ノーライフ・ガールは博士の最高傑作

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プロローグ:ある博士の回想録

とある博士の備忘録

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私はかつて物理法則、化学、科学、それらの支配する理の世界にいた。その世界には魔法・錬金術・呪術といったモノはなく、面影を残すばかりであった。

「しかしまあ、なんと面白い世界だろうか」

偶然、呪術師の呪いに大枚を叩いた私は異世界へと渡る術を身に着けた。怪しげなもので眉唾・・・まあ、魔術や錬金術を研究していた私が言うのもなんだが胡散臭い内容であった。しかしその効果はすばらしく大都市の郊外で行ったその儀式は瞬く間に私を見知らぬ世界へと誘った。
そこで私が理解した事を先ず記しておく。
・この世界には魔法が存在する。
・魔法は精霊や神々の力の一端として保障されている。
・錬金術は知りうる限り全くそれらしい技術体系はなかった。しかし理論は構築可能。
・魔法の理論はこちらの世界にもある通りで、魔法陣や詠唱で発動が可能だった。素晴らしい。
・エルフ、ドワーフ、コボルトなど様々な人種がいる。彼らはどの国でもそれなりの扱いだが一部では差異があり、大抵は迫害の傾向にある。

そしてこの世界では私が長年培った医学や薬学も同様に使用でき、錬金術と組み合わせるとこの世界で治せない病はそうそうなさそうだった。結核、天然痘、赤痢・・・様々な薬品を錬金術で錬成し処方する事によって私は拠点を築くべく訪れた村でちょっとした立場になれた。元来異邦人は好まれない性質は何処の村でも同じようだが命の恩人、特に辺鄙な村に定住する医師、薬師という事で次第に警戒されなくなった。よろしいことだ。
さて、そろそろ私が開発した賢者の石についての研究を始めるべく密かに孤児院兼医療所を開いた。
子供の純粋な精神と発展途上の肉体は私が考えうる不老、もしくは不死身の研究にとって変化のわかりやすいものだった。なにせ衛生観念の乏しいこの社会では子供はすぐ死ぬ。それもあっけなく。そして夜盗などの暴力によっては女子供はもちろん大の男とて例外ではない。そこで私は単なる不老不死の獲得ではなく、肉体の全盛期を目指した不老不死の薬を目指す事とした。単なる若返りでもなく、成長促進も兼ねるものであればよろしいことだろう。


被験者その1:末期癌患者の老人(戸籍が無いため推定65歳)
鼠による試験薬のテスト中にとある富豪から依頼を受けた。十分な説明の後に無償で行う事を条件にテストケースとして投薬を行った。検診は魔術鏡を使ったレントゲン検査の結果重度の胃癌であることが分かった。
投薬後一日目。
表面に目だった変化なし、しかしながら被験者の容体は安定した。抗がん剤として利用可能だろうか。

二日目。
被験者の見た目に変化が現れた。肌に多くあったシミなどが消え、肌が若々しくなった。同時に再度のレントゲン検査の結果、胃癌は完全に取り除かれたことが分かった。

三日目。
被験者は完全に回復し、副木なしでの歩行が可能になった。薬品としてみれば素晴らしい結果が得られた。不老不死の試験薬、その試作段階としては有用な結果だろう。しかしながらこれが単なる若返りなのかそうでないか、強度のコントロールは可能かなど課題は山積だ。また、体内の魔力量、並びに魂などに至るまで健全ではあれど異常はみられないので執事に健康のチェックをお願いし、私は一旦帰宅する事にした。

被験者その2:事故で下半身不随となった男性(推定25歳)
村の男性が屋根からの転落の際腰を強打、脊椎を損傷したらしく下半身が動かなくなってしまった。悲嘆にくれる男性に私はこの薬品のテストを申し出た。男性は藁にも縋る思いだったらしく私の提案に了承してくれた。
今回は直接薬品を腰に注射する方式を取ることにして検査結果を見守りたい。

投与一回目。
被験者は注射と聞くと非常に怖がっていたが睡眠薬を投与して眠っている間に腰部に注射を行った。背中には痛々しい傷跡があり、この世界の技術でみても拙い施術を行われた事を確認して私は思わず眉間に皺を寄せていた。
如何に非合法、外法に手を染めようとも施術そのものに手を抜くなどありえない事だ。

経過一日目。
その日、男性の大声で私は目が覚めた。目を擦りながら男性の部屋へと向かうと彼が壁に縋りながらも立ち上がりこちらを見ているのが分かった、そして覚束ない足取りながら彼は私の手を取って涙を流した。
治療の成果を感じている彼には申し訳ないが私は内心歯噛みしていた。おそらく彼のケガを完全に治癒するにはいたらなかったのだろう。強度を上げる目的で患部に直接投与したというのに・・・。

投与二回目 経過二日目

前回の事もあってか男性は疑う事なく睡眠薬を服用し、二回目の注射を受けた。期間をあけるべきかとも思ったが内心焦っていたらしい。結果を記した今となっては今更だが。しかしながら結果は成功だった。彼の腰部のケガは完全に治癒し、傷跡も無くなった。

メモ:彼の腰部の機能向上が見られた。一か月近くの寝たきり生活だったらしいが彼はケガをする前以上に健脚になり、今は都市部に映って手紙の配達員をしているようだ。

この世界は病人に溢れ、またけが人も同様だったので私の研究は随分と捗った。上記の二件の患者もそれから何の問題もなく私の研究は完成に近づきつつあった。

そして私は一人の少女に着目した。それはある日の事件に由来する。

『薬品流出事件』

これは孤児院の子供がいつの間にか私の薬品室への入り口のカギを入手していた事が発端だった。好奇心を抑えきれなかった子供の何人かが私の作った薬品の瓶を倒してしまったようだった。揮発性の高い薬品があったのか私が飛び込んだ時にはどの子も瀕死だったが、なんとか外に運びだして蘇生させることができ虎口を脱する事が出来た。
その際に一人の少女が果敢に薬品の充満する薬品室へと飛び込んだのだ。私は永らくの研究で体が慣れていたし、マスクを常に着用しているので問題はなかったが・・・彼女は着の身着のままだった。考えてみれば当然か、防護服などなかったし、私は先ほども言った通り常にマスクを着用している。そこで思い当たった。

彼女には薬品がもともと効きにくいという体質だったのだ。薬品の強度を測るには彼女こそ相応しい。そう思い立つと私は彼女にそれを打診した。私の夢の為にその実験台になって欲しいと。
些か良心は痛んだが彼女は快く引き受けてくれた。内心断ってくれたら・・・などと調子の良い事を考えていたが自分が言い出したこと、それに結果こそうまくいっているとはいえ無辜の人々を捕まえては善意で隠し実験台にしてきたのだ。私は彼女の成長具合を測りつつもかなりの頻度で新旧問わず投薬を行った。
そして彼女の変化を観察する事で私はその薬の完成を見る事になった。

それは奇しくも彼女の、この世界での成人を意味する十五歳の時だった。人買いに売られていた彼女は珍しく年齢が判明しており、買ったときには五歳ほどだっただろうか。扱いはそれほど良くなかったはずだが随分と懐いてくれたものだ。彼女はいつも率先して難事に取り組む姿勢があり、私は被験者として以上に彼女に愛情を注いだと思っている。罪悪感もあったかもしれないが・・・それ以上に彼女に、私はとっくの昔に捨ててしまった家族を見たのかもしれない。それだけに彼女だけは、なんとしても完成させねばならない。
そうだ、彼女こそ私の娘と言っても差し支えないのだから・・・。
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