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ドラゴンと独立宣言の章
パーティでのあれこれ その2
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フランツは筋力こそ父親譲りだがその他はアレクシア同様頑健で才能に溢れている。ただ努力の人であるアレクシアと違い感覚でモノを見ているので出来ない事は全くできず、また本人のやる気と根気にはかなりの難がある。剣でも戦いなら勝てずとも試合ならアレクシアといい勝負ができるくらいの腕前があり、柔かい身のこなしで一対一の戦いを得意とする。
「ところでそこの女の人ってダークエルフの人?」
「そうだが」
俺が肯定するとフランツは顔をじっと覗き込む。
「可愛い人だね、伯爵の奥さんかな?」
「ああ、そうだよ。命より大事な妻の1人だ」
「ふふふ、ご馳走様だね」
そう言うとフランツは笑みを深めて配膳中の給仕からグラスを取り上げて乾杯と小声で言うとぶどう酒を呷る。
「奥方と妹の幸せを願って乾杯させてもらうよ、伯爵」
「好きにしてくれ、俺がやる事は変わらない」
「というと・・・聞いてもいいかな?」
「愛する女性を笑顔にする事さ。泣き顔が喜ばれるのは劇の中だけでいい、そうは思わないか?」
「ふふふ、思った以上に恥かしい回答が返って来た、本気・・・なんだろうね」
この程度で恥かしがっているようじゃフランツもまだまだだな。俺はどんな事があっても負けないつもりでいる。どんな困難も、どれだけ時間が掛かっても。
「愚問だ、俺はとことんまでやる。例えそれがどんなに苦しい事だったとしても・・・俺にこれほどのチャンスはもう二度と巡らない事くらいは解っているからな・・・」
「どういうことだい?」
「人生に大きなチャンスはそうそう巡ってこないってことさ、俺はこの一生を全力で生きる事に決めた。只それだけ、俺が彼女達を愛するのも、幸せにするのも、全て全力でやってみせる」
前の人生では子供はおろか妻さえ居なかった。激動の時代を生きたとは言えそれでも探せば相手が居なかったわけではない。つまりは俺の生き方が不真面目だったのだ。
「・・・伯爵の下に行くアレクシアがこれほど羨ましいと思った事はないよ。ボクも女に生まれるべきだったかな」
「よせ、俺は純粋な女性が好きなんだ。お前みたいな気分屋は好きじゃない」
「酷いな、ボクはこう見えても結構純情なんだよ」
おどけて笑うフランツ。よせ、俺はそんな立派な存在じゃない。ただの孤独な老人だったんだ。
「早いトコパーティが始まって欲しいな。飲まなきゃやってられん」
「褒めてるのにそんなに不機嫌にならなくたっていいじゃないか」
「気にしないで、殿下を責めてませんよ」
「突然敬語に戻るのが嫌だなぁ、まあいいけどさ」
俺の自己嫌悪をどう理解したのか王子殿下は拗ねたようにそう言うとグラスを給仕に預けてまた何処かへと歩き去っていった。人ごみに紛れて消えていく背中を追いかけていると不意に声が俺の耳に届く。
「殿下とはどういった関係で?」
「・・・古い友人といった所かな」
問いかけに良く考えずに答えてしまった。ハッとなって首を向けるとドルトが不思議そうな顔をして此方に話しかけてきていた。そういえば来いっていったっけ。
「此処に来たって事は腹は決まったのか?」
「ああ、俺もザンナルに行くよ。俺は俺の夢に生きたい」
「夢か、何をしたい?」
どうやら俺の読み通り彼は彼なりに鬱屈した人生を歩んでいたようで、同時にそれから脱却したいと考えていたようだ。
「出世して俺の領地が持ちたい・・・誰のものでもない俺の領地が」
「わかりやすいな、なら俺の部下にならないか?」
仕事の話は嫌いだが夢のある話は好きだ。一国一城の主となる事は誰しもが望む事だろう。リンザンブルは財務に長けた人間が多いと聞くから彼の仕事はいくらでもある。
「アンタの部下になる・・・?」
「そうだ、数万人規模の都市の財務を預かる仕事してみないか?あっという間にサマルよりも大きな金を動かす仕事につけるぞ」
「数万人・・・俺が・・・?若造の俺がそんなに大きな仕事を?」
流石に驚いたか。リンザンブル子爵は御歳18歳。大きな仕事なんかした事無いだろうが仕方ない。
貴族にも年功序列に近い考え方は無いわけではない。少なくとも経験の少ない若造に大役が回ってくる事など早々無いのが常である。だが俺はあえて彼にそう提案する。
「若いか若くないかは関係ない、やるかやらないか、出来るかできないかが問題だ。改めて問うぞドルト・リンザンブル、俺と一緒に大きな仕事をやり遂げて見ないか?報酬は君の腕次第だ」
「やる・・・やるさ、俺にできることをできるだけ」
差し出した手をドルトはがっちりと握った。契約成立だ。彼には俺個人と仕事をしてもらおう。
「アレクシア殿下との仕事と同時進行だ、厳しいが泣き言は聞かないぞ」
「ああ、わかってるさ」
