河を渡り切った。

「ひっ、ひっ・・・あ、ぐ・・・ああ・・・」

どうやってここまでこれたのか、膝からしたの大部分は黒く爛れ、失くなっていた。

「あ、足っ・・・私の、足ッ・・・!う、あ、あああっ・・・痛い!痛い痛い!」

血が流れるがそれを無視するように声が響く。

進め、まだ先に、進むのだ。
冗談じゃない、命に関わるような傷だ。虫に食われた足でどうやって歩くのか。そんな彼女の意思に反して体は前へ、前へと進む。

「いたい・・・いたい・・・」

まるで呪文のように痛みを口にしながら進む先には・・・

「ひ・・・」

視界を遮るような蜘蛛の巣、そして自分を見つめる数多の四対の目だった。

「これを・・・抜けるの・・・?」

蜘蛛は這いずるように進むルナを見ると後ずさるように巣の上部へと距離を取る。それを見てルナは好奇とばかりに巣の張り巡らされた道を進む。そして道の半ばまで来たところでどうしても巣を避けられない場所が出てきた。

「どかすしかないの・・・?」

地面はぶよぶよと気味が悪い。石や枝なんてものはなく、手でどけるしかないと決意して触れたときだった。

「え・・・?」

じゅっ、と音がした。手を見ると糸は手を赤く焼いていた。猛烈な強さの酸を含んでいたのだ。

「あ、あっ、あっあっあっ・・・」

蜘蛛が自分を見下ろしている。ルナは彼らの意図を悟った。彼らは待っている。自分が立ち往生するか、糸に焼かれて息絶えるか。それを待っている。気の早い蜘蛛が何匹か牙を鳴らしてこちらに近づいてくるのが見えた。

「ひっ、い・・・ぐ、ぅぅぅぅぅぅううう!」

手が焼けるのを躊躇わずルナは糸を引きちぎって進む。嫌らしいことに糸はちぎれるとたわんで手や腕に絡みついた。
自分の手や肌が焼ける音を聞きながらルナは進んでいく。

「熱、いっ!痛い・・・!な、なんでこんな・・・!ことに・・・!」

進んでいく中で指から、手から、順番に落ちていく。痛みなんて気にしていられない。巣を抜けなければ食われてしまう。そして巣を抜ける最中に。

「うっ」

腕に糸が絡んだ。焼け付きながら絡み食い込む糸にルナは悲鳴を上げながらもがいた。すぐ後ろには蜘蛛が待ちきれないとばかりに牙を広げている。そして・・・

「ぎゃっ・・・あ、うっ」

糸に絡んだ腕を蜘蛛は偶然にも食いちぎった。悲鳴を上げて前に倒れ込んだルナを他所に蜘蛛は腕をむしゃむしゃと口の中へと運んでいた。どうやら、巣から出た獲物を追う習性は無いようだった。

「はぁ・・・はぁ・・・うっ・・・」

安堵と自分の体が焼ける匂いを嗅いでルナは思わず嘔吐した。呼吸も忘れて走り続けていたのも原因だった。

「ひゅぅ・・・」

喉から空気が抜けるような音がした。しかしまだ、どうにか命は残っている。そして、前に進むこともできる。
もはや何が目的だったのか、何が彼女を動かすのか。声に従うままに彼女は失った腕と足を庇うように進んでいく。

「あー・・・あぁー・・・」

もう何が何だか。這いずるような動きのまま進み続けるとその先には洞窟のような、冷たい石でできた空間が広がっている。そして、その先に待ち受けているのは赤い瞳を光らせてさかさまにぶら下がる蝙蝠の群れだった。

「ひ、ひぃ・・・」

畏れか、疲労か、わからないままに彼女は蝙蝠を呆然と見上げていた。そんな彼女に蝙蝠はさも当然かのように襲い掛かった。

「ッ!」

傷口を切り裂き、滴る血に群がる蝙蝠の群れ。どうやら洞窟の中で光るものを獲物と認識して襲うようだった。
無情にも傷口は血で濡れていて微かな光を受けて光り、彼女の瞳は涙で輝いていた。

「う、ぐ・・・あ、ひっ・・・あ、ああああ!」

通り過ぎた蝙蝠が彼女の目を抉った。ここにきて暗闇に放り出された彼女の恐怖はピークに達し、悲鳴を上げながら彼女は悶えることしかできなかった。

「暗いよぉッ!怖いよぉッ!だ、誰かっ!・・・先生っ!お、お父さん!お母さん!誰か、だれかたすけて・・・!」

蝙蝠の羽音と鳴き声に慄きながら彼女は逃げるように進み続ける。傷んだ腕が蝙蝠の牙でさらに傷つき、残った部位も削り取られていく。ついに彼女は四肢をすべて失い、血を流しながら芋虫のように這いずって先に進む。
死にたくない、痛い、苦しい、ここから進まなければ死んでしまう。その一念で彼女は進む。

「・・・」

いつしか音がしない静寂の中に居た。耳を食いちぎられたからだろうか、それとももう、自分は死んだのか?

(どうだろう・・・もう、どうでも・・・いいかもしれない・・・)

洞窟を這いずって進む内に体は傷だらけになり、無傷なところを探す方が難しい状態だ。ついに彼女は力尽きて、静寂の中に身を投げた。
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