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ドラゴンと独立宣言の章
物語に現実というスパイスを載せて。
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「むかーし、昔の話だが・・・ルマサンガの武勇伝は多岐にわたり、扱うものも多岐に渡った」
教室代りに使っている大部屋はあっという間に満員になり、子供たちの視線が一点に俺に集まる。
「ルマサンガはまさしく不世出の・・・つまりは滅多に、本当に滅多に現れない英雄だった」
無敵の戦士ルマサンガ、騎士の中の騎士、彼を人々はそう呼んだが・・・。
「ある日、彼を快く思わない一人の悪党に寄ってルマサンガは絶体絶命のピンチに陥った」
芝居がかった調子でそう言うと子供たちは心配そうに俺を見る。物語はいつも劇的に、唐突に始まるものだ。
「ルマサンガは実の息子を人質に取られ、悪党の屋敷へと単身で向かわないと行けなくなった」
ルマサンガは悪党に招かれた屋敷で息子の解放の条件として難題を突き付けられた。
「それは・・・」
「それは?」
子供たちは俺の言葉に固唾をのんで続きを待つ。
「息子の頭に乗せた果物を弓で撃ち落とせとの要求だった、もしも狙いが外れるようなら命はないとも」
その要求に子供たちから小さく悲鳴が上がる。当然だろう。騎士が戦いの為に使う弓だと注釈しておいたのだ。
俺が倉庫から現物の弓を持ち込んだのでその効果も大きい。
「それくらい大きかったの?」
「もちろん、矢じりはもっと大きかったと伝わっている」
規格らしい規格はないがリットリオでは大型獣の狩猟用の矢は中々手に入らないので対人か、鳥用だ。インパクトに欠けるが鈍く光るその矢じりを見るだけで緊張感は高くなるだろう。
「外れれば自分を、狙いが狂えば息子の命を失う絶体絶命の事態の最中一人、ルマサンガは冷静に、神に祈った。
」
どうか、この矢が無事に果物に当たり、自身と息子の命を救いたまえと。そして彼は祈りを籠めて弓を引いた。
「ど、どうなったの?」
子供たちが恐る恐るといった様子で尋ねる。
「矢は空を切り裂いて飛び、見事過たず息子の頭に乗った果物を撃ち抜いた。その姿に悪党は悔しさと共に恐怖を覚えたに違いなかっただろう」
「なぜ?」
「ルマサンガの手にはもう一本の矢が握られていたからさ、それは彼の強烈な意思表示でもあった。『家族の身に何かあれば絶対に許さない』とね」
俺がそう言い、弓を構える。そして弦を引いて射貫くような仕草をすると子供たちの興奮は最高潮だ。
「かっこいい!」
「そうだろうそうだろう」
『アンタたちーっ、もうすぐご飯だからねー!』
『今日はおじさんが来たからすぺしゃるだよー!』
「すぺしゃるだって!」
「何が出るんだろうね?」
大盛況の中で話はお開きになり、ヒューイと食事当番たちの号令で皆が食堂へと移動していく。正確なリズムで生活しているのはきっと良いことだろう。俺もその波に交じって移動する事に。
「おじさんも早く!」
「慌てるなよ、食事は逃げないだろ」
せっかちな子供たちが俺を食堂へと引っ張っていく。手を引いて急かす小さな子供たちとそれを見て苦笑する年長組、ほほえましいもんだ。
「やっときたわね、今日は腕によりをかけたからたくさん食べて頂戴」
すっかり院長が板についたヒューイ。体の線はやや細くなったがその表情には深みが増し、人間的な大きさはさらに大きくなったのではなかろうか。彼に此処を任せたのは間違いなく正解だったのだろう。
「おお、旨そうだ」
メニューはリットリオでは珍しいステーキ。シチューに白パン。野菜は自家製か、ドレッシングもある。とかしたチーズか?蒸かした芋なんかもあるな。確かに豪勢だ。
「さて、食事の挨拶はどうする?俺が音頭を取っていいのか?」
着席は全員。子供たちは俺を見ている。なんだか照れ臭いな。
「もちろんよ、あんたがやらなきゃ誰がやるの?」
「そうか、ならば遠慮なく」
俺は一同を見渡して頷くと手を合した。食卓を囲む食事の挨拶はやっぱりこうでなきゃな。
「それでは・・・手を合わせて、いただきます!」
『いただきまーす!』
作ってくれた人、そして全ての食材、その恵みに感謝して。そういうべきだと俺はいつしか教わった。それはとても理にかなった、というよりなんだか深く考えなくても納得のいく決まり事だと思う。
「うーむ、どれにしようか迷うな!誰がどれを作ったんだ?残さず食べるぞ!」
思わず笑みが浮かぶ。みんなもそれにつられて笑顔になる。うれしい事だ。尊い事だ。俺には、とてもとてもそう思う。
「このお芋は私が蒸かしたの!美味しそうでしょ」
「たとえ生でも俺は腹を壊さないから安心しろ、美味しく食べるさ」