相変わらずの低いテンションだが目に灯った火が雄弁に彼の意欲を見せてくれる。後は彼の若さと才能に任せよう。駄目でも若い人材が入ってくれるだけで有利だ、なにより彼には悪いが爵位も悪くない。
貴族の枠を一つ使いつつ身内で固める事が重要でもあり彼は若く貴族の中では発言力は大きくないが味方である事が大きいし実家の発言力もある。
「ところでそこの女の人ってダークエルフの人?」
「そうだが」
俺が肯定するとフランツは顔をじっと覗き込む。
「可愛い人だね、伯爵の奥さんかな?」
「ああ、そうだよ。命より大事な妻の1人だ」
「ふふふ、ご馳走様だね」
そう言うとフランツは笑みを深めて配膳中の給仕からグラスを取り上げて乾杯と小声で言うとぶどう酒を呷る。
「奥方と妹の幸せを願って乾杯させてもらうよ、伯爵」
「好きにしてくれ、俺がやる事は変わらない」
「というと・・・聞いてもいいかな?」
「愛する女性を笑顔にする事さ。泣き顔が喜ばれるのは劇の中だけでいい、そうは思わないか?」
「ふふふ、思った以上に恥かしい回答が返って来た、本気・・・なんだろうね」
この程度で恥かしがっているようじゃフランツもまだまだだな。俺はどんな事があっても負けないつもりでいる。どんな困難も、どれだけ時間が掛かっても。
「愚問だ、俺はとことんまでやる。例えそれがどんなに苦しい事だったとしても・・・俺にこれほどのチャンスはもう二度と巡らない事くらいは解っているからな・・・」
「どういうことだい?」
「人生に大きなチャンスはそうそう巡ってこないってことさ、俺はこの一生を全力で生きる事に決めた。只それだけ、俺が彼女達を愛するのも、幸せにするのも、全て全力でやってみせる」
前の人生では子供はおろか妻さえ居なかった。激動の時代を生きたとは言えそれでも探せば相手が居なかったわけではない。つまりは俺の生き方が不真面目だったのだ。
「・・・伯爵の下に行くアレクシアがこれほど羨ましいと思った事はないよ。ボクも女に生まれるべきだったかな」
「よせ、俺は純粋な女性が好きなんだ。お前みたいな気分屋は好きじゃない」
「酷いな、ボクはこう見えても結構純情なんだよ」
おどけて笑うフランツ。よせ、俺はそんな立派な存在じゃない。ただの孤独な老人だったんだ。
「早いトコパーティが始まって欲しいな。飲まなきゃやってられん」
「褒めてるのにそんなに不機嫌にならなくたっていいじゃないか」
「気にしないで、殿下を責めてませんよ」
「突然敬語に戻るのが嫌だなぁ、まあいいけどさ」
俺の自己嫌悪をどう理解したのか王子殿下は拗ねたようにそう言うとグラスを給仕に預けてまた何処かへと歩き去っていった。人ごみに紛れて消えていく背中を追いかけていると不意に声が俺の耳に届く。
「殿下とはどういった関係で?」
「・・・古い友人といった所かな」
問いかけに良く考えずに答えてしまった。ハッとなって首を向けるとドルトが不思議そうな顔をして此方に話しかけてきていた。そういえば来いっていったっけ。
「此処に来たって事は腹は決まったのか?」
「ああ、俺もザンナルに行くよ。俺は俺の夢に生きたい」
「夢か、何をしたい?」
どうやら俺の読み通り彼は彼なりに鬱屈した人生を歩んでいたようで、同時にそれから脱却したいと考えていたようだ。
「出世して俺の領地が持ちたい・・・誰のものでもない俺の領地が」
「わかりやすいな、なら俺の部下にならないか?」
仕事の話は嫌いだが夢のある話は好きだ。一国一城の主となる事は誰しもが望む事だろう。リンザンブルは財務に長けた人間が多いと聞くから彼の仕事はいくらでもある。
「アンタの部下になる・・・?」
「そうだ、数万人規模の都市の財務を預かる仕事してみないか?あっという間にサマルよりも大きな金を動かす仕事につけるぞ」
「数万人・・・俺が・・・?若造の俺がそんなに大きな仕事を?」
流石に驚いたか。リンザンブル子爵は御歳18歳。大きな仕事なんかした事無いだろうが仕方ない。
貴族にも年功序列に近い考え方は無いわけではない。少なくとも経験の少ない若造に大役が回ってくる事など早々無いのが常である。だが俺はあえて彼にそう提案する。
「若いか若くないかは関係ない、やるかやらないか、出来るかできないかが問題だ。改めて問うぞドルト・リンザンブル、俺と一緒に大きな仕事をやり遂げて見ないか?報酬は君の腕次第だ」
「やる・・・やるさ、俺にできることをできるだけ」
差し出した手をドルトはがっちりと握った。契約成立だ。彼には俺個人と仕事をしてもらおう。
「アレクシア殿下との仕事と同時進行だ、厳しいが泣き言は聞かないぞ」
「ああ、わかってるさ」
相変わらずの低いテンションだが目に灯った火が雄弁に彼の意欲を見せてくれる。後は彼の若さと才能に任せよう。駄目でも若い人材が入ってくれるだけで有利だ、なにより彼には悪いが爵位も悪くない。
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