ドラゴンになったので世界を救う為に国と跡継ぎつくります!

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ドラゴンと独立宣言の章

夜風に吹かれて

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事情を知らない若い騎士などは自分が住むことは絶対出来ないであろう豪華な装飾の凝らされた屋敷に入るときょろきょろとあたりを見渡しては自分が踏むカーペットの柔かさにすら驚いている。

「無邪気なもんだ」

恐らくは余り裕福ではない家の出身なのだろう。騎士は平民が立身出世を目指して向かう場所でもある。そんな彼らにとって貴族の屋敷などは初体験なのかもしれない。

「それでは明日の朝にまた領主館でお会いしましょう」

貴族邸に荷物を降ろした面々に翌朝合流する事を告げて俺はそそくさとザンナル帝国の首都へと向かう。
夜の内に簡単に状況を把握しておきたい。兵力は最低限な上に長旅で疲れている面々では満足には戦えない。それどころか俺が護衛するという事で官僚などの非戦闘員を含めた総勢500名という王族が赴任してきたにしてはずいぶんと少ない陣容である。

「無茶はさせられないか・・・まあ当然だわな」

騎士は貴族とアレクシアの護衛で手一杯だろう。そして彼らはその護衛対象がなにかバカをしでかさないかを見張る羅卒でもある。俺は部下と共にそんな彼らを守り続けなければならないのだ。首都へと降り立った俺はそんな事を考えながら呟く。かつて盛況であった首都は瓦礫の山と化し、亡霊でもでそうなほど不気味に静まり返っている。時折ふく風が建物を横切る時になる音がまるで泣き声のようだ。
実際俺が皇帝に謁見した時はよきにしろ悪きにしろ首都には人が沢山居て、あちこちと歩く人々がいたのだ。

「ぶっ壊した本人が寂しがるってのも可笑しな話だがな」

瓦礫と炭の山と化した一際大きな山は歴代のザンナル皇帝が増改築を繰り返して荘厳な見た目を見せてくれていた王宮である。持ち主と運命を共にした王宮は大火に包まれてここに灰燼に帰した。ザンナル帝国最後の血筋であるアルトリア王女も本来なら此処で瓦礫の一部と化していたのだろうが父親の愛情が勝ったのだろう。彼女は落ち延びて生き残ることとなった。本来なら死刑になってもおかしくは無いがサマルでは直接戦争に参加したわけでもないのでその線は少ないだろう。もしそうなったとしても俺はそうはさせないがな。

「きっと自己満足だ・・・だが彼女は生き残ったんだ」

天が彼女を救いたもうた命、きっと彼女にはなにかがあるのだろう。どんなに小さな意味でも彼女にはまだ為すべき事があるのだ。だから彼女は命を救われ、部下に囲まれて永らえ、そして決して殺すつもりのなかった俺の元へとたどり着いた。ザンナル王についてはぶっちゃけると人間的には嫌いではない。しかし彼は余りにも無力で膨れ上がった武力を扱いきれて居なかった。そして国民を売りに出して国体を維持しようする彼が頭にいる限り俺達に安寧はないと俺は確信していた。それにくわえて俺の国の人々は代償を求めていた。そして奴隷に落とされていた獣人達も。そしておれ自身も身内とも言うべきダークエルフの流した血の代償を求め・・・そして代償は支払われた。

「彼らはきっと俺達を憎むだろう。だが俺達には最早ザンナルにはなんの興味も無い・・・不思議なもんだ・・・滅ぼしたのに」

人の命、歴史ある街、そして国。俺は滅ぼした国の首都に立ち、思う。

俺は人間ではなく、そして人間の味方でもない。敵でなかっただけだ。だから大勢を助けられるであろう選択をせず、己の身内の不満と、発展の為に古い国を消滅させた。

「化け物と・・・俺の差はなんだ?」

この戦いで騎士団の人間は沢山死んだ。恐らく万に届くかもしれない数だ。獣人達は装備を整え、訓練を受けて良く戦った。それはもう圧倒的なほど。篭城する者は砲撃で潰し、森に逃げた者は階級の高い者から順番にダークエルフの妙技を受けて死亡した。斥侯と工作員により情報は筒抜けで、何処に誰が居て、何処に何があるのかも全て把握でき、木札の通信魔法でリアルタイムに指示と報告を受けていた。戦う前からほぼ全ての段階で勝利が確定していたのだ。

「犠牲者は七割・・・いや半分でも済んだのじゃあないか・・・」

後悔は付き纏う。しかしそれも過ぎたこと。過去を取り返すことはできない。

「旦那様、お体に障ります」
「アウロラ・・・」
「嫌な事でもありましたか?」
「お前は俺が化け物だと思うか?」
「何故?」
「わからん、だが俺は国を滅ぼしておきながらその国の最後の王女を殺せないでいる・・・国民とそれを守る騎士は何千何万と殺したのに」
「・・・怯えた目をした貴方に出会ったのはこれで二度目かもしれませんね」

端から聞いたら全く解らないであろう質問にアウロラはそう答えた。

「怯える・・・?」
「ええ」

そう言うとアウロラは俺の頬に手を添えて、じっと俺の目を見つめる。黒い瞳が俺の顔を映すほどまっすぐに。そこには叱られた子供のように情けないツラをしている俺がいた。

「そんな目をしている貴方を見たのはあの時・・・そう、貴方が私を抱いたあの時だった」

初めての欲望に突き動かされるままに彼女を抱いたあの時の事。彼女はそういった。
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