「ひどーい!」
子供たちとそんな冗談を交わしながら俺は食事を楽しむ。午後の不機嫌など嘘のように楽しいひと時だった。
教室代りに使っている大部屋はあっという間に満員になり、子供たちの視線が一点に俺に集まる。
「ルマサンガはまさしく不世出の・・・つまりは滅多に、本当に滅多に現れない英雄だった」
無敵の戦士ルマサンガ、騎士の中の騎士、彼を人々はそう呼んだが・・・。
「ある日、彼を快く思わない一人の悪党に寄ってルマサンガは絶体絶命のピンチに陥った」
芝居がかった調子でそう言うと子供たちは心配そうに俺を見る。物語はいつも劇的に、唐突に始まるものだ。
「ルマサンガは実の息子を人質に取られ、悪党の屋敷へと単身で向かわないと行けなくなった」
ルマサンガは悪党に招かれた屋敷で息子の解放の条件として難題を突き付けられた。
「それは・・・」
「それは?」
子供たちは俺の言葉に固唾をのんで続きを待つ。
「息子の頭に乗せた果物を弓で撃ち落とせとの要求だった、もしも狙いが外れるようなら命はないとも」
その要求に子供たちから小さく悲鳴が上がる。当然だろう。騎士が戦いの為に使う弓だと注釈しておいたのだ。
俺が倉庫から現物の弓を持ち込んだのでその効果も大きい。
「それくらい大きかったの?」
「もちろん、矢じりはもっと大きかったと伝わっている」
規格らしい規格はないがリットリオでは大型獣の狩猟用の矢は中々手に入らないので対人か、鳥用だ。インパクトに欠けるが鈍く光るその矢じりを見るだけで緊張感は高くなるだろう。
「外れれば自分を、狙いが狂えば息子の命を失う絶体絶命の事態の最中一人、ルマサンガは冷静に、神に祈った。
」
どうか、この矢が無事に果物に当たり、自身と息子の命を救いたまえと。そして彼は祈りを籠めて弓を引いた。
「ど、どうなったの?」
子供たちが恐る恐るといった様子で尋ねる。
「矢は空を切り裂いて飛び、見事過たず息子の頭に乗った果物を撃ち抜いた。その姿に悪党は悔しさと共に恐怖を覚えたに違いなかっただろう」
「なぜ?」
「ルマサンガの手にはもう一本の矢が握られていたからさ、それは彼の強烈な意思表示でもあった。『家族の身に何かあれば絶対に許さない』とね」
俺がそう言い、弓を構える。そして弦を引いて射貫くような仕草をすると子供たちの興奮は最高潮だ。
「かっこいい!」
「そうだろうそうだろう」
『アンタたちーっ、もうすぐご飯だからねー!』
『今日はおじさんが来たからすぺしゃるだよー!』
「すぺしゃるだって!」
「何が出るんだろうね?」
大盛況の中で話はお開きになり、ヒューイと食事当番たちの号令で皆が食堂へと移動していく。正確なリズムで生活しているのはきっと良いことだろう。俺もその波に交じって移動する事に。
「おじさんも早く!」
「慌てるなよ、食事は逃げないだろ」
せっかちな子供たちが俺を食堂へと引っ張っていく。手を引いて急かす小さな子供たちとそれを見て苦笑する年長組、ほほえましいもんだ。
「やっときたわね、今日は腕によりをかけたからたくさん食べて頂戴」
すっかり院長が板についたヒューイ。体の線はやや細くなったがその表情には深みが増し、人間的な大きさはさらに大きくなったのではなかろうか。彼に此処を任せたのは間違いなく正解だったのだろう。
「おお、旨そうだ」
メニューはリットリオでは珍しいステーキ。シチューに白パン。野菜は自家製か、ドレッシングもある。とかしたチーズか?蒸かした芋なんかもあるな。確かに豪勢だ。
「さて、食事の挨拶はどうする?俺が音頭を取っていいのか?」
着席は全員。子供たちは俺を見ている。なんだか照れ臭いな。
「もちろんよ、あんたがやらなきゃ誰がやるの?」
「そうか、ならば遠慮なく」
俺は一同を見渡して頷くと手を合した。食卓を囲む食事の挨拶はやっぱりこうでなきゃな。
「それでは・・・手を合わせて、いただきます!」
『いただきまーす!』
作ってくれた人、そして全ての食材、その恵みに感謝して。そういうべきだと俺はいつしか教わった。それはとても理にかなった、というよりなんだか深く考えなくても納得のいく決まり事だと思う。
「うーむ、どれにしようか迷うな!誰がどれを作ったんだ?残さず食べるぞ!」
思わず笑みが浮かぶ。みんなもそれにつられて笑顔になる。うれしい事だ。尊い事だ。俺には、とてもとてもそう思う。
「このお芋は私が蒸かしたの!美味しそうでしょ」
「たとえ生でも俺は腹を壊さないから安心しろ、美味しく食べるさ」
「ひどーい!」
子供たちとそんな冗談を交わしながら俺は食事を楽しむ。午後の不機嫌など嘘のように楽しいひと時だった。
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