ノーライフ・ガールは博士の最高傑作

ファウスト

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旅立ちの日に

宿を探して

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踵を返して私はギルドを後にすることにした。とりあえずは身分証も手に入ったし大丈夫だろう。

「さて、今晩のお宿を探しに行きますか」

そう思い、先ほどのギルドの受付嬢に軽く手を振ってから私はギルドを後にした。




「おい、見たか・・・あのお嬢さん」
「ああ、とんでもない別嬪だったな」

ギルドでは突然現れた女性が話題に上っていた。ややあどけなさが残るとはいえ、顔立ちは整い、身長は体格が優れているギルドの平均的な男性よりも少しばかり高い。オマケに質素な服を押し上げるバストと気だるそうな瞳がなんとも言えず彼らの注目を引いた。

「代筆もナシだったし・・・山刀を下げてたがあれが得物かな」
「どうだろうな、どっちにしろ学もありそうだった・・・」
「まあ、ガードは固そうだったが」

無視されてしまった冒険者、ガラルドはがっくりとした様子で仲間の座る椅子へと戻っていく。それを冷かしつつも彼らは彼女にどうして近づいたものかと考える。

「旅慣れてる感じだしありゃ研究者かね?」
「フィールドワーカーの学者も珍しいがいないわけじゃないよな」

文盲が割と普通のこの世界で淀みなく筆記を行い、指定された金額をさして困った様子もなく払った事でギルドの中では少しばかり珍しかった。なにせ冒険者は知恵や生活の知識はたくさんあっても学があるわけではない。
その為にギルドは冒険者たちを安く買われない為に値段を仲介しているのだ。ギルドでは文字を学ぶ講座もあるが有料のため人気はそんなにない。なにせ文字が読めなくともパーティの内の誰かが読めればいい、そんな考えの者が多く、かろうじて数字の数え方を知っている程度だ。

「良家のお嬢さんにしてはガラルドのあしらい方も手慣れてるからやっぱり研究者か?」
「だろうな、独学で研究してるやつの中には素材欲しさに冒険者になる奴も多いしな」

研究者といえば学校や研究室を構えてこもりがちになる白衣の男性かもしくは女性というのが市井のイメージだが時折独自の学問や研究を行う者には特殊な素材を求めて世界を渡り歩くものもいる。もちろんその研究の特殊性や価値がまだ確定していない新進気鋭の研究者による研究などとなるとスポンサーがつくことはほとんどない。それ故に自らの足と命を懸けて研究素材と費用を捻出するのだ。民間人にその手の実情を知るものは少ないが多くの同業者を抱える冒険者ギルドと冒険者たちはあるものはコネを使い自作のポーションを安く手に入れたり、素材を融通するかわりに依頼としてギルドから金銭を受け取ったりと彼らの稼業にも深くかかわっている。

「しかし彼女が仮にそうだとしても急ぐ必要もあるまいよ」
「なんでだよ、場所を移しちまうかもよ?」
「忘れたのか、ここら辺は今山賊だらけだぜ?次の町まで野宿は必至だがアンデッドと山賊のはびこる隣町までの道を彼女が無理矢理行くとは思えん」

それもそうか、と冒険者たちは納得する。そして身震いした。アンデッドだらけになった隣町までの道のりには騎士団が正式に討伐を行う計画が発表され、冒険者たちもそれに同行する依頼がギルドの中で事前に発表された。
数日の内に正式な発表が行われるがそれまでは隣町へ行くことは制限されてしまう。アンデッドをむやみに増やす訳にはいかないし、わざわざ犠牲者を用意して山賊達を喰わせる理由も義理もない。

「そうだな・・・いくら旅慣れていても山賊のいる場所で野宿なんてできるわけもないか」
「そうさ、さすがに死にに行くようなもんだ」
「それに依頼も確認してたからここらで何かしら依頼もこなしていくみたいだったし焦る必要もないな」

彼らはギルドに併設されているフードコートでエールを注文し、今日はもう切り上げようと仕事からオフへと気分を切り替える。そんな中でエールを少し飲み進めた内の一人が周囲を気にしながら話し始めた。

「そういえば・・・山賊どもがなんでここら辺に増えたかしってるか?」
「さあな、周囲はそれなりに治安もいいし、騎士団も目を光らせるだろ?だからじゃねえか?」
「そうだといいんだが・・・実は斥候の知り合いが恐ろしい話を聞いたんだよ」

『知ってるか?森の中を徘徊する狩人の話だ。
山賊の根城を調査すべく周囲を探っていた俺は見たんだ、夕闇の中で山賊を狩る存在が居た事を。
信じねえだろうが、お前には教えといてやるよ獣みてえな唸り声をあげる剣を振り上げて人体を真っ二つにしちまう恐ろしい狩人・・・俺は知ってるんだぜ、張り込んでいたからな・・・それまで罠を仕掛けた奴なんていなかったが
逃げ惑う山賊達が一人ずつ罠にかかって悲鳴を上げる様を!虎ばさみだったかもな、金切り声を上げて噛みついたその罠は恐らく魔獣用といっても差し支えない威力と大きさだった。それがいつの間にかバラまかれていた。
そしてそんな奴らに的当てでもするように今度は手斧やナイフの雨霰、生きている山賊が居なくなるまで時間はかからなかった。俺はその間にすかさず長い枝を拾って杖がわりにした、虎ばさみがあるかもしれないからな。
そうしてその場所を離れようとしたとき、俺の背中を奴の視線が射貫いたんだ。見られた、はっきりとわかったぜ。
度の強い酒を体にぶっかけた時・・・一瞬ヒヤッとして、それから焼けるように熱くなる。まさにそんな感覚だったぜ。奴は俺のそんな仕草を見てニヤッと笑ったんだ、おそらく奴は俺に罠を警戒されている事を察知して・・・それで、どういうわけか俺を見逃すつもりになったようだった。奴は警戒心の薄いヤツを狙っているようだった。
俺は斥候のスキルを常に磨き続けていたことをその時神様に感謝したぜ。
翌朝、俺はベテランのパーティに泣きついて依頼に同行してもらった。恥も外聞もあったもんじゃねえが一人であそこに行くのは勘弁だった。虎ばさみにやられたら俺一人じゃ帰れないのもあったがアイツが二度気まぐれを起こしてくれるとも限らねえからだ。』

「そのあと、知り合いが見たのは一面に漂う血の臭いと丁寧に解体された山賊達の遺体だった。山賊のアジトには連れ去られた民間人がたくさんいたが彼らは一様にひどく怯えていて・・・ヤツと同じく獣の唸り声のようなものと山賊の悲鳴を何度も聞いたって話だ」

半信半疑だったベテランたちも怯える彼らの表情と悍ましい惨状を見て信じるしかなかった。山賊の遺体はおおよそ三十人を超えていたといわれるがバラバラになっていたので正確な人数はわからないそうだった。

「そ、それが近くにいるってのかよ・・・」
「噂だがな・・・だが奴は恐らく山賊を恨んでいるのかもな、知り合いもそうだが冒険者や一般人が襲われたって話は聞かねえ」

そうだといいんだがな、と彼らは自身と同じように汗をかいたグラスを握りしめて中身を呷った。
冒険者は噂話を無碍にしない、それが命にかかわるものであるならば。
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