ノーライフ・ガールは博士の最高傑作

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次の町 モリッツ

下っ端の悲哀

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「バカ野郎!それでどうしてのこのこ帰ってきやがった!」

報告役の男性が這う這うの体でどうにか報告を済ませた時の第一声がそれだった。どうしてもなにも彼らは尽く満身創痍であったが目の前の兄貴分はそれに気づいていたのかいなかったのか男性と付き添いの子分を容赦なく叱責した。

「しかし兄貴・・・あのデカイのは思った以上に強くて・・・」
「だとしても無傷で返していい理由になるか!」

机を叩くと兄貴分はケガをしていたのを思い出したのか顔をしかめて包帯を巻かれた利き手をにらんだ。

「俺の手もこんなにされちまっただけじゃなくあの店のショバ代をせしめることもできなかった!このままじゃ何のためにあんなギルドを立ち上げたのかわからねえじゃねえか!」
「ですが・・・」

あの大男を相手にするなど彼らには勘弁だった。素人相手や猟師の中の喧嘩自慢ならともかく本職の冒険者があれほど強いとはおもってもいなかったからだ。しかも相手は自分達の囲っているそれより遥かに腕利きの医師がでもあるようで腕は痛むものの出血も収まっており、後遺症はともかく命には別条はなさそうだった。
オマケにそんな自分達にも治療を施し、あまつさえ対価を要求せず立ち去らせるようなお人よしだ。そんな女性の命を奪おうものなら商家や職人たちと一層深く敵対することにもなりかねず男たちはそれを危惧していた。冒険者ギルドと銘打っているがギルドに在籍しているのは身を持ち崩したならず者ばかりで真面目に働くのがバカらしくなって此処で子分として動いているヤツが多い、もしくはそんな彼らに騙されただけの貧乏人だ。社会的な地位もなにもかもが職人や商家の人々よりも下で信用もなく、この地で民営とはいえギルドに属しているからこそ何とかなっている状態の彼らにとって稼ぎの根本となっている商家や職人たちの機嫌を不必要に損ねることはしたくない。
なんだかんだ言ってヤクザの真似事をしている以上、商家の対立や職人同士の縄張り争いに加担する形でどうにか大きくなってきたのだが・・・。

「しかし相手は医師としても腕が立つそうで・・・」
「だからどうした!」
「いえ、薬問屋を敵にするのはよくねえんじゃねえかって・・・」

人口の増加から薬などの需要が伸びていたがどうにも問屋たちの子飼いでは調合や目利きが追い付かない状態が続いており、一人でも医師や薬師が欲しい状況故に薬問屋は最近入ってきたあの冒険者を囲いたいと思っているようだった。いかに無法を通して恐れられる彼らであっても医者やその医者が働くための商売道具を作る店に面と向かって喧嘩を売るのは難しかったのだ。なにせここで病気になっても薬も治療も全て問屋頼みであり、今まではライバル店や場所の占有などで互いに利用しあってきたとはいえ今の入れ食い状態の彼らにとってこのギルドのならず者の価値が下がってきている。荒事に精通する彼らも医療のサポートが受けられないのは辛く、またここを後ろ盾にしているが故に町にも大きな顔が出来たところが強い。

「ちっ!ならやり方を変えりゃいいんだよ!」
「やり方を変える?」
「事故にみせかけるなりなんなりあるだろ!」

男性は憤慨した様子の兄貴分に内心で頭を抱えていた。自分達と同様に酷い目にあったのは容易に察する事はできたがどうにも冷静になれていないようだった。

「わかりました、とりあえず準備をしてみます・・・」
「今度こそ失敗するんじゃねえぞ!」

男性は頭を下げて部屋を出る。冒険者ギルドの近くにある建物はギルドに比べやや小ぶりな建物でギルドに裏から指示を出す際に建物の規模から目立ちにくく、また建物を分ける事でギルドに監査が入ったりしても大丈夫なように重要な証拠はもともと全て運び出されていた。ガラの悪い、明らかにそれらしい人物は此処に待機させることでギルド見た目も誤魔化す事もできるので一石二鳥だ。

「兄ぃ、どうするんですか・・・」

付き添いの男性はそう言うと足を引きずりながら兄いと呼んだ男性に並んだ。

「どうするもあるか・・・覚悟を決める時が来たんだろうさ」
「覚悟・・・ですか」
「あいつをバラすか、俺たちが足を洗うかだ。少なくとも後者だとこの町にゃいられねえ」

そう言われ、付き添いの男性は押し黙った。痛む足の具合は恐らくはそれほど良くなく、もしかすると一生杖を突いて暮らさないといけないかもしれない。そうなるともうごろつきでは居られない。喧嘩自慢から弱者へと転がり落ちてしまったのだ。ケガをしている今はもちろん、杖ナシでは立ってすらいられなくなれば喧嘩をした時叩きのめされるのは自分だ。

「そろそろ潮時だろうなァ・・・うまくいくとちょいとばかし思ってたが・・・」
「そんな・・・兄ぃは悔しくないんですか?」
「悔しい・・・ね」

そう言われると全くないわけではないが彼ももう中年に差し掛かっており、彼よりも長生きした分だけ世の中が良く見えていた。それなりに目端が利く分若者の統率を任されて仕事をこなしてきたものの結局自分の手元に残ったのは僅かな蓄えと一生残るかもしれない傷だけだった。

「悔しいもなにも・・・俺たちはもともと誇れるようなことなんてしてなかったじゃねえか」

そう言われて付き添いの人は今度こそ言葉をなくし、立ち尽くしてしまった。
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