21 / 49
お嬢さま、待っててね
しおりを挟むメアリ、どうした。なにか弱みでも握られているんだろうか。それで言いなりになっているのか?
わたしの頭がフル回転する。
いま現在拘束されているのは、目の前のエバンス侯とシャーロットお嬢さま。
ルーク殿下。たぶんジョージ・クラークも。王妃さま。ルイーズさま。たぶんカーソン公も。逃げていたらいいけれど。
自由なのはヘンリー卿。あれ? ひとりだけ? まずいんじゃない?
うちのおとうさまはどうしただろう。
動けないのは国王陛下と王太子殿下。ふたりの容態がイマイチわからないけれど。
わたしがどうにかして外に出られれば。そしてヘンリー卿と接触できれば、事態を打開できる?
さて、まずはこの部屋を出ないとな。
わたしはそうっと、そうっと立ち上がった。お嬢さまをジェームズの手から解放したいのだが。
方法その一、こいつらを振り切って走って逃げる。
無理。お嬢さまを置いてけぼりにはできない。それに見張りもいるし。
方法その二、なにか理由を見つけて外に出る。
これは確実な方法だが、理由ってなんだ。こいつらを納得させる理由があるのか?
ジェームズはたぶんチョロい。すぐに騙される。グレイ伯も。
問題はブライス公。こいつは簡単じゃない。疑い深そうだもの。どうしよう。
ふと、エバンス侯と目が合った。ああ、さっき殴られたところが赤く腫れている。でも、その目はあきらめてはいなかった。
「侍女に使いをたのみたい」
エバンス侯がそう言った。
「なに? 使いだと?」
ブライス公のほほがひくりと引きつった。
「ああ、屋敷へ使いに行ってもらいたいのだ。婚約の件で話し合いがあるから帰りが遅くなると。でないと家の者が心配する」
なるほど。そういう理由で外に出ればいいんだな。
「わたしはまだしも、シャーロットの帰りが遅いと迎えが来るかもしれない。事を荒立てなくないのだろう?」
ブライス公はしかめっ面でしばらく考えていたが
「まあ、いいだろう。侍女に用はない」
と言った。
ラッキー。侍女ごときがなにもできないと思ったんだろうな。
ただの十八才の小娘ならそうだろうが、おばさんはいろいろできるよ。長年培った悪知恵に、自由の利く若い体。なめんなよ。
わたしは、エバンス侯に「うむ」と力強くうなずいた。
エバンス侯も「うむ」とうなずいた。
「ア、アメリア」
お嬢さまの目がとっても不安そうに揺れている。わたしも不安ですが。
「お嬢さま、すぐにもどってきます。もうちょっとだけがまんしてくださいね」
わたしはそう言うと、これ以上ないくらいの険をこめてジェームズを睨んだ。
「お嬢さまになにかしたらゆるさないから」
ジェームズはふんっと鼻で笑った。
「侍女ごときが偉そうに」
いまだにお嬢さまから放さない彼の手を、べしっと叩いてやった。
「痛っ」
ちょっと手が緩んだすきに、お嬢さまはするりとジェームズの手を抜けだして、エバンス侯の元へ走った。エバンス侯ががっちりとお嬢さまを抱きかかえた。
お嬢さまは、やってやりました。みたいな顔でふんすと鼻を鳴らした。
ごりっぱです、お嬢さま。
「わたしはだいじょうぶよ。こんなやつ平気だもの! アメリア、気をつけて行ってきて」
逃げられた上に、こんなやつ、と言われたジェームズは真っ赤になって鼻を膨らませた。
ざまあ。
「では行ってまいります」
「たのんだぞ」
「はい! おまかせください!」
意気込んで廊下に出たものの、ブライス公の命令で衛兵がひとりついてくる。
これ、車寄せまでついてくるのかな。面倒だな。
「ひとりで行けますからだいじょうぶですよ」
階段を下りて一階に着いたところで、ためしに言ってみた。
「そうか、ならば気をつけて行け」
「はい、ありがとうございます」
チョロかったな。たぶんブライス公は確実に馬車に乗せて王宮から出せ、という意味で送らせたんだと思うが。
まあ、いいや。ラッキー。去っていく彼の背中を見送る。
さようなら。ばいばいきーん。
一階はいまだにざわついていた。その喧騒に紛れて中央の大階段を上った。
さて、ヘンリー卿はどこだろう。
70
あなたにおすすめの小説
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる