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やばいかわいい
しおりを挟むきょうは王宮に参上する日。お嬢さまは第二王子ルーク殿下の婚約者。
お妃教育なるものがあって、王太子殿下の婚約者ルイーズさまといっしょにマナーのお勉強。
他国との交流とか、親善とかいろいろある。後ろに立って聞いているだけのわたしも、おかげさまでちょっとだけ賢くなった。
シャーロットお嬢さまは、週に二回ほどだけれどルイーズさまは週に四回もある。
王太子妃たいへん。王族たいへん。
まずはドレス選びから。
「ルイーズさまは何色をお召しでしょうね」
聞いてみる。色がかぶらないように気をつけないといけない。
「うーん」
それっきりだまりこんでしまうお嬢さま。
ほらほら! 自分で考えないと!
「この前はグリーンでしたよねぇ」
「そうね。そうだったわ」
深い森のような、濃い緑のドレスだった。
「でしたら、きょうはちがうお色でしょうねぇ」
「!」
ひらめいたらしい。
「きっと青だわ!」
ルイーズさまは、寒色系を好まれる。
「そうですね。きっとそうです」
するとお嬢さまは、ぱっと笑う。正解を得て、目がキラキラする。
やばいかわいい。
「じゃあわたしはクリーム色にしようかしら」
「それがいいと思います」
わたしもにっこりと笑う。
黄色からクリーム色のドレスを三着ばかりならべる。
「どれにしましょう?」
「うーん」
お嬢さまはしばらく考える。
「右のにするわ」
いちばん淡いクリーム色を選んだ。いいと思います。
日中のお勉強会なので、さりげないネックレスとイヤリングを選ぶ。髪はハーフアップに結って出来上がり。
髪飾りはルーク殿下からのプレゼント。繊細な銀細工に小さなルビーが散りばめられている。
派手じゃないけれどステキ。お嬢さまによく似合う。
やばいかわいい。
ルーク殿下も鼻の下をのばすだろう。
ルーク殿下もさることながら、わたしもでれでれと鼻の下をのばすのはある意味しかたがない。
アメリアは十八才だけれど、中身は五十四才のおばさんなんだから。
自分の子どもよりもずっと年下。
十六才。高校生だもの。少々たよりなくても危なっかしくてもしょうがない。
だってJKだもの。
今のわたしだったら、当時の娘にもさぞややさしくできただろうに。目くじらばっかりたててたな。反抗されてあたりまえだ。
どうせなら転生じゃなくてタイムリープがよかったな。
今なら百点の子育てができそう。
前の世界をまったく思い出さないわけじゃない。
夫や息子はどうしているかな、とか。ごはんはちゃんと食べているだろうか、とか。掃除や洗濯はちゃんとしているだろうか、とか。
あれ? 家事ばっかりだ。
……家事代行サービスで足りるんじゃない?
そもそも、わたしは死んだのかな。
死んだとして、残った家族は悲しんでくれたのかな。
なんとなく家事をする人がいなくなって困っているだけじゃないのかな。
そんな気がする。
コンビニ弁当のカラが散乱する台所。うわ。
最後に会話らしい会話をしたのはいつだったろう。
ふたりで出かけたのはいつだったろう。
子どもたちが小さい頃は、家族でたくさん出かけた。動物園、水族館、お花見、海水浴、おなじみのテーマパークももちろん、諸々の遊園地。
旅行も行った。海外はないけれど沖縄とか北海道とか。
子どもたちが中学生になれば、もう親と出かけることはなくなる。それぞれ友だちとカラオケだのショッピングだのと出かけるくせに、わたしとは買い物すらいっしょに行ってくれない。
気がついたら出かけるのなんて、ひとりで買い物に行くくらい。夫とふたりで行楽にも旅行にも行かない。
……行ってもつまらなそう。年々頑固おやじになっていくし、二言目には仕事だ、忙しい。
そのくせ、休日は家でごろごろ。
じゃまだ。昼食を作ってやらなくちゃいけない。
めんどうだ。
夫はあと三年で定年退職。そのあとどうするつもりだったんだろう。
一日中ずっと家にいられたらいやだな。できればもう少し先まで働いてほしい。っていうか、家にいてほしくない。
今だって休日が苦痛なんだから。
働かないのなら、趣味でもなんでもいいからどこかに行ってほしい。
釣りとか、朝早く出かけて夜まで帰ってこないなんていいな。
あ、わたし魚きらいだった。釣果を持ってこられたら困る。
じゃあ、撮り鉄とか。日本全国駆け回っていればいい。
愛人作ってそっちに入り浸ってもらってもけっこうですよ。
……末期だ。
